第11話 レイニーブルー。
「きさま、はやく、立たぬか!!」
「もう、これ以上は勘弁してやってください!」
「ならぬ! 我が一族に弱さなどあってはならぬのだ!!」
それはずっと昔の──、遠い記憶が甦っていた。
金剛石の巨人族の──、長男としての幼い子供の頃を。
そのなかでも、彼ら一族は、最強の一角を担っていた。
かつて、ゴレムはみたことがあった。
父親が、偉そうなひとと、肩を並べていたのを。
あとで知ったが、総理大臣ともため口だったらしい。
そのせいだったのか、どうかは分からない。
じつに、父親は厳格だった。
これ以上はないぐらいに、ゴレムは叩きのめされていた。
それは、母親が真剣に心配してしまうほど。
「ええいっ!! お前は、甘やかすでないっ!!」
「きゃあっ!?」
ゴレムを庇う母親の身体が、勢いよく宙を舞った。
そして、鈍い音と、鮮血が降り注いでいった。
「母上っ!?」
「心配などしている場合か!!」
父からの容赦ない鉄拳がゴレムに叩きつけられる。
その瞬間に──、何かがはじけた。
まだ小さかったその身体は、突如、変貌した。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……」
目の前には、ただの骸となっていた父の姿があった。
目の前には、ただの骸となっていた母の姿があった。
気づけば、暴走していた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
たぶん、一生分の涙を流しただろう。
それから、ゴレムは嬉し涙すら流すことなどなかった。
金星界という組織で、魔王様に会うまでは。
「「「トリプルアタック!!!」」」
「ぶげらっ!?」
たったその一撃で、走馬灯のように。
あの頃が甦っていた。
辛い記憶が呼び起こされてしまった。
危うく、意識を失いかける。
「ごふっ……!?」
そのまま、倒れてしまえば楽だっただろうに。
強靭な両足が、それを許さなかったのだ。
まだやれると──、信じさせてくれた。
「さすがに、一発じゃあヤレないか」
「じゃあ、もういっちょ、イクぜ?」
「コンボっすね?」
ゴレムは、いままでにないほど、力を込めた。
全身は、まるで──、夜を朝に変えてしまうほど。
ギラギラと光輝いていく。
「かかってこいやああああああああああああっ!!」
───、目覚めたのは、留置場のなかだった。
「まあ、よくやったほうだよ、お前さんは」
それは、となりの部屋から聞こえた。
ゴレムの脳裏に、直接、語りかけてきた。
「あいつらは、あぶない刑事だからな?」
それは確かに──、ゴレムは身をもって分からされた。
「ゴレムは、やっぱり、馬鹿さ」
夜の工場地帯──、華々しい夜景を背にして、ダクエルは鼻で笑っていた。
「奴らを完璧に仕留めるには……」
ダクエルは、ひっそりと、計画を練っていた。
確実に、あの三人を仕留めるために。
ただ──、予想外の参加者は、そのなかにはいなかった。
「ねえ、タカさ~ん♪」
「おう。カオルか」
湾岸署のなかでも際立つほどの美女、カオルは刑事課のなかでも、目立っていた。
女性刑事としてというよりは、色モノ扱いされていた。
とにかく、いつも、誰にでも尻尾を振っていた。
キャンキャン騒がしかった──、スピッツの犬種だった。
「ねえ、ねえ! また挙げたんだって!?」
とにかくカオルは、耳に自信があった。
たとえ、噂話でも、片っ端から吸収できた。
それが利益になると、確信していたからだった。
「ねぇ、タカさ~ん」
「なんだよ、しつこいなあ」
「これは女の勘なんだけど……」
カオルの、女の勘は、やがて当たることになった。
「きゃははははははは!!」
「いや、マジでヤバいぜ!?」
「わたしの魔術から、逃れられたヤツなんていないさ!!」
両手をかざしただけなのに、次々と魔法が放たれた。
ダクエルが唱えた魔法が、次々と襲いかかっていった。
「こんなの、反則じゃあないかよっ!?」
反撃なんてできなかった。
ただ、愛用のバイクに股がって、逃げ惑うことしかできなかった。
「ほうら、まだまださ!!」
それは雷撃や、火炎や、はたまた高濃度のエネルギーが、バイクに襲いかかっていた。
「カオルちゃんっ、恨むぜ!?」
それはまさに襲撃だった。
知性派のダクエルによる、緻密な計画であった。
金星界の一角。
ゴレムが、あっさりと捕まってしまった。
湾岸署に、あっさりと捕まってしまった。
それは、魔王様にバレてはいけなかった。
取り返さなくてはならない。
ダクエルがやらなくてはならない。
もう、誰にも任せられない。
とりあえず、ひとりずつ、片付けないといけない。
何百枚もの資料をチェックしながら。
目標を定めた。
「高野山か……」
グラサンがよく似合う刑事をターゲットにした。
ただ、予想外だった。
ダクエルは、心底、悔やんでいた。
「タカ!」 「タカさん!」
「ユージ! トオル!!」
湾岸署の厄介者、カオルの予言とは、裏腹に。
三人の警察官が、ダクエルの野望を阻止していた。
そもそも──、そんな名前ではなかった。
ダクエルなんて名前ではなかった。
ダークエルフだという種族というだけだった。
魔王様に、拾われたことで、ただ甘んじていた。
「今日からお前は、ダクエルだ」
その日から、両親から貰った名前を捨てた。
金星界という、組織に入った。
特性を生かして、ようやく幹部として認められた。
それが今日、ついにおわる。
ネオトキオという場所で、ダクエルとしての生きざまがかわろうとしていた。
「なんか──、シリアスすぎない?」
トオルのつぶやきは、じつに正しかった。
やがて──、雨粒が落ちてきた。
ただ──、冷たかった。
レイニーブルー。
もう、終わったはずなのに。
まぼろしだったら、よかったのに。
彼女には、いつも、冷たい雨粒が降り注いでいた。




