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闇夜の護衛  作者: 彩霞
第七章

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第109話 トレント商工会

   ☆


 アルドがエリベルトを抱えて窓から出て行ったあと、ソフィアたちも火事になった部屋から脱出した。部屋と廊下の辺りでは消火活動が進められていたが、急いで部屋の中の客を救出しなければならないと思った宿屋の従業員たちが、外にはしごを設置してくれたため、それを伝って全員下りたのである。


(助かった……)


 ソフィアは、宿屋の従業員が用意してくれた、避難者用の天幕の中で腰を下ろしほっと息をついた。


 ユーインとアルフィを抱えて外に出ることはできたとしても、怪我をしている身である。無事に下へ行けるか不安があったのと、子どもたちを避難させてももう一度戻ってアレクシスを脱出する際に、傷口が大きくなることも考えられたので、はしごを用意してくれていたのはソフィアにとってありがたかった。


(それにまだ仕事をしなくちゃならないからね。ここで無駄に力を使うわけにはいかない……)


 ソフィアは右の脇腹わきばらさった短剣を引き抜くと、服をめくり、念のために腹に巻いていた布を外して傷の状態を見た。ぱっくりと開いた皮膚からは、たらたらと血が流れている。彼女はそれを右手で押さえると小さくため息をついた。


(布を巻いていたお陰で傷は深くはないな。だけど、左の腕はわないといけないな……。時間のないときに何をやっているんだか)


 肩にも銃創じゅうそうの傷があるため、消毒してもらわないといけないななどと思っていると、天幕の外からこちらに近づいて来る足音があった。大人一人と子ども二人の音である。それだけでソフィアは誰だかすぐにわかった。


「レイグス、怪我けがは⁉」


 血相を変えて天幕に入ってきたのは、予想通りアレクシスたちである。ソフィアのことを心配していたのだろう。

 一方のソフィアは、彼らの無事な様子を見てほっとした。見たところ特に怪我をしたところはないようである。


「大したことはない」


 心配させないように平然と言うが、アルフィがソフィアの傍に座って震える声で言った。


「血が、出ています……。ごめんなさい、僕のせいで……」


 彼は血が流れるソフィアの脇腹を見ていた。天幕の中は一つのランプしか置いていないので薄暗いが、怪我をしていることは見えるらしい。きっと最後に放たれた短剣が自分をねらったものだということに気づいてしまったのだろう。

 ソフィアは彼が自責しないように、努めて優しい声で否定した。


「アルフィのせいじゃないよ。短剣を投げてきたあっちが悪いんだ。それに腹の周りには布を巻いていたから、こう見えても大したことないんだよ。だから気にしなくていい」


 アルフィはきゅっと唇を結んで涙をこらえると、こくりとうなずいた。


「はい……」


「それよりあんたたちは? 怪我は? それから煙は吸っていないか?」


 ソフィアが尋ねると、ユーインが固い表情を浮かべて首を横に振る。


「少し吸ってしまいましたが、それほどひどくはありません」


「そうか、良かった」


 ソフィアが答えると、アレクシスが彼女の傍に腰を下ろし心配そうに顔をのぞいた。


「本当に大丈夫なんだろうな?」


 ソフィアは数秒彼の顔をじっと見たあと、そっと顔をらした。


(久しぶりに見た……)


 アレクシスは優しい。昔からソフィアが怪我をすると心配してくる。

 リョダリでは稽古けいこをしてりむいたり、打撲だぼくしたりすることがしょっちゅうなので、大人も子どもも気にしない。


 だが、彼は違う。「リョダリだから問題ない」といっても、変わらず気に掛けるのだ。


 ただ、心配させてしまうことに罪悪感を感じる部分もあって、嬉しくもある一方で少し苦手でもある。

 ソフィアは心に久しぶりに現れた複雑な感情を、本を閉じるようにしまい、彼の問いに答えた。 


「ああ。それよりジェームス、悪いが警官に金を渡して私たちをすぐに解放してくれるように頼んでくれ。調べた情報はあとで『トレント商工会にいるマックス・コナーという男に電話で伝えてくれ』と言うんだ」


 ソフィアの指示に、アレクシスは驚くような、はたまた戸惑うような声を出した。


「ええ? 怪我をしているんだから事情聴取を受けながら、ソルドーで休んだほうがいいんじゃ……。それにコナーさんも巻き込んじゃうわけ? いいの?」


 マックス・コナーは、歴史ある商家の一つコナー家の当主である。


 コナー家は代々リョダリとの繋がりのある歴史ある商家の一つで、マックスは二十年ほど前に家を継いだ十代目だ。

 外国から取り寄せる物珍しいものを貴族に売っており、信頼性も高い。

 ゆえにトレントにある商工業をまとめる「トレント商工会」の十二席ある役員の役割も担っている。


 トレント商工会は、その町の商工業の店をたばねる役割もあるが、町の店の信頼性を高めるために不正をしていないかの抜き打ち検査なども行う。自分だけ利益を得ようとするとトレントにある店の質を落とすことになるため、そうならないように見張っているのだ。


 そしてもう一つ、トレント商工会には様々な情報を集める「情報機関」が存在する。トレントにある店に不利益なことが起こらないように、ほかの町の現状などを独自に調べているのだ。

 だが、町の状況を調べる場合、店のことだけを調べるということにはならない。必ず他のことも付随ふずいしてくる。


 ソフィアはそれを利用して、マックスに話を聞いてもらおうとしているのだった。

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