第12話 シャランラ!
時は、少し遡る。
裏路地の店へと向かっていた。
中華街を潜りぬけた、その先に。
「マスター、いつものを」
「……どうぞ」
それはいつも決まっていた。
大小変わらず、事件を解決したあと。
刑事、鷹野山がこよなく愛していた。
「ああ、うまいなあ」
「……ありがとうございます」
bar、魔の巣。
そこは、彼にとって、唯一落ち着けるところだった。
時おり、妙なサラリーマンがやってきては。
どーん!m9(^д^) とかやっていても、気にせずに。
サングラス越しに、チビチビと呑みつつ。
懐から取り出した、煙草に灯をともした。
愛用のジッポで、ぷかぷかと、煙を吐いていた。
「あちらにも」
「了解しました」
ただ、ひとり。
カウンターの端っこにいた。
悲しげな表情を浮かべていた。
そんな彼女のもとへ、しゅっとカクテルがたどり着いた。
「え──、頼んでいませんが?」
「あちらからのサービスです」
そうなるのは、分かっていた。
敢えて、ダクエルは懐に飛び込んでいた。
危険を犯しているのは、分かっていた。
「君のために」
そのカクテルは、カルアミルクだった。
それはダクエルが、もっとも大好きだったカクテルだった。
「やるじゃんさ……」
ただ──、それだけでは、心は揺るがない。
彼女は、かるく会釈してから、計画を実行していった。
「ちょっと……早かったかな?」
指定の場所に現れた。
いつもより、気合い十分だった。
非番というのもあって、さらに磨きがかかっていた。
「んんっ!」
手鏡を見ながら、曲がっていたネクタイを、閉め直した。
何枚もあったサングラスから、いちばん良いのを選んだ。
それは、久しぶりのデートだった。
「お待たせしたかしら?」
「いや、そんなことないよ」
とにかく、久しぶりのデートだったから。
相棒のユージにも、部下のトオルにも、耳年増のカオルにもぜったいにバレないようにしていた。
「さあ、行こうか」 「うん♪」
さりげなく繋がれた──、手のひらの温度を確かめていた。
あまりにも久しかった、そのぬくもりに、絆されていった。
『いくら、優秀な刑事といっても、こんなものか』
ダクエルは内心、ちょろいと感じていた。
ゴレムが、あっさり捕まったのは、いったい何だったのかと。
このままいけば、いい。
すべて、計画通りだ。
うまく、ことは運べる。
いちばん厄介だったのを、排除できると。
そう、軽々しく、思っていたら───
「あら、タカさん」
「おい、タカ! そりゃないだろ?」
「タカさんも、デートだったんすね?」
あまりにも予想外な出来事に驚いたのは、ダクエルだった。
いろいろと追い付かない──、ひどいパニックに陥ってしまった。
もう、分からない。
やるしかない。
「シャランラ!」
彼女──、ダクエルが、そう言い放つと。
魔法が放たれた。
どうでもよくなったから、実力行使することにした。
「「「ぐえっ!?」」」
その場に居合わせたカオルとユージとトオルは、不可思議な現象に捕らわれてしまった。
目に見えない、鎖に雁字搦めにされていた。
そして、ついでに。
「へいへいへへいっ。シャランラ!!」
ダクエルが発した魔法によって、カオルとユージとトオルと、真凜ちゃんでさえ身動きすらできなかった。
ただ──、その状況に、タカは理解できないでいた。
「ええっ? メグちゃんっ!?」
それは、ダクエルの本名でもあって、ただの仮名でもあって。
彼女が、そんな魔女っ娘になるまでの、黒歴史でもあった。




