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第15話 悪夢

 気が付いたら、広場に居た……


 石畳の広場……辺りには大勢の人、人、人……


 手枷を嵌められている……何故だろう? 何故手枷なんて……


 手枷から伸びた武骨な鉄の鎖を覆面を被った大男が引く、それを引かれたら歩かざるを得ない……


 歩きたくない、先に進みたくなない、その先に待っている物を知っている、だからそこには行きたくない……


 人々の合間から、広場の中央に設置されたそれが見えて来る……そうそれは処刑台……


 大きなギロチンの刃が鈍く、冷たく光る、断頭台……そこへ引かれていく……


 立ち止ろうとしても無理やり鎖は引かれていく、あんな大男の腕力に敵うはずがない……無理やり歩かされる……


 徐々に近づく処刑台……もうハッキリと、疑い様も無く目に飛び込んでくる……


(あれで処刑されるのね……何故……どうして……誰か助けて……)


 助けを求める? 誰に? 周りには誰も居ない、そう知っている者が誰も居ない……こんなに大勢の人が居るのに……居ない……


(……誰に助けを求めればいいの……?)


 そもそも何と言って助けを求めれば良い……


(何故……処刑されなければいけないの……)


 分からない、何故? 何度も、何度も、何度も考えた、けど何度考えても分からない……けど一つだけ分かっている事がある……


(ここに居る人たちは、皆、処刑されるのを見に来ている)


 そうこの広場に集まった人々は、皆処刑されるのを見物に来ている。処刑されるのを期待している。そう憐れな生贄が処刑されるのを皆期待しながら待っている。


 誰も知らない、誰一人知り合いは居ない。この広場の人々は誰も、その生贄が何故処刑されるのか理由を知らない、何の罪なのか知らない、処刑されるのが誰なのかさえ知らない。だが処刑される、それを期待の眼差しで今か今かと待ちわびている。


 彼等は誰でも良いのだ。自分以外の誰かが自分以上に不幸になることを期待している。不幸にも哀れにも無残に、ここで処刑されるのを期待している。


 向けられる眼差しに、憎悪の感情はない、そこに怒りの感情はない、処刑される者の罪が何なのか、それすらどうでもいい、罪など憎んでいない。そこにあるのは、ただただ期待……不幸になる、絶望に叩き落とされる、救いのない状況に泣きわめく者への期待。


(言葉なんて無意味……そう、彼等は言葉を発しても、助けを求めても喜ぶだけ……)


 分かっていた……運命は決まっている、処刑台はもう目の前だ。一歩一歩処刑台に上がる。逃げ出す事すらできない。周りに居る人々がそれを許さない。無力な犠牲者に何ができるだろう……


 処刑台の上で辺りを見渡す。人々の顔がよく見える。そこには一欠けらの同情も、憐憫もない。有るのは期待に満ちたぎらついた眼差しだけ……


 ギロチンの刃の下に、膝ま付かされ、乱暴に首を引かれ、器具で首を動かない様に固定され閂が掛けられる。


 歓声が聞こえる、そうこれから一人の人間が処刑されて死ぬ、命を失うのに、辺りに響くのは歓声、もし悲鳴を上げる者がいるとするなら、そうすべきは犠牲者のみ……


(絶対にイヤ、絶対に悲鳴なんて上げない、絶対に楽しませてなんかやらない、やるもんか!!)


 そう彼等は不幸な生贄を求めている、自分よりも不幸になる成る者を求めている。


 ギロチンの刃を支える縄の切れる音がする。歓声が一際大きく成る……辺りが、景色が暗くなる……



 どの位そうしていたのか……分からない……私はベットの中で自分の身体を抱いて震えて身を縮める。寒い、震えている筈なのに汗が、汗が止まらない。私はベットの中で縮こまり怯えて一人泣いていた……


(あ……あれ……あれは……悪夢? いや違う、あれはそう、実際に、何度も何度も繰り返されたであろう事実……)


 そうだ……あの風景に覚えがある、あのギロチンが設置された処刑台には覚えがある。あれは……あれは私の作った乙女ゲーのイラスト。そのイラストに描かれていた物だ。あの石畳の広場もそう……


 あれはゲームの中で繰り返された光景……


 私は、悪役令嬢に、今まで散々主人公を邪魔して、前に立ち塞がった悪役令嬢に、最高のザマァとしてギロチンによる処刑を設定した。


(あの広場に居たのはユーザー……あれはゲームをプレイしていたユーザーの分身、ユーザーにカタルシスを起させて、楽しませる為の舞台、そして彼女はそれに選ばれた憐れな生贄……)


 ゲームを作っていた時、私は彼女の感情に配慮したかしら? 彼女という人間を考慮したかしら? いいえ何も考えていなかったわ……悪役令嬢として、記号としてしか見ていなかった。


 婚約者で有る第二王子がクーデターに失敗した。だから悪役令嬢も処刑され、ザマァな展開で、ユーザーに喜んで貰いたかっただけ。それしか考えてなかったのよ……だから彼女の罪なんて深く考えなかった……


(あの……夢の中でも考えたわ、彼女の罪、彼女の罪は何なの?)


 彼女は自分で望んだ訳でもないのに第三王子と婚約し、一方的に婚約破棄され、その不名誉を雪ぎ、名誉を回復するために第二王子と婚約した、それだけだわ。


 確かに主人公とは相いれなかった……主人公の前に立ち塞がったわ。


 けど、彼女はそれだけ。主人公と仲良くしなければ罪なの? 主人公に道を譲らなければ罪なの?


 彼女と主人公は相性が悪いわ、最悪でしょうね。仲良く友達になんてなれるわけがないのよ。


 主人公は万人に優しい、相手が誰であろうと親切に優しく対応して、一生懸命相手の問題を解決しようとする、彼等に視線を合わせ皆が幸せになる方法を探す。そうそれで主人公は聖女には成れるかも知れない。けどそれは貴族ではない。


 彼女は万人に優しくない。特定の誰かに優しくする事はない。皆を等しく扱い特定の誰かに肩入れをしない。問題があるならそれを解決する様に上から周り命令する。そう命じるだけ。彼女は聖女には成れない。しかしそれは貴族だ、貴族として上に立つ者として正しい行為だ。


 だから主人公と彼女が相入れる事は無いのよ。主人公は聖女、彼女は貴族。目指す方向が違うわ。


 主人公は魔法学園に入学して、強く成ろうと懸命に直向きに努力するわ。


 だけど、その時彼女は既に実力者として学園に君臨している。


 彼女は主人公の努力を嘲笑うかのように、試合で主人公を圧倒的な力で打ち負かす。主人公は敗者の屈辱に塗れる。


 けどそれが罪なの? 主人公に勝ったら罪? 彼女は正々堂々と試合をしただけ。


 主人公は確かに魔法学園に入学してから努力したわ。けど、それまでは何をしていたの?


 彼女と主人公は同い年。彼女が学園に君臨する程強くなる、その努力をしていた間、主人公は田舎の領地でのんびり幸せに暮してたのよね? 何も努力しないで……


 昨日今日努力を始めた者が、長年努力し続けた者に勝てないのは当たり前でしょ? それで負けた、それが屈辱だ。だから勝ったお前が悪い? 逆恨みも良いところだわ。


 主人公が仲良くなりたいイケメン、そのイケメンと仲良くなるのを彼女が邪魔したわね。


 けど、シナリオライターの後輩は言っていたわ。彼女は主人公がそのイケメンと知り合う前から、そのイケメンと仲が良かったと。


 後から主人公がそのイケメンと仲良くなったからと、そのイケメンと彼女が仲良くしてはいけないの? 仲良しなのに主人公に遠慮して仲良くしてはいけない。そんな馬鹿な事ってあるの?


 主人公からみれば彼女が邪魔をしている様にみえる。けど、彼女からみれば主人公が邪魔をしているように見えるわ。後から来て自分の邪魔ばかりする主人公。普通なら文句を一つ二つ言いたくなるのに……


 けど彼女はその事を主人公に文句を言ったことは無いわ。そう彼女は主人公に不満を漏らさなかったわ。


 主人公は一人悲劇のヒロインを演じ、それでイケメン達から同情されて、更にイケメンと結ばれる。


 そして彼女は主人公にとって邪魔だった。ただそれだけの理由で処刑される。国外に追放される。国外の狒々ジジイの所に嫁がされる。


(彼女の方がよっぽど悔しい、そうでしょ? 彼女は何も悪い事はしていない。只管主人公にとって邪魔な高い壁。常に見下されているように見える高飛車な嫌な女。だけどそれだけ……)


 シナリオライターの後輩は、彼女がギロチンになるのを反対していたわね……彼女は今私が考えたことを事前に教えてくれていた。けど、ゲームとして、その方がよりザマァでユーザーが楽しめる。一回ザマァし損ねているからこそ、派手にザマァするべきと主張してギロチンに決めたのは私。


 そうベニカに不幸をもたらしたのは私……


 あの悪夢、そうあの悪夢をベニカにもたらしたのはこの私。


 あんな理不尽を何度も何度もベニカに味合わせたのは私だ……


 ゲームの中で何度も何度も理不尽に処刑されたベニカが、そう彼女の想いが今この状況を作り出している。


 私はゲームの中のベニカに今ザマァされているのね……お前もこの理不尽を味わえと、その想いを神様が叶えた結果。


 でも……そう……でも私はザマァされても仕方ない!


 私はイケメンと主人公にしか目がいっていなかった……ベニカの事なんてちっとも考えていなかったわ、彼女の状況の理不尽さに気が付かなかった、ゲームの盛り上がりしか考えていなかった……私の罪は明白……


 でも……ベニカは違う! この娘は何も悪くない! 何で! 何でなの! 何でこの娘が私のザマァに巻き込まれてるの!


 ベニカは良い子よ、見た目は確かに悪役令嬢だけど中身はとっても良い娘!


 私は……私が巻き込んだ、ベニカを私の罪に巻き込んだ……恥ずかしい、私は自分が恥ずかしい……無関係なベニカを巻き込んだのに、ザマァされたくないとか騒いでいた自分が恥ずかしい……


 ベニカに合わせる顔が無い……この娘になんと言って許しを請えばいいの……私は愚か者だ……私は咎人だ……消えたい……消えてしまいたい……


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