表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/22

第18話 魔法訓練開始

「ではお嬢様、御教えした『身体強化』を使って、軽く走りましょうか?」


 訓練場に着くと、シオンからそう指示されましたわ。


(訓練場、お兄様が練習しているのを偶に応援と見物に来てましたけど、ワタクシもここで訓練できますのね)


 感慨もひとしおですわ……お兄様達の訓練を羨ましく眺めていただけのワタクシが、ここで訓練できるなんて……



 我が家の訓練場はとても広いですわ。そうですわね紅華の記憶にある建物に例えるならドーム球場が近いですわね。アシュリー侯爵家内の武術大会を開いたり、魔法の訓練も行うので、とても広く造られているのですわ。


 訓練場内部の闘技場は一辺が120メートル程の正方形に近い形、硬く整えられた土が基礎の上に敷き詰められているそうですわ。石畳にすると衝撃が吸収できないのと、どうしても使用しているとすり減って滑りやすくなるからとの事ですわ。


 専用の土なのだそうで、余り土埃の舞わない、なのにきめ細かい、少し粘土質な土なのだとか。凹んだり穴が空いても、土を足して表面を整えて、お水を撒くと簡単に補修できるのだそうで、訓練の合間に訓練場の管理人の方が整地しているようですわ。


 闘技場の周囲には客席では有りませんけど、石の壁の上に見学席が設けられていて、武術大会やお兄様達の訓練の見学の際には、そこから見学しますわ。壁には結界石が埋め込まれていて、攻撃魔法等、周囲に被害が及びそうな訓練をする時には、それを起動して結界を張り、その中で訓練が行えるようになってますわ。


 闘技場の周囲には換気も出来る様に窓が多めに設けられてますわね。これは夏場、風通しを良くして闘技場内の気温を下げる役割と、魔法を使った際に爆炎や煙が発生することがあるのでその対策らしいですわ。


 訓練場には一応冷房魔道具も設置されているようですけど、真夏の酷暑期は蒸し風呂の様に暑いのと、空間が広い所為で、あまり冷却効率が良くないとの事で、窓を開けて風を通す事の方が推奨されてますわね……お母様はその辺かっちりしてますから、中々冷房の許可が下りないとお兄様達が嘆いてましたわ。


 何故ここまで熱いか? 訓練場が屋根で覆われているからですわ。太い柱が何本も建っていて、大きなアーチ状の屋根を支えている、全天候対応型の大型屋内訓練施設ですの。


 屋根が有るので直射日光は防げますけど、その分空気が籠って暑いのですわ。天井付近にも排気設備が多く設置されてますけど、それでも、追いつかないようですわね。ただ最近ミストシャワーが導入されたとかで以前よりは格段にマシになったそうですわ。


 本宅以外ではアシュリー侯爵家のお屋敷の中では一番大きな建物ですわね、あの中央に柱のない天井の建設はとても苦労したそうで、我が家の自慢の施設だそうですわ。


(紅華の記憶を得て、改めて見ますと、凄さが実感できますわね。建築技術水準の高さ、建築設計の水準の高さも、両方異常ですわね。よくこんな規模の建物が、この世界に有る物だと感心致しますわ)


 戦闘服もそうなのですけど、紅華からしたら、可成り後進的な中世っぽい世界なのに、色々な技術が独自に発展していて、紅華の元居た世界よりも進んでいますわ。中世と現代と未来が入り混じったカオスな世界になっていると感じるのは気のせいでしょうか?



「シオン、ちょっといいかしら? ワタクシ、今の実力が知りたいので、少し思いっきり走って良いかしら? いきなり全力疾走はしないけど、どの位走れるのか試してみたいの」


 エーテルによる強化の具合と、『身体強化』の魔法の効果が確かめたくてワタクシはシオンにそう許可を求めましたわ。そもそも軽く走ると言われても、全力がどの位か確認しませんと、『軽く』が分かりませんわ。



 『身体強化』の魔法は付与魔法で頭に流し込んでもらっているので、ワタクシでも問題なく使えますわ。複雑な魔法回路や魔法陣は図で説明されるよりもこの方が把握しやすい、との理由で付与魔法で付与するのが一般的なのだそうですけど、これも紅華の記憶が驚いてましたわ。


(確かにこの世界は色々魔法が有って便利ですわよね……)


 ただ付与魔法で流し込むやり方は簡易的なのだそうで、使い方や魔法陣の図形の其々の意味などの、詳しい詳細が不明なので余り推奨されていないそうですわ。


(簡易的に流し込まれた魔法でも、ワタクシとしては使用に問題はないので、良いのではないかと思うのですけど……ダメなのでしょうか?)


 単に使用するだけなら特に問題は無いようなのですけど、侍女達に言わせるとダメなのだそうです……


「お嬢様、これはあくまで簡易的な措置で御座います。最終的には魔法陣、魔法回路の意味をご理解いただきます、よろしいですね?」


 今回の訓練前にシオンからそう注意がありましたわ。


「でもこれでも魔法が使えるのでしょう?」


 ですからワタクシはそう尋ねましたわ。だって使えるのですわよ? なら問題は無いように思いませんか?


「お嬢様、今の状態は効率も魔法の効果も非常に悪いので推奨されておりません。魔法陣も魔法回路も、付与魔法で流し込んだ図形は万人向けに安全性、安定性に極振りしたような状態でございまして、効果の方も消費魔力を抑えようとして、まだまだ抑えた状態なので、本来の効果が発揮できておりませんわ」


 使い易さ最優先で無駄が多い上に、効果まで抑えられている状態と言う事なのでしょうね。


「これを基礎として、術者それぞれが自分の魔力制御力や目的に合わせて魔方陣、魔法回路の調整を行いつつ、様々に改良して使うのが、魔法の基本でございます、お嬢様」


 自分様にカスタマイズする為にも、其々の機能や意味を理解する必要が有ると言う事みたいですわ……確かにそうなのでしょうけど……


 これを全ての魔法で行う必要が有ると、そういう事なのですわよね? ……先が長いですわ……


「昨日はそもそも魔法とはの基礎を学びましたね、本日はその他の魔法の発動までのプロセスをご説明致します」


 シオンのこの言葉と共に訓練が開始されましたわ。


「基本的な魔法の発動プロセスは三段階、魔法式の『構築』、魔法式の『起動』、そして魔法の『発動』、以上の三段階を経て魔法は発動致します」


 シオンの説明はこうですわ、先ず魔力を制御して、魔法陣をイメージし、その魔法陣の図形を描く、これは体内……いえ……と言うより頭の中のイメージでしょうか? そこに魔力で魔方陣を描くのですわ。魔法制御とは脳内でのイメージに魔力を連動させる事なのですから、脳内で詳細にイメージする事、それがそのまま図形を描くことになるのですわね。


 この魔方陣は、如何に正確に描くかで、その魔法の効果の強さが変わって来ます。歪みが有ると発動後の魔法が安定せず、効果や威力が下がるのだそうですわ。多少の歪みは許容されるのですけど、この許容の範囲が魔法陣の図形、その部位によって異なるとの事で、基本歪みは不可だと言われましたわ。


 更に実戦に於いては、その描くスピードも重要なのですから、中々大変ですわ。この図形を描いている間、他の行動が疎かになる理由も良く分かりますわね。魔法使いが後方に居るのはこの為だそうですわ。前で戦いながらこの作業を行うのは難易度が高いですわね。


 先程も言いましたけど、これは実際に手を動かして描いている訳では御座いませんわ、頭でイメージした図形にイメージの中で魔力を乗せていくような感じですわね。ですから如何に正確に脳内に図形を詳細にイメージ出来るか? それが重要なのですわ。


(この点は、ワタクシは楽ですわね、一度描いて覚えたら、全体を一瞬でイメージできますもの)


 普通は、徐々に魔力を乗せながら魔方陣を思い出し、徐々に描くのだそうですわ。一度魔力の乗った図形は、イメージが確定されて、その場所に残る……何と言いますか脳内のイメージでしかなかった物が、脳内の仮想空間に魔力で描かれて固定される感じですわね。この状態で徐々に全体を描いていくのだそうです。


 魔方陣を描き終わりましたら、次はこれも魔力を制御して、魔法回路、魔力の通り道ですわね、これを魔方陣周辺に描きこんでいきますわ。


 この魔法回路は、魔法陣に対して、どの位置から、どの方向に、どの量の魔力を流し込むかを制御する為のもので、こちらも重要なのは正確なイメージですわね。


 魔方陣と魔法回路を合わせて魔法式と呼びますわ。この魔法式を描くことが『構築』、描けた段階で『構築』が終了した事に成りますわ。


 『構築』が終了しましたら、今度は魔法回路に魔力を流し込んで行きますわ。決められた箇所から魔力を注ぐと、魔力は魔法回路で描かれた道筋を通り、魔法回路から魔方陣に魔力が流し込まれ、魔法陣が作動しますわ。


 魔方陣が作動を始めた状態、これを魔法式が『起動』したと言いますわ。


 そして魔法式が『起動』したらいよいよ『発動』させます。目標設定や威力、効果の設定はこの段階で行いますわ。脳内で魔法の『発動』をイメージしてそれぞれの状態を思い浮かべると、『起動』している魔法式がそれに伴って変化していきます。この変化が終了した段階で、もう一度魔法回路に魔力を注ぎ込めば魔法が『発動』します。


 『発動』した魔法は魔法式により定められた法則により、様々な事象、現象、法則に効果を及ぼし、変化させてその効力を発揮しますわ。


 ここまでがシオンに説明された基本的な魔法の発動プロセスですわね。


 発動した魔法は所定の機能を発揮、周囲の魔力を巻き込んで、込めた魔力を消費し終わるまでその動作を続けますわ。


 攻撃魔法などは脳内の魔法式を構築した空間に魔法式が残っているので、途中で魔力を更に注ぎ込めば威力や射程を伸ばす事も可能なのですけど、今回の『身体強化』の様な付与系の魔法は発動した後、魔法式が対象物に移る為、発動している最中に、更に魔力を注ぎ込めんで効果や発動時間を伸ばす事が出来ませんわ。


「これも個人的なカスタマイズの一つなのですけど、御自身に魔法を掛ける場合は、魔法式の移動を行わずに、自身の中に留める事によって、途中で魔力の補填を行う事も可能です」


「ならその方が便利じゃ無いかしら? そっちを基本にして、他者に付与する場合をカスタマイズで行うようにすれば良いのに……」


「お嬢様、その場合、脳内の魔法式の構築空間が占有され続けます。一般人の方は大抵、一度に構築出来る魔法式は一つ。それでは他の魔法が使えなくなってしまいますわ」


 そんな罠も有って付与系魔法は、対象に魔法式が移るように出来ているのだそうですわ。実際に戦闘などの際には、付与系の魔法を複数重ね掛けするのが基本なのだそうです。その為、魔法式を移して、魔法式構築用のスペースを確保しているのだとか……よく考えなくてもその通りですわね……いえ、そのままなら魔法を掛け直す手間が省けるでしょ? また『構築』する手間が省けるから便利だなと思ったのですけど……世の中そんなに甘くないようですわ。


 今回の『身体強化』の魔法は、その名の通り身体機能を強化しますわ。魔力により生成される疑似筋肉でしょうか? それが身体の動作を助け、更に、骨格を魔力で補強しますわ。これも骨格を魔力で生じさせた擬似物質でコーティングして補強して、骨格の強度を上げているようですわね。


 エーテルによる身体強化は、元の筋力、および骨格を強化するものなので、効果が重複しますのよ。エーテルは筋肉組織内部に強化された筋肉を生みだし、骨組織の内部に強化された骨を生みだす感じですわね。内部から筋肉や骨格そのものを変質させるエーテルによる強化、一方の『身体強化』の魔法は、外部に追加する感覚でしょうか?



 そうそうここで一つ、お母様は七つ同時に魔法を使用できるのですけど、これを『同時詠唱』と呼ぶのだそうです。何故詠唱などしてないのに『同時詠唱』なのか不思議でしょ? そう思ってワタクシも尋ねましたわ。


「ああ、それはですね、お嬢様、その昔は魔法を使うのに実際に呪文を唱えていたからですわ」


 クララはアッサリそう言ったのですけど……呪文、有るじゃありませんの!


「呪文を? やはり呪文が有りますの?」


 ワタクシはやはり紅華の記憶のイメージが強いのでしょうね、魔法と言えば呪文だと、そう思っていたのですわ。なのに、こちらの世界の魔法には呪文が無いんですのよ……ちょっとガッカリしましたわ。


「昔は魔法陣作動後の発動のイメージの確定の為に、呪文を唱えていたのですわ。しかし、近年では意味のない行為として廃止され、『無言詠唱』方式が採用されておりますね」


 呪文を唱えるのが当たり前の時代には、呪文を唱えない事を『無言詠唱』と呼んだのだそうですわ。無言なのに詠唱って……言葉って難しいですわね……


「意味がない? 何故ですの?」


「単なるイメージの補助ですので、イメージさえ出来るのなら必要ないからで御座います、お嬢様」


 そう先程も説明しましたが魔法は、魔法陣、魔法回路を描く『構築』、魔法陣、魔法回路からなる魔法式に実際に魔力を流し込む『起動』、それを術者が制御して効果を発揮させる『発動』、以上の三段階から構成されてますわ。


 呪文はこの内の『発動』のイメージを強化する意味が有るのだそうですけど、呪文を唱えるのに集中して『構築』が疎かになり易く、また呪文の文言にも全く意味がない事が判明したことによって廃れたのだそうですわ。単なる願望を唱えていたようですわ。


『我唱え求めるは、紅蓮の爆炎、我が魔力を焚き尽くし、我に歯向かう愚か者に、灼熱の地獄を与えんことを欲する。其は赤き火球、炎纏いて敵を薙ぎ、爆炎を持ちて敵を焼き尽くすものなり』


 これが『火焔球』の魔法でかつて唱えられていた呪文だそうですわ……ええ、本当に願望でしたわ……


 呪文書には魔法陣や魔法回路も記されていたそうなのですけど、何時の間にかそちらが重要視されなくなり、『力ある言葉』から翻訳された呪文が重要視されていた時代があったそうですわ、その翻訳された呪文も時代と共に変化して……最終的には願望になっていったと、そもそも『力ある言葉』から翻訳された段階で意味はないのだそうですわ……その時代、と言っても割と最近までそうだったらしいのですけど……


 その時代には付与魔法で魔方陣と魔法回路のイメージを頭の中に流し込んだ後は、只管そのイメージに膨大な魔力を注いで、大量の魔力を無駄にしながら魔法式を『構築』、これは魔法陣や魔法回路のフレームに魔力を吹き付けて、そのフレームに魔力を付着させる様なもので、大量の魔力が無駄になっていたそうですわ……


 その後、またも気合で魔力を魔法式に流し込んで『起動』、これもどこから魔法回路に魔力を流し込むか意識もせずにやっていたらしく、大量の魔力を魔法回路周辺に流し込んで、そこから魔法回路に流れ込んだ魔力が魔法陣を『起動』させていたらしく、非常に非効率的であったそうですわ……


 そこからここでやっと呪文の出番で、『発動』イメージを呪文で補助して魔法を『発動』させていた……のだそうです。大変ですわね。それもこれも古代帝国滅亡期の混乱で、魔法を本当の意味で仕える人材が途絶えてしまったことが原因なのだそうですわ。現在ではそれらの技術や理論が復活して、また、効率よく魔法が使える様になったのだそうです。ワタクシ、復活前だと魔法の習得に挫けていたかもしれませんわ。


「古代帝国時代には、『力ある言葉』で呪文を唱えて、追加効果を付与していたのですけど、現在ではそれらの技術が必要なほど、複雑な魔法を使える者が少なく、また、先程も言いましたが各自適当な呪文を唱えていたようなので……百害あって一利なしと各国で廃止されて行っております」


 との事で意味のなくなった呪文を唱えていた時の名残で、『同時詠唱』と呼ぶのだそうですわ。そして、この『同時詠唱』ですけど、この魔法式の『構築』、魔法式の『起動』、魔法の『発動』を同時に行うのだそうですわ。


 ワタクシも試してみたのですけど、同じ魔法で有れば八つ位は同時に行えるのですけど、それは『同時詠唱』ではなく『同期詠唱』だそうで難易度が低めなのだそうですわ。そう『同時詠唱』は別々の魔法式を同時に『構築』して『起動』して『発動』する……


(難易度が高いなんてモノじゃないですわ! お母様はこんなのを七つ同時に? 化け物ですか?)


 右手と左手で別の事をやるどころか、両足で更に別の事やって、仮想の腕を生やして更に、と言った怪奇極まる制御が必要になりますわ。並列処理……恐らくお母様も出来るのでしょうね。ワタクシは並列処理を使っても二つが限界でしたわ。リソースが不足してますわね。


「お嬢様は『同期詠唱』で八つ処理できるのですから、将来的には『同時詠唱』も八つ使える可能性がありますよ。『構築』領域の容量は足りてますからね。後は魔法に対する慣れと理解が不足してるのでしょうね」


「理解?」


「お嬢様、エーテルの流化は続けてらっしゃいますよね?」


「ええ、ちゃんと続けているわよ?」


「それでいきなり『同時詠唱』も二つ可能だったのですよね?」


「ええ……ああっ、そうなのですわね、エーテルの流化にもリソースが喰われてますのね?」


「それとお嬢様のお使いの魔法式は無駄が非常に多い物です。その無駄を省けば、リソースの不足はかなり改善される筈でございます。それにリソースも使用していけば成長と共に徐々に増えて行きますから……現段階でそれだと、私共など早晩追い越されそうですわね」



「お嬢様、くれぐれも無茶は厳禁ですからね? 昨日のような事がありましたら即刻訓練を中止致しますよ? ご承知くださいませ」


「うっ、ワタクシだって反省してますわ。大丈夫ですわ、ちゃんと慎重に確かめながら走ります!」


 シオンの忠告を肝に銘じて、ワタクシは走り始めますわ。昨日に引き続いて調子に乗って暴走したら、シオンが口を聞いてくれなくなりそうですわ……


(軽い、やはり身体が羽みたいに軽いですわ、それに……想像以上の脚力ですわね……これでもまだ余裕が有る? まだいけますわねもう少し)


 少し流す心算で走ったのですけど速いですわ、ワタクシ、思った以上に脚が早くなってますわ、一辺が120メートル、10メートル程余裕を残して走ってますから約100程のダッシュですけど、徐々にスピードを上げていき、最終的に達した速さだと、一辺を走り終えるのに5秒程ですわ……時速だと90キロ? 人間の足の速さとは思えませんわ。しかもさほど息も上がらない……


(おかしいですわね? ワタクシ、確かにダンスのレッスンはしてましたけど、それ以外で特に運動はしてませんでしたわ……なのにこんなに? エーテルの強化は心肺機能にも及んでいるのでしょうか?)


 これだとエーテルの強化が有るのと無いのとでは圧倒的な差が生まれますわね、ワタクシはアシュリー侯爵家の長女として気軽に教わってますけど、これって秘伝の部類に入る技術なのではないでしょうか?


(えっと……紅華の記憶が驚いてますわね……これだとオリンピックでぶっちぎりで優勝できますものね。魔法……効果が凄まじいですわね。けど……何でこの速度のワタクシに、侍女達は余裕で付いてこれますの? これもより速いとか、もう人間辞めてますわよ?)


 お兄様達の動きも速過ぎて良く見失っていましたけど……改めて自分で体感すると、その凄さがよく分かりますわ。昨日から訓練を始めたワタクシでさえこれだけの強化、以前から強化していた侍女、ましてやお兄様達はどれほどの化け物ですの?


「シオン、貴方達凄いわね……」


「お嬢様こそ凄いですよ? 昨日から始めたばかりなのに、もうここまで強化されておられるなんて……」


 ワタクシが真面目に走っているのに、シオンは後ろ走りでそう答えますわ、あの……ちっとも説得力がありませんわよ!


「エーテルの蓄積が可成りの分量になっていたので、まさかとは思ってましたが……しかし、これは想像を超える成長速度ですわね」


 クララ、貴方は先程、垂直な壁を走ってましたよね? 曲がり切れないからって、そんなマンガみたいな事をする人に、そんな事言われても信じられませんわ!


「でも、お兄様達は貴方達よりも、もっと凄いのでしょ? それなら魔物も余裕なのかしら? あまり心配の必要は無かったってこと?」


 少しペースを落として持久走を始めますわ。それでも100メートルが10秒ほど、時速45キロ……これマラソンだと一時間切れますよね? 途中スポーツ飲料でミネラルやカロリー、それに水分を補給しながら走ります。


 昨日、エーテルによる強化を始めて、今朝はとても空腹で目が覚めましたわ。昨夜の悪夢の所為も有るかと思いましたが、それでもお腹の減るスピードが今までと全然違いますわ。一回に食べられる量は少ないままなのですけど……


 朝食をお腹いっぱい食べて、勉強を一時間ほどして、オヤツを摘まんで、また勉強を一時間程して、朝のティータイムでまたお菓子を食べて、ダンスのレッスンを一時間して、水分補給とオヤツを摘まんで、一度汗を流して、昼食を又お腹いっぱい食べて、着替えて訓練場で訓練を始めて一時間経たないうちにこうして水分補給が出来てますわ……


(昨日までの省燃費生活が嘘のようにお腹が空きますわ……)


「お嬢様、魔物は魔結晶を持っているのですよ? エーテルだけでもこれ程の力です。それ以上の力を秘めた魔結晶、魔物の力を侮ってはなりません」


 はぁ、全く信じられない世界ですわ。エーテルによる強化だけでも、消費されるカロリーに、胃の大きさが全く追いついていませんのに、魔結晶で強化したら、どれだけ食べ続けなければいけませんの?


 魔物は人を襲うと教わりましたけど、それって単に飢えているからじゃありませんか? こんなにお腹が減っては、それはもう目に映るものすべてが食べ物に見えても仕方ありませんわね。


 ワタクシのこの飢えが収まったのは一週間後でしたわ。エーテルによる強化で体組織の入れ替えが行われていたことによる、一時的な飢えだったようで、それが落ち着いてからは、ここまで飢えることは無くなりましたわ。


 それでも一日六食、朝、午前のオヤツ、昼、午後のオヤツ、夕、夜食と食べる必要が有りますけど……もう少し胃が大きく成らないのでしょうか? 何だかワタクシ一日中食べている気がしますわ……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ