表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/22

第19話 外出許可

 訓練開始から半年ほど経ちましたわ! 飛ばし過ぎ? 何のことでしょう……?


 そんな事よりも皆さん聞いてください! お父様からやっと外出の許可が下りましたの♪ 頑張りましたわ、ええ、ワタクシ頑張ったんですのよ!!



「お父様、ベニカはお外に行きたいのです、許可を御願い致します」


 夕食の席でワタクシはお父様にお願い致しましたの、勿論、上目遣いのウルウルも忘れてませんわ。こちらも侍女相手に修行したのでより効果が上がっている筈ですの。


「う……うむ、どうなのだろうな、もう良い頃合いだろうか?」


 訓練当初は何度か応援に来てくださいましたが、お父様は色々お忙しいのですわ。家に居る限り食事には必ず御出でになるのですけど、最近は訓練には余り……ですからお父様はワタクシの今の実力を知りませんわ。


「ベニカを害せる者ですか……アシュリー侯爵家の者以外には無理では?」


 ライト兄様が応援してくださいます。ええ、勿論、根回しは済んでますわ。お兄様は訓練に付き合って下さってますから、ワタクシの実力は把握してくださってますし、『外出できるように成ったらデートしてください、ライト兄様♪』と紅華も嬉しい、ワタクシも嬉しい交換条件を発動、篭絡済みなので安心なのです!


「近接戦の戦闘力に多少不安は有るけど、ベニカの場合、魔法戦闘力で圧倒出来るから、問題は無いと僕も思うな」


 ジーク兄様、近接戦の件は余計ですわ! 半年の訓練でいきなり剣の達人に成れるわけありませんでしょう! ううぅ、ジーク兄様の生真面目さは計算外でしたわ。けどフォローはしてくださってますから、大丈夫でしょうか?


 無論ジーク兄様にも根回しはしましたわ、けど、ジーク兄様は騎士団のお仕事もあってお忙しく、時間も無いみたいなので、『ジーク兄様、外出できたら騎士団にお弁当をお届けしますわ♪』と交換条件を出したのですけど……ちょっぴり御不満の様子……ライト兄様と同じデートの方がよかったのでしょうか?


 でも、事前に『ジーク兄様、ご予定開いてますか? ちょっとお願いしたいことが……』と尋ねた際に、『悪いベニカ、ちょっと最近また魔物が多くてね、騎士団の方が忙しいんだ、練習は今度付き合うから』とお断りされたので、何か無いかと考えましたのに……


 その後の夕食の席で、ボソッと『何でライト兄さんだけデートなんだ……』と漏らしてましたわ、ライト兄様に『読みが甘いなジーク』と突っ込まれてましたけど……


「魔法戦闘能力は、ライト以上ですか……許可しない訳にはいかないのでしょうね」


 お母様は厳しい表情で悩んでいる風ですけど、当然、この表情はフェイク。お母様の元には足繁く通って、お肩を揉んだり一緒にケーキを食べたりして『もう、仕方のない子ね、お父様の許可が出たならワタクシは反対はしません』と言質を取ってますわ。そう既に外堀は完全に埋めてあるのですわ!


「『同時詠唱』が六つ、単純な魔法力の力比べで、ベニカに勝てるのは母上くらいでしょうね。魔法の威力では俺の方が上だが、手数で負ける。『同時詠唱』一つの差はやはり大きい。まさか半年で追い越されるとは俺も思っても無かったよ」


 ライト兄様は謙遜されてますけど、ライト兄様は複雑な魔法でも五つ、ワタクシの場合は単純な魔法で六つ。この辺は言葉のマジックですわね。ライト兄様だって単純な魔法なら七つはいけますわ。けど敢えてここはワタクシの六つを強調する為に黙って居られるのです。ワタクシも流石に半年では複雑な魔法は四つまででしたわ……


「ライト兄さんの五つ、年齢を考慮したらこれでも十分凄いのに、更に上の六つ。距離を保って戦われたら僕でも危ないかもね」


 これもジーク兄様の謙遜ですわ。魔法の実力は複雑な魔法で四つ、単純な魔法なら六つでワタクシと一緒、それに魔法のカスタマイズや調整はジーク兄様の方が進んでいるので、例え距離を保って戦ってもワタクシは勝てませんわ。


「だがやはり近接戦闘がまだまだだな、筋は良いが、如何せん腕力の問題で攻撃が軽く、経験不足が響いて攻撃パターンが単調だ。それに駆け引きが無い。この辺は経験の差が如実に出るから仕方ないか」


 これは最初から『そう報告するよ、ベニカ、これは駆け引きだからね。キチンと弱点も報告した上で、その対応策が有ることを示した方が評価が高い』と言われていたので不安はありませんわ。あれ? そう考えると、もしかして最初にジーク兄様が近接戦の不利を報告したのもライト兄様とご相談の上でしょうか?


「ベニカ一人での外出はまだ許可できません、しかし、侍女と共にならば安心ですわね、貴方どう思われますか?」


 今回の外出は最初から侍女が護衛で付いてくるのが前提ですわ。しかし、敢えて侍女と一緒ならばと強調することによって問題ない事をアピール、流石お母様ですわ。


 と言うかワタクシ一人では如何にもなりませんわ……色々調べたり、地図である程度地理も把握しましたけど……この街、都市計画が無茶苦茶ですわ! 無計画に拡張していったのでしょうね、下手な迷路よりも通りが複雑に入り組んでるって何なんですの? ワタクシ確実に迷子になる自信がありますわ、そして迷子になったら路頭に迷いますわね……


「ふむ、だがアシェル、彼女達も若い女性、経験不足だろう?」


「心配ありませんよ父上、ベニカの侍女達は近接戦闘も一流だ。近衛騎士団の騎士連中でも、あの者達に勝てる者は殆ど居ない程の実力がある。ここ半年で更に腕を上げているのですよ。問題ないかと」


 本当に驚かされたのですけど、侍女達は魔法戦闘能力も高いのですけど、本当に近接戦闘も強いですわ。近接戦闘も熟せる魔法職と言うより、近接戦闘に魔法を組み込んだ戦闘のエキスパートと言った感じで……


「そうだな、昔は三対一でも俺が勝てていたが、最近は二対一でも勝てない。一対一ならまだ負ける心算は無いが、五人居ればジークでも勝てないだろ?」


 そうなのよ、侍女達はライト兄様がべた褒めするほどの手練れなのよ……因みにワタクシではライト兄様を手古摺らせる事すらできないわ、距離をとっても魔法戦闘ではライト兄様が有利、近接戦闘では圧倒的にライト兄様が有利……でも、半年でライト兄様と模擬戦闘が出来る様になっただけでも褒めて欲しいですわ。


「ライト兄さんの言う通り、俺でも何とか相手を出来るのがギリギリ三人までかな? 彼女達に家臣団から数名護衛を足せば鉄壁でしょう。移動は鳥馬車、なら車内を侍女で固めて、車外に御者や背後を守る護衛を数名足せば、街中であれば遅れは取らないかと、数合持ち堪えれば後はベニカの魔法で薙ぎ払える。後衛特化で嫌らしい魔法の使い方を思えているから、前衛を気にせずに魔法を放てるのもベニカの強みだね」


 ジーク兄様言い方が悪いですわ! 嫌らしい魔法の使い方って……淑女に向かって失礼じゃありませんか? それに教えて下さったのはお兄様達でしょ! 『便利だから覚えなさい』って!


「範囲指定型を複数照準で放つ方法を教えてある。俺と同じで発動箇所が足元だけじゃない奴です。射線を気にすることなく魔法が撃てるのが強みだけど、ベニカの場合はそれに連射力が加わる。ああも連続で攻撃魔法を放たれては逃げ場がない」


 認識空間内に範囲指定型魔法の発動箇所を自由に設定する方法を開発なさったのはライト兄様ですわ。ただこの方法は、開発者であるライト兄様よりも、ワタクシの方が適性があった為、今ではライト兄様よりも使いこなせてますわ。空間認識力と、魔法制御はライト兄様と同程度ですけど、魔法の連射能力はワタクシの方がライト兄様よりも優れてますわ。ワタクシ、弾幕を張るのは得意ですのよ。


「だね、ベニカ相手に遠距離戦は不利、だからベニカを倒すなら一瞬で距離を詰めて、近接戦闘に持ち込む必要があるけど……」


「誘拐目的なら組み伏せようとする筈、ですがベニカには『魔法格闘術』がありますわ。武器無しの素手の組打ちならベニカは強いですわよ、魔法の発動の速さもベニカの強みですからね」


 『魔法格闘術』はワタクシと最高に相性が良いですわ。ワタクシは『構築』がほぼ一瞬で出来ますもの、魔法を両手両足に纏って相手を攻撃する『魔法格闘術』と組み合わせると、途切れることのない連続連携攻撃が可能ですわ。


「『魔法格闘術』か、どの程度だ?」


「武器を使った戦闘はまだ未熟、だけど、素手の組手はかなりのレベルですね。雷系のスタンがあるので、知らずに組み合ったら僕でもヤバい。誘拐はほぼ不可能でしょう。自衛は十分可能ですね」


 ジーク兄様お墨付きです! ねねっ! お父様、大丈夫ですわ!


「エーテルの強化の御陰で状態異常に対する耐性もかなり高まっている。下手な薬物による麻痺や催眠は効果が無いだろうな。母上同様、エーテルの強化での上昇値が凄い。エルフの血が濃いからか?」


 これは思わぬ副産物なのですけど、状態異常に対する耐性が高くなっているそうですわ。状態異常系は思わぬ不覚を取ることが多い攻撃。ですがワタクシは魔法系は『魔力障壁』でほぼ無効にできますし、薬物系も耐性の御陰でほぼ無効にできますわ。


「むぅぅぅ、仕方ない。家臣団から護衛を選抜する、その者達と侍女と共になら外出を許可する。但し! 侍女の言う事聞くように、単独行動は絶対に不許可だ。いいねベニカ?」


「はい、お父様、ありがとうございます! 大好き!」



 そんな遣り取りが有って漸く外出許可が下りたのですわ! 生まれて初めてのお外! そして初めて見る街の風景に感動致しますわ。


 ワタクシは中世ヨーロッパ風を思い浮かべていたのですけど、どちらかといえばヴィクトリアン風で近代、産業革命期の建築様式に近いですわね。


(この辺りは比較的裕福な貴族階級の屋敷が多いからかしら?)


 暫く進んで騎士階級の者が多く住んでいる区画に入りましたが、お屋敷の規模が小さくなるだけで建築様式は変わりませんでしたわ。


 更に進んで騎士階級でも比較的裕福では無い方達の区画は三階建てや四階建の建物が通りに面して隙間無く建っていて、その様は古いロンドンの街並みに近いものを感じますわ。


(この辺りは素敵な街並みだわ、裏に回ったらお庭が有るのかしら? シャーロックホームズが住んでいそうな雰囲気ね)


 石畳みで舗装された道路は歩道が一段高くなっている当たりも同じですわね。歩道の下に下水路が張り巡らせているのか、所々雨水を流す口が空いてますわ。


 殆どの通りには街灯も建っていて、文明水準の高さに驚かされますの。そうそう交差点には信号機まで設置されてましたわ。


 それに実際に街に出るまでは、無計画に拡張したのだと思ってましたけど、街に出て通りを眺めていると侵入者に対して街を防衛する為にワザと複雑なのだと思い直しましたわ。


 街の中にはかつての城壁がそのまま残って区画を分けていますし、重要な中央区画に直通で侵入出来ない様にワザと迂回させているのが見て取れましたわ。


(昔の日本の城下町も似た様なものだと聞いていたけど、この世界も似たようなものなのかしら?)


 ただそれはそれで不思議なのですわ、この世界では、国と国がかなり疎らに離れて点在していて、国家規模での侵略はあり得ませんわ。国家間での戦闘すら殆ど起こっていない。


(市民革命なども起こって居ないと聞いてますのに、何から守っているのでしょうね?)


 魔物の可能性も考えたのですけど、城壁を突破してくる様な魔物に対してこの防衛の仕方が意味があるものには思えません、何故なんでしょうか? 謎ですわね。


 ワタクシの思索を他所に鳥馬車はどんどん進んで行きますわ。今日の目的地は商業区画、中でも大規模な商店が建ち並んだ区画ですわ。ワタクシは物価をほとんど知りませんわ。この半年、色々調べたのですけど、物価は殆ど判明いたしませんでしたわ。一応通貨単位名称がゴールドだとは判明したのですけど、未だにお金を見たことがありませんの……


 ですから、実際に物を売っている所を見学して、物の値段を調べたいと思ったのですわ。お兄様達に相談したら、この大規模商店の有る区画は治安が安定していて、実際に新しもの好きの貴族も出入りしているので、ワタクシが御供を連れて見物しても迷惑にならないだろうとお薦めされましたの。


「お嬢様、如何ですか初めてのお外は?」


 シオンが右隣からそう尋ねてきますわ。今回の鳥馬車は車内に向かい合って三人づつ座れるものですわ。中々ゆったりとした造りで窮屈さとは無縁ですわね。2.5メートル幅の鳥馬車なので椅子の幅は悠々と80センチ以上、アームレストがそれぞれの席についていて、クッションも効いていて快適ですわ。向かい合った席との距離は1.5メートル程でしょうか? 足を投げだしても前の席のチェーンと足がぶつかりませんわね。いえ、そんなはしたない事は致しませんよ?


 この鳥馬車の大きさが普通なのかは存じませんが、その快適さからもアシュリー侯爵家の鳥馬車に恥じない豪華なものであるのだと思いますわ。使用した様子の無い、真新しい物なのですけど……もしかしなくてもワタクシ専用に新調したのでしょうか?


 アイボリーを基本に、各種金銀の彫金で飾られていて、一目で貴族の馬車だと気が付く造りになってますわ。誘拐や襲撃者を警戒するのであれば目立たない方が好ましく思うのですが……


「襲撃者には如何偽装しようとバレるからね。地味にして市井の者達を巻き込むよりも目立って、無関係な市井の者達が不用意に近寄らない様にした方が良いんだよ。皆が避ける豪華な鳥馬車に、不意に近寄ってくる鳥馬車がいれば目立つ、それは襲撃者のものだ、わかるねベニカ」


 出発前に疑問を口にしたら、ジーク兄様がそう教えてくださいました。ライト兄様もこうおっしゃいました。


「それになベニカ、我々は貴族だ、襲撃者に怯えてコソコソするような者には貴族を名乗る資格はない。無法者を駆逐して市民を守るのは貴族の義務だ。それが市民にまぎれて己を守るなどあり得ないだろ? 不埒な襲撃者を、その持てる力で圧倒してこそ貴族、その為の訓練、そうだろ? ベニカ」


 貴族足りえぬ者に、外出する資格はない。それがアシュリー侯爵家の矜持、それを忘れた者にアシュリー侯爵家を名乗る資格がない……例え末席でも、そこにいるワタクシに、覚悟を問われたのでしょうね……


 ワタクシの鳥馬車の前後には護衛の者が乗った鳥馬車が追走しています。こちらの鳥馬車は二台とも黒を基調に、豪華に彫金で飾られています。どちらも護衛として六名ほど乗車されてます。ワタクシの乗った鳥馬車にも御者席に二名、鳥馬車の後ろに二名乗車しているので全部で十六名、侍女を入れると総勢二十一名、これが今のワタクシの実力に見合う護衛の数……


(お兄様やお母様には到底及ばないわね、でも……外出出来るだけマシですわよね? ワタクシだって成長してますわよね?)


 鳥馬車の中では右にシオン、左にクララ、正面にチェーン、その右隣にハンナ、左隣にアニス。もう本当に盤石の護衛体制ですわ。アニスが御者席の者から何か告げられてますわね。


「ええ、シオン、やはり聞くのと実際に見るのは違いますわね。お屋敷の中とはずいぶん違いますわ。想像してたよりも人が多いですわね」


「ここグランマはルイバトン聖公国の首都ですからね、ここで驚いていてはいけませんよ、お嬢様、目的地の商業区画はここ以上の人出です。鳥馬車を降りて出歩く際にも、急な行動は厳禁です。よろしいですね?」


「ううう、分かってますわ」


「お嬢様、ソロソロ商業区画に入りますわ。特に何処のお店を見学するか決めて居りません。一度通りを流すそうですから、気になるお店が有ったら仰ってください。そこに鳥馬車を着けるとの事ですわ」


 アニスの言葉と共に、城門を鳥馬車が駆け抜けていきます、商業区画との境の城壁に開いた城門をくぐると景色がまた一変しましたわ。


 大型の体育館の様な平屋の大きな建物が立ち並び、駐車場でしょうか、その周りに広場が広がり、何もかもが広い、今までの建物が密集していただけに、その広さに何だか胸がスッキリと爽快な気分になりますわ。駐車場には芝生が植えられて、街路樹も多く。ここがある程度資産のある者達を対象にした区画であることを感じさせますわ。手入れが行き届いて、街路樹も形よく剪定されてますの。


(芝生? 鳥馬車が踏んだら枯れてしまわないのかしら?)


 そう思ってよく眺めると、レンガの様なものが埋め込まれていてその隙間から芝生が生えている様な状態になってましたわ。後で尋ねたら、全てレンガで覆うと水たまりが出来るので、そうならない様にとの工夫なのだそうですわ。隙間を空けてその間に水を逃がす仕組みで、穴が開いていては歩きにくいので芝生を植えているそうですわ。手入れが少し大変な事を除けば見栄えが良いとの理由で、多くの店舗で採用されているようですわ。


 緑が多い所為か、何だか公園の様な雰囲気も有って何とも落ち着いた雰囲気の商業区画です。鳥馬車で訪れる者も多いみたいですが、徒歩の者も多いですわね。確かに何かお祭りでもしているかのような人出ですわ。活気がありますのね。


 そう……そんな落ち着いた商店が立ち並ぶ中に……雰囲気とそぐわないものが……


(アドバルーン? えっ? あれはアドバルーンですわよね?)


 左手前方に空に浮かんだ巨大な風船とそれに二本のロープが括り付けられ、その間に渡された布に、何やら文字が書いてあるのが分かりますわ。


「クララ、あれが見えますか? お空に巨大な風船が……あれは何ですの?」


「あれですか? ん? 何でしょうか? ……以前この区画を訪れた時には有りませんでしたわね……私共も滅多に外出しないので、以前訪れたのも数年前……」


 クララも首を捻ってますわ。では余り一般的なモノではないと言う事なのでしょうね。いえ、紅華の記憶であれが何かは分かるのですけど、とてもこの世界にそぐわない物に思えるのですわ。そもそも前世でも最近はあまり見かけないものですもの……


「お嬢様、御者の方の情報ですと、最近有名な武器屋だそうですよ。そこの看板? いえ幟でしょうか? お店の宣伝だそうですわ」


 アニスが御者から仕入れた情報を伝えてくれますわ。


(ええ、そうでしょうね、それ以外に考えられませんわ……けど、何故それがここに?)


「そうですか…………決めました、あのお店を訪れましょう」


 ワタクシとても気になりますっ! ええとっても気になりますわ。そのお店をこの目で確かめたい衝動が抑えきれませんわ。今回の外出で訪れることの出来るお店は、多くても二店舗、下手をしたら一店舗だけ。朝食後から、昼食前までの時間しか許可が出てませんもの。多少昼食に遅れても構わないとは言われています。しかし、その程度ですわ。


 この時間が最も安全なんだそうです。早朝も危なく、日が陰り始めても危ない、との理由で選ばれた時間帯ですわ。時間に限りがある以上、一番気になったお店を訪れる、それしかありません。このままですと気になってワタクシ眠れませんもの。


「よろしいんですかお嬢様、まだ区画のお店は全部回ってませんが?」


「構いませんわシオン。アニス、あのお店に着けるように指示をお願いします」


「承知いたしましたお嬢様」


 アニスが御者に指示をすると、先導の鳥馬車がその店舗に向かって進路を変更しますわ。徐々に近くなるその店舗、店の前にも幟が立っていて大勢の人が、その店を訪れているのが分かりますわ。


(あれが看板かしら? えっっ! 何で? 何で英語? はぁ? なんでこの世界で英語の看板なの?)


 そのお店の看板には英語で『ウェポンショップ ジョンスミス』と書かれてましたわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ