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第16話 想い……

 困りましたわ……

 ええ、本当に困ってますの……


 ワタクシ、暫くはお任せして表に出てこようとは思ってなかったんですのよ? だってそうでしょう? あちらのワタクシ、いえ『私』が表の方が色々情報が集まって、更に情報から、様々な事を分析して、現在の状況を判明させていってくれるんですもの、ワタクシよりもそれに対しての適性がありますわ。


 裏に回ってもワタクシはワタクシ、変わりはありませんの、何も不都合は有りませんのよ? ならそれに向いている『私』が表の方が都合が良いと思いませんか? ワタクシの場合その……性癖の抑えがまだ中々……『私』の方にも影響が出る位ですのよ? 幾ら矯正すると言ってもそんな一朝一夕には……紅華の知識で、より具体的に色々妄想できるようになって、『悪化』している様に感じますのは……気のせいでしょうか?


 ですから『私』に表でいて頂きたいのですけど……


 ……今は消えてしまいたいと、完全に意気消沈なさってますわ。ワタクシもあの悪夢は覚えていますわ。当然でしょ? ワタクシも私も、別人ではございません。ベニカの意識が強いか、紅華の意識が強いか、どちらがより強いかだけの差ですわ。記憶に伴って何方がより強く表れるか? それだけの差ですわ。


 切り替わりの法則が今だに判明しませんが、この意識の強さが影響している、そんな気が致しますわ。ですから、今は無理なのかもしれませんわね……


 ええ、ワタクシもあの悪夢は見ましたわ……本当に怖い、理不尽な、悲しい悪夢でしたわ。ですからあの悪夢を見て、紅華として、ゲームの中のベニカに対して、罪悪感を抱き、そしてワタクシを巻き込んだ、その申し訳なさで、あんな風になるのも分かる気はします……


 でも……本当にそうでしょうか? ワタクシ思いますの……あの悪夢は、仮にゲームの中のベニカが見せたのだとしても、忠告では無いかと……そう、紅華の罪を裁こうとしたのではなく『こんな風になる可能性があるから、気を付けなさい』と忠告なさっているのではないかと思うんです。


 よく考えてください。ゲームのベニカの想いが存在するなら、この世界はゲームの世界では有りませんわ。それに紅華にとってはゲームの世界の様に感じられる世界……でも、ワタクシにとっては、13年間生きてきた、現実の世界ですわ。


 そして度々戸惑われて居たようですけど、ゲームの世界とは、差異がございますでしょ? ワタクシはここをゲームの世界だとは思っておりませんわ。そしてだからこそ、前世の記憶を思い出した事、それは神様からワタクシ、ベニカに対して贈られた『救い』だと思ってますわ。


 紅華は『罰』に巻き込んだ、そうお考えになられているようですが、それは違いますわ。ベニカも紅華です。そして巻き込んだのは寧ろベニカですわ。だってそうでしょ? 前世なのですから、ベニカが思い出さなければ紅華はずっと眠ったままでいられたのですわ。


 その眠りを妨げ、その力に縋っているのはワタクシです。


 では、何故、今のような状態に陥っているのか……恐らくベニカの不安が、そこから生じた危機感が、今の絶望的に悪い状況を何となく察して、神様に縋った結果だと、ワタクシは考えています。


 そう、昨日検証したように、ワタクシは今、非常に危うい状況に居りますわ。国そのものが静かな内戦状態、しかも、アシュリー侯爵家の置かれた状況も悪いですわね。そう下手に力がある故に、様々な勢力がアシュリー侯爵家の力を狙っております。ワタクシが外出できない程、状況が悪いのですわ。


 このままワタクシが状況に流されていたら、例え主人公なる少女が現れなくても、ワタクシはあの悪夢の見せた状況に追い込まれていた、そう確信しておりますわ。


 ベニカは不安でしたの、他家に嫁ぐ必要がない、そう言われて育っておりましたわ。なのにお父様から突然、第三王子との婚約が内定したと聞かされて、不安でした……何か、そうワタクシの知らない所で、ワタクシの知らない変化が起きている……そしてそれはワタクシにとって決して好ましいモノではない、そんな予感がしましたの。


 紅華の記憶を取り戻し、そして周囲の状況が判るにつれ、その予感が予知であったのだと確信いたしました。そう、ベニカは自分が与り知らぬ所で、確実に追い詰められようとしていましたわ。


 紅華の記憶を取り戻せたおかげでその危機から辛うじて抜け出せる、光明を得ることが出来ました。ですからワタクシは紅華に感謝していますわ。あのまま何もしなければ、ベニカはきっとあの悪夢と同じくギロチンに処されて死刑でしたでしょうね。


 罪と罰、罪に対して罰がある。果たしてそうでしょうか? 貴族の社会とは、必ずしもそうではありませんわ。罪が無くても罪を着せられるのですわ。力の有る者が、処刑せよと命じれば、理由なんて必要がない、どうとでも理由をつけて処刑する。


 理不尽……とても理不尽な社会です、だからこそ、貴族の皆さんは、その理不尽の生贄に自分がならない様に、必死で勢力争いをして、少しでも優位に立とうとしているのでしょうね。


 ワタクシは、昨日浮かれて居りましたわ。だってそうでしょう? 婚約の内定は無かったことになりましたわ。そして魔法の訓練も開始され、自分に魔法の才能がありそうだという事も判明いたしましたわ。そうですわ、理不尽を自らの手で跳ねのける、そんな道を得ましたわ。それは全て紅華の記憶の御陰、知識の御陰ですわ。


 更にはお母様やワタクシの侍女達、それどころかお母様の侍女達も加わったケーキのお茶会! 幸せでしたわ……とてもとても幸福な時間でしたの。みんなから一口づつあーんをして貰って、ワタクシもみんなにあーんをお返しして、みんな笑顔で、楽しくおしゃべりをしながら……


 そうそう、魔力操作でエーテル化を出来る段階まで進んでいたことを、お母様はとても喜んで褒めてくださいましたわ。頭を撫でて手放しで喜んでくださいました……ワタクシ、あんなに嬉しそうなお母様を見たのは初めてですわ……


 ワタクシは甘やかされて育ちました、お母様は何か出来る度に褒めてくださいました……けどそれは出来たことに対するご褒美、それ以上では有りませんでしたわ。


 ワタクシ、知っておりましたわ……ベニカは、別に他者よりも優れていないと、そう出来て当然の事を出来るようになっただけ。寧ろベニカは身体的なハンデから他者よりも劣って、そう足手纏い、お荷物でしたわね。お母様が褒めて下さるのは、他者よりも優れているからではありません。お母様が甘やかしてくれるのは寧ろ他者から劣っているから……


 悔しかった……そうとても悔しかった……そして悲しかった……ワタクシはこんなに愛情を注いでもらっているのに、こんなに愛されているのに、ワタクシは何も返せない。お母様に安心して頂く、そんな事すら出来ていない。何時も甘やかされて心配されてる。それが……とても心苦しかったのです。


 ワタクシは、お母様に褒めて頂きたかった、そう、お母様の『自慢の娘』として褒めて頂きたかった。お母様に安心して頂きたかった、ワタクシはもうここまで大きく、強く育ったのだと、それを分かって頂いて、安心して安堵して笑って頂きたかった……それがベニカの夢でしたわ。


 ワタクシはまだまだです、それは分かっていますわ。けど昨日のお母様は、褒めて下さいました。出来たことでなく、優れていると褒めてくださいました。そしてこのまま順調に訓練を続ければ安心だと、これで安心できると仰ってくださいました。


 ワタクシは夢に近づいています。確実に前に進んでいます。大切な姉、そう侍女達にも恩返しができる。お母様だけでなくお父様にも、お兄様達にも、ワタクシは与えられるだけでなく、何か返せる。返すことが出来るようになる。そう思って浮かれて居りました。


 ワタクシは訓練の際に調子に乗って失敗しました。ワタクシは調子に乗りやすいお調子者ですわ。反省した、その心算でしたわ。でも、また調子に乗ってしまっていた……だから……ゲームの中のベニカが警告を発して、忠告してくれた、それが昨夜の悪夢……そう思います。


 そう油断して良い状況ではまだないでしょう? まだ夢に向かって進んだだけ、夢を叶えてませんわ。だからその警告を発してくれた、そう思います。


 紅華はゲームの中のベニカに恨まれているとそう感じていますわ。確かに第一弾のままでしたらそうかもしれません。けど第二弾では違いましたわ。第二弾のベニカは色々ザマァで酷い目に遭いましたけど……どこか楽しそうでしたわ。イケメン目当ての乙女ゲーですのよ? なのにイケメンそっちのけで悪役令嬢の人気が出る……普通あり得ませんわ。それほど魅力的で、可愛らしく、楽し気に悪役令嬢をしておりましたわ。


 第一弾でもそうです。とても気高い、貴族として、そう貴族としての矜持を持った素敵な女性でしたわ。悲劇的な運命に翻弄されました。けど彼女は貴族、最初から最後まで、侯爵令嬢、高貴……少しもその気高さを失うことの無い女性として存在していましたわ。シナリオライターの後輩と、イラストレーターの後輩の御陰かもしれませんわね、けど、紅華もそれを否定しませんでしたわ。


 もっと醜く浅ましい女性、下劣な女性でも良かった筈です。純粋無垢な聖女のような主人公の、ライバルとして、立ちはだかる壁として、主人公が挑むにたる、そんな女性として書きたかった、そしてそんな女性として描きたかった、そうなのでしょう。けど最後にそう……紅華もそう設定した。


 ワタクシは貴族として、最後までその矜持を保ったベニカが、生みの親である紅華にザマァがしたくて恨みでご自身に転生させたとは思えません。彼女は例え何が有ろうと貴族、その気高さを失ったりはしませんわ。ベニカは、ゲームと同じ運命に落ちそうなワタクシを助けて欲しくて紅華をベニカに転生させた、そうなのだと思いますの、無論、ワタクシの思い込みです、勝手な妄想です。


 でも、ベニカは紅華に救われていますわ。


 ですから、落ち込まないで、塞ぎ込まないで、また表に出てきて欲しいのですわ。ワタクシは『私』そう一緒です。何も違いは有りませんわ。紅華が悲しいと、ベニカも悲しい。紅華は何時も前向きでしたわ、『どうせ死ぬのなら、せめて前のめり』紅華らしい素敵な言葉ですわ。


 紅華は神様では有りませんわ、完璧などあり得ません。第一弾でベニカのことに対する配慮が足りなかった。それは間違いありませんわ言い訳は致しません。けど、他に手一杯だったではないですか? あれ以上出来ませんわ。リソースには限界が有りますわ。主人公とイケメンな殿方に集中していたのです。他が疎かになるのは仕方がありませんわ。連日残業して、会社に泊まり込む位頑張ったじゃありませんか。あれ以上は無理です……限界でしたわ。


 紅華もワタクシ、ワタクシの自己弁護、そうなのでしょうね。でもワタクシは紅華が好き、紅華のしてきたことを否定したくはありませんわ。紅華は限界まで頑張って前のめりで生きましたわ。それだけは胸を張って言えますわ。最後は……心残り……だからこそ転生したのかもしれませんわね。なら……だからこそ、生まれ変わったこの世界で、ベニカで今度こそ心残りが無いように、前のめりで生き切って、そう思うのです。だってそう思ったじゃありませんか。『どうせ死ぬのなら、せめて前のめり』そうでしょ?


 少し元気が出ましたか? んふ、分かってますすこし時間が必要ですわよね。暫くはワタクシが頑張りますわ。でもまた『私』も表に、ね? お願いいたします。だってワタクシは私、そうでしょ?

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