第110話 これからのこと
「元々リョダリに連絡を入れるために、マックスのところへは行くつもりだったんだ。だからどちらにせよ、細かいことは伏せてもある程度のことは話さなければならなくなるとは思っていた。マックスも聞いて来るだろうしね。何しろ私が直接帰らずに、わざわざ彼にお願いしてリョダリに連絡を入れるんだから」
ソフィアはトレント商工会に出入りしたり、コナー家に行ったりすることはあるが、そこからリョダリへ連絡を入れることは滅多にない。彼女がトレントに来たときに、特殊な連絡手段を使ってまで、仲間を呼ぶような出来事がないからである。
「そうかもしれないけど、今度はコナーさんが危険な目に合うんじゃない……?」
スビリウスは世間に自分たちの存在が知られないように行動している。そのため普段は目立たないように動くが、事によってはそうならないらしい。
ユーインやアルフィのことがいい例である。彼らのことは「必ず回収する」ことが目的となっているからか手段を選んでいない。
今回の宿屋の襲撃も、人数を増やしてきたり、宿屋の従業員を巻き込んだりしている時点で目立った行動を起こしている。挙げ句の果てには火事を起こした。
要するに「目立ったとしてもユーインたちを回収することが優先」ということだ。ゆえにユーインたちを回収することができなければ、マックスが危険に晒される可能性は十分にある。
しかし、今のソフィアたちにはこれしか方法がないのも事実だった。
「君が心配するのは分かる。だが警官の事情聴取を見逃してもらうには、それ相応の地位の証明が必要になる。君のことを公にできれば話は簡単だが、そうはいかないだろう?」
ソフィアがアレクシスのほうに顔を向けると、彼は少しだけ目を見開き、そのまま項垂れた。膝の上に置いた拳が強く握られる。
「そう、だね……」
弱々しく呟くので、ソフィアは苦笑して言った。
「別に責めているわけじゃないぞ」
「分かっているよ。分かっているけど……、もう少し俺がちゃんと準備をしていたらこうはならなかったのかなって……」
そう言って、アレクシスはため息をついた。
闇取引に潜入し、状況を調べたり人助けをしたりする場合、自分の身分は徹底的に隠さざるを得ない。それはもちろん、自分たちを守るためである。
万が一闇取引のことを調査していると気づかれた場合に、表の地位のことを知られていたら弱みになるからだ。
よって、身分を隠すことにより表の生活を守ることができるが、一方で潜入捜査の間は普段使っている特権を使えなくなるという欠点も生まれてしまう。
普段であればグロリア侯爵と示すだけで、待遇も良くなるし、さまざまな面倒な手続きも地位を示しただけで不要となる。
しかし、今はそれが使えない。
また、ここまで大きな火事になれば記者も黙っていないだろう。
取材などであの部屋にいたのがアレクシスだと知られれば、「グロリア侯爵家狙われる」という見出しが付くのも想像がつく。そうなればスビリウスにも情報が確実に漏れ、彼の身分を逆手に取った行動をとりかねない。
「なってしまったことは仕方がないだろう。あっちもそれくらい必死ってことだ」
「ごめん……」
「だから気にするなって。この話はこれで終わり。とにかく事情聴取のことは先を急いでいるとかなんとか誤魔化して、マックスに連絡してくれと伝えてくれ。必要なことはそのときに話すと言ってな。あの人なら臨機応変に対応してくれるはずだし、知り得た情報を売ることもしないから大丈夫だろう」
アレクシスはしょぼくれた表情から少し笑顔を取り戻して、うなずいた。
「分かった。ねえ、それより本当に怪我は大丈夫なの? どう見ても縫わないといけない傷だと思うんだけど……」
尋ねられ、ソフィアは脇腹の状態や左腕の状態を見ながら答える。脇腹の血は止まってきたが、左腕はまだ垂れている状態だ。
「必要な治療は受けるさ。時間はないが、手当はしておかないとあとで面倒なことになるし、動けなくなるからね」
「治りますか?」
ソフィアの傍で先ほどから心配そうに顔を覗き込むアルフィが、おずおずと尋ねる。ソフィアは彼の背に手を置くと優しく撫でた。




