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第14話 侍女

 魔力循環をして魔力をエーテルに変えていく訓練を始めるわ。


 指示に従って、最初は右手に移動していた魔力を、身体の中心まで戻す。そのまま子宮と心臓の間をグルグルと回転させてってのが基本の魔力循環ね。私の場合、魔力を包む膜が安定しているのでとても楽かも知れないわね。


 段々と回転速度を上げていくと有る瞬間、それまでと明らかに違う手応え? いや魔力の感触が返ってくる。お菓子作りをした事のある人なら、生クリームをホイップした事があると思うけど、あの感覚に似ているわ。ある瞬間から急激に変化するの。


(これがエーテル化! 魔力は結構量があった筈なのに……出来るのはこれだけ? チェーンったらあの量のエーテル……どれだけ広範囲から魔力をかき集めたの?)


 今思い返すと、あのチェーンが手を振ってエーテルを払っている様に見えた行為。あれはエーテルの輪の形を崩して、その一部を手と接触させてたんだわ。そこからエーテルを体内に取り込んでいたのね。折角集めて作ったあの量のエーテルを無駄にする筈はないわ。


(まあ……一度に出来る量は少ないけど、繰り返せば良いだけよね。もう子宮に次の魔力が貯まってる……回復したって事なのかな? ……心臓や頭付近からも移動してる? 大体同じ濃度になるように移動してるのね?)


 ゆっくりとだけど、頭や心臓付近から子宮に向かって魔力が流れていっているような……


(訓練前は感じなかった、自分の中の魔力の流れが今は感じられるわ……あっ、でも補給もされてる、そうか流れ込んでくる魔力も感じられるのね……魔力を感じるセンサーが鋭敏になった? ん、何か違うな……今まで働いてなかったセンサーが動き出したって方が近い感じかな?)


 目を閉じて集中すると、より一層体内の魔力の流れがハッキリと感じられるわ。


(出来上がったエーテルは何処に貯めるのかな? んん、なに? 子宮に引っ張られてる感じがする? あっ、この辺で落ち着いたわ。ここで良いのかしら? 魔力とエーテルは交じり合わないのね……元は一緒なのに不思議ね)


「流石はお嬢様ですね、エーテル化も成功してます。そうですね、暫くエーテルはその付近に貯めてまいりましょうか」


「ねえ、クララ、何か勝手に子宮にエーテルが引き寄せられた気がするんだけど……」


「魔力貯槽器官は、その器官そのものが魔力を無意識に引き付けます。体の重要器官であることが多いので、無意識に魔力で強化して守ろうとしているようですね」


「体表面の膜もそうだけど、上手い事出来ているのね生き物って」


 そんな事を言いながらも新たな魔力を循環させてエーテル化の操作を続ける。


 うん、やっぱり一度成功すると後は簡単ね。ベニカは超優秀、一度、体内で魔力を回して、循環の仕方を覚えると、後は完全にルーチン作業じゃない? 私の場合、並列処理ができるし、サブルーチン化できるから、意識することも無く、自動的に魔力がエーテルに流化されていくわ。


「これは……折角ハンナやアニスに新しいアクセサリーを持ってきてもらったけど……必要無さそうですね」


「ふふ、これは流石に予想外でしょ? 気にしないでクララ、仕方がないわよ。お嬢様、今付けてるアクセサリーもお外し致しますね」


 ハンナやアニスが、ブレスレットやアンクレット、それにチョーカーを外してくれる。これお洒落じゃ無かったのね……デザインも凝ってるし、てっきりお洒落なアクセサリーだと思ってたのに……


「そうなのハンナ? もう必要ないって事?」


 魔力が悪さをしない様に、余分な魔力を吸収してたのよね? 明日の訓練の為にも少し減らした方が良いんじゃなかったっけ?


「もう既に魔力のコントロールは出来ておいでです。この段階では返って邪魔にしかなりませんから」


 ああ、そういう事ね、確かに順調にエーテルが蓄積されているわね。けど、何時も何某ら身に付けていた物が無くなると……何だか足りない気分になるのは何故かしらね? そこにある筈のものがないのは、なんだかちょっと寂しい。


 今までだって何種類か合ったのだし、新たに普通のアクセサリーを買って付けたりしたらダメなのかな? 高いんだろうか? 高そうだけど……宝玉で吸収してたならそこだけ付け替える? でも付けるなら宝石よね? ……この大きさの宝石って私の年収の何倍するのかしらね……そもそもこの宝玉は幾らするの?


(今は私もアシュリー侯爵家の御令嬢なんだから、余り庶民感覚で値段を考えない方が良いのかしら?)


 因みにベニカの記憶には、お金に関する知識がない。そう、買い物をしたことがない、金額の話をしたことがないのよね、この娘! お母様から予算の愚痴を聞かされることは有っても、具体的な金額の話は出ない……だから通貨の単位名称すら知らない……


(お金その物を見たことがないのよね……もう13歳よね? どれだけ箱入りなの? まあ……洋服ですら自宅でオーダーメイドだものね。必要なかったんだろうけど……外出するまでにその辺の情報も仕入れないとダメね)


 初めてのお使いが何時になるのか、若しくは一生ないのか分からないのけど、万が一の際に絶対に苦労する。金銭感覚がマヒしているのではなく、最初から存在しないんだもの。林檎一個が幾らするのかさえ知らない。だから自分が身に付けている物の価値を知らない、わからない。


(暴漢に襲われなくても、道で迷子になっただけで死ねそうだわこの娘……13年間もこの街に住んでいるのに、地図すら見たことがないわ。屋敷の中でさえ行ったことの無い場所が多数……外に出なくても屋敷内で路頭に迷うレベルね)


 侍女達が過保護過ぎるのよね……今後は先ず屋敷内の探検から始めるべきかも……街の地図やこの国の地図も欲しいわね……はぁ、先は長いわね。


「ちょっと疑問なんだけど、この吸収した魔力って、どうしてたの?」


 だからこの話を聞いた時から疑問だったことを、気を紛らわせる為にも聞いてみたの。だって魔力を吸収して貯めてるのよね?


「この宝玉はここから台座事外れます、これが規格サイズに出来てるんです。だから外して魔道具にセットして使用していましたよ?」


 ……乾電池? これ魔力の乾電池よね? 私は充電器変わり? ねえ貴方達、私を充電器変わりしてなかった?


「内部に貯めた魔力消費すれば、この宝玉はまた魔力を吸収できます、繰り返し使用する為に必要処置なので……そんな目で見ないでくださいまし、お嬢様!」


 まあ、良いですけどね! 確かにアクセサリーを付ける前は良く体調を崩してましたからね。って、何だろ体調の事を考えていた所為かな、頭が……あれ? これって低血糖?


「あら? あまりお腹が空いた感じはしませんのに……おかしいですわ」


 消化よりも消費が上回ったんだろうか?


「お嬢様っっ! これは、魔力制御は脳の活動が活発になるから糖分を消費するんです。ああ、どうしましょう! こまめに間食を取るように言われていたのに……」


「クララ、今は糖分の補給が先よ、お嬢様まだ大丈夫ですか?」


「大丈夫よシオン、この位ならまだ平気、糖分……ねえワタクシ、ケーキが食べたいわ、シオン、皆でケーキを食べたいの、ダメ?」


 糖分補給に甘い物、そう……ならケーキが食べたい! 紅華もベニカも甘いものが好き! 特にケーキには目がない。でも侍女達は余り甘いスイーツを食べさせてくれないのよね……


 別に意地悪をされているのではないわ。ベニカの胃は小さいから仕方ないのよ。ケーキを食べると、通常の食事を一食抜かないとダメなのが原因なのよね。


 ベニカの食事の栄養のバランスを考えて、日々の献立は組まれているわ、ケーキを食べて、通常の食事を抜くと、摂取する栄養バランスが無茶苦茶になる、それで余り頻繁に食べさせて貰えないのよね……


(うん、分かってる、それは分かってる……でも食べたい、今日は食べたい、絶対食べたい!!)


 ベニカの記憶に有るケーキがあまりにも美味しそうだったからってのもあるけど、侍女達、特にシオンとはお詫びと仲直りも兼ねて、一緒にケーキが食べたいの!


 だから使うわ、ええ、ベニカの記憶にある最終手段を使う。くらえ! 必殺、上目遣いウルウル攻撃!!


 ううぅ、34歳の良い大人が何してんだろう……でも私も、ベニカの記憶もそれを望んでいるのよ! 手段になんか構っていられないわ。羞恥心をかなぐり捨てて、見つめること暫し……


「はぁ……仕方ありませんね、わかりました、今日だけですからね、よろしいですか? お夕食は食べられないでしょうから、キャンセルしておきます。アニス、ケーキをお願いできるかしら?」


 シオンが折れてくれた、やった! ケーキだ!


「西の庭園の何時もの日替わりで良いかしら? ああ、でもお嬢様がお食べになるのだから、種類が多い方がよろしいですわね、それにいくつか追加して頂きましょう。お嬢様、お飲み物は紅茶でよろしいでしょうか?」


 流石アニス、もう何も言わなくても分かってくれてる! そうベニカの胃は小さい、だから侍女達から一口づつ、色々なケーキを食べさせてもらうのが、何時ものベニカのケーキの楽しみ方、食べ方なのよね。


 侍女達にもあーんをして食べて貰ってと、この時は侍女と一緒に楽しく食べられるので、それがとても嬉しいの。ベニカは本当に侍女達を姉の様に慕っているので、嬉しくて嬉しくて仕方がないのね。ベニカの記憶が大はしゃぎだわ。


「ええ、アニス、それでお願いね♪」


 アニスに返事をする声も弾む、私だってベニカだからね。嬉しいのは変わらない。


「はい、承知しました」


 ヘテロクロミアな彼女は、若干垂れ目、釣り目な私としては正直羨ましい。そんな羨ましい垂れ目でニコリと笑うと更に優しい感じがする。本当に癒し系なのよね。お姉さんよりもお母さんと呼びたくなるのは何故だろう?


「アニス、一応フルーツ多めでお願いしてみて、お嬢様は夕食代わりだから」


 フルーツも好きだから良いけど、私は今生クリームが食べたいのよチェーン! まあアニスは私の好みを知っているから、必ず一個は苺のショートケーキの筈!


「了解しましたチェーン。じゃあ注文してくるわね」


「アニス、ちょっと待って、私は厨房に行ってお嬢様の夕食をキャンセルしてくるわ。貴方達は今日何が食べたい? 夕食代わりに何か軽い物を作って貰ってくるわ。お部屋で食べましょう」


「うーん、後で食べることを思ったらサンドイッチ系が良いかしら?」


 アニス昼は何を食べたのかな? 重なってない?


「そうね、私もそれで良いわシオン」


 あれ、クララも? まあ、ウチの料理長、パンや具の種類を替えて、サンドイッチだけでもバラエティに飛んでいるから平気なのかな?


 パンズだけでも食パン、フランスパン、コッペパン、ベーグル、クロワッサンと豊富なのよね。


 女性使用人にはクロワッサンが特に人気なのだとか……紅華の記憶を得て思うんだけど料理長って何者? 明らかにおかしくない? 前世の世界のパンが一杯出てくるんだけど、この世界にも似たような文化が偶々あったって事なの?


「私は野菜多めでチーズも入れてって頼んで、お願いね」


 チェーンは余り肉を食べない、食べれない訳じゃないんだけど、野菜が大好きなんだって、チェーンが何時も美味しそうに野菜を食べるから、ベニカも幼い頃から野菜好き。


 この世界の野菜が余り苦くないのもあるけど、チェーンが食べているのを、分けて貰って食べてるうちにってのが最大の要因だと思う。


 ベニカが『一口ちょうだい』って言うとあーんしてくれるのよね。それが嬉しくて食べてるウチに野菜好きに……やっぱり育ててる人に好みって似るのかしら?


「あっ、じゃあ私もチェーンと同じでお願いねシオン」


 ハンナは日替わりで肉と野菜バランス良く食べているわね。今日が野菜って事は昨日肉だったのかな?


「はい、では行ってくるわね」


「あっ、まってシオン途中まで一緒に行きましょ」


 シオンとアニスは仲良く部屋を出て行く。侍女の五人は皆んな仲が良いのよね。この二人の場合、娘と若いお母さんの仲良しコンビみたい。


 でも二人にそれを言ったら、多分アニスにぶっ飛ばされるわね。いやベニカを実際に殴ったりはしないけど、確実に暫く機嫌が悪くなるわ。


 あくまで私のイメージとしてだけど……家族に例えるとこんな感じ。


 シオンは見た目はクール系の真面目な優等生、けど実際はクールと程遠いほど表情豊かで、想定外の事が有ると、すぐオロオロして仔鹿みたいに可愛いの! 歳上なのに! だから三女って感じ。一番華奢で小柄な所為かも知れないけど……あとスッゴイMっぽいの! 色白な顔を真っ赤にして恥じらっているのを見てると堪らなくなるわ……あれ? 私もベニカに毒されて来てる?


 ハンナは次女かしらね、見た目はしなやかな身体付きで女豹って感じ、濃紺の髪の毛と金色の瞳で、黒豹をイメージさせる鋭い感じの美少女なの。でも実際は明るくお茶目で、割とマイペース、優しいんだけどベニカの我儘はサラリと聞き流すのよね。だからか女豹よりマイペースな可愛い猫っぽい。自分のペース甘えて来るのに、私が構うとサラリと流すところがソックリ。私と同じで見た目でちょっと損してるタイプ。


 クララは長女ね、ルールに厳しくて、メガネを掛けていないのに、メガネが似合いそうな生真面目な風紀委員長タイプ。この中では一番の巨乳で、実際の歳よりもお姉さんな雰囲気があるわね。そのルールに厳しい性格故か、五人の纏め役なんだけど、割とあわてん坊、シッカリしているようでどこか抜けてるドジっ子なのよね。けど真面目でルールに厳しく、ベニカの我儘に決して流されないから、お母様の信頼は厚いわね。それでもって間違いなくドS。


 チェーンは何故かお兄ちゃんっぽい。五人の中で一番背が高くて、見た目がカッコいい麗人タイプのお姉さんなのよね。実際は女性らしくて優しいお姉さんなんだけど、ダンスのレッスンで、私のパートナーとして男役をしてくれている所為かな? 私の中では優しいお兄さんのイメージが強い。実際何時もベニカをエスコートしてくれているんだけど、カッコイイの! 女性なのに!


 で、アニスはお母さん、皆んな同い年な筈なんだけど、何故かバブ味を感じるの。五人の中で一番歳上に感じる。知らない人が若奥様って紹介されたら絶対に信じる。他の四人より少しだけ柔らかい肉付きで、纏ってる雰囲気が優しいの。良くベニカが甘えて抱きついてるわね、抱き心地がバツグンに良いのよ。それに抱きついていると何故か安心するの。一度ベニカが朝、寝ぼけてお母様って甘えて抱き着いて以降、お母さん扱いは地雷。本人も多少自覚が有ったのか気にしてるのよね。


「では私は奥様に連絡をしておきます、お嬢様」


 二人が出て行くと今度はクララが隣室の扉を開けながらそう告げる。お隣の侍女達の控室に連絡する為の内線があるの。


「はい、お願いします」


「ではお嬢様、ケーキが届くまで、少しベットでお休みいたしましょう、よろしいですね?」


 ハンナが私をベットに導く、椅子に座らせておくより、ベットの方が万が一倒れた際に安心だと思われたのかも知れないわね。


「ハンナ、少しお嬢さまを一人で任せるけど良いかしら? 隣でお茶会の準備をしたいの、一人でも大丈夫かしら?」


 チェーンはサンルームでお茶会の準備をするみたいね。少し日が陰ってきてるから確かに丁度いいかも、こう夕陽に照らされた庭のお花も綺麗なのよね。


 日差しがきつ過ぎないのが、ベニカに優しくていい。折角のサンルームだけど昼間は余り使用しないわ。侍女含めてベニカ達は色白で目の色素が薄いから、昼間の日差しが苦手なのよね。


「ええ、任せてチェーン、さ、お嬢様、こちらに……っとその前に御トイレに行きましょうね。お昼前に行ったきりでしたわね?」


 あっ……うん、そうね、トイレには行きたいかもね……でもね。


「えっ……っとハンナ、あの……」


「ささ、お嬢様、こちらです、ふらついてますからからね、ハンナにシッカリ御掴まりください」


 うん、ハンナ、私、嫌な予感しかしないの、ねえ、付いてくるのは御トイレの前までよね?


「ハンナ、あの一人で……」


 そうこれだけは確認しないと……あれ? そう言えばハンナって昼間チェーンが付いてきたとき、チェーンに良い事言ったみたいな顔してたわよね?


「ダメですよ、お嬢様、御倒れになったらどうするんですか? ハンナはお嬢様を任されたんです、ですから、ね? 万が一が有ってはなりません」


 はぁぁぁっ! やっぱり! やっぱりなのね!


「でもねハンナ……」


「ふふ、『でも』は無しですよ、お嬢様」


 何故、何故なの? 言葉ってなんて無力なの……ニッコリ笑って見つめるハンナに何も言い返せない。でもダメよ……あんなに次は断ろうって、毅然としてノーと言おうって誓ったのよ……



「あら? お嬢様はすっかりお眠かしら?」


 アニスがケーキをサービスワゴンに載せて戻ってきた時、私はベットで枕のクッションに顔を埋めていたわ。何をしてたかって? 自分の無力さを噛み締めていたのよ!!


 そうよ、低血糖気味で少しふらついていたのは事実、万が一を考えたら目が離せない、そうハンナの行為は善意、善意に対してどう抗えばいいのよ?


 馴れない……これだけはやっぱりダメよ、ああ、神様、何か上手く断る方法はないのでしょうか?


 暫く元気でいれば元に戻る……筈よね? 私、これがあるなら暫くワタクシに主体を渡したままで良いわ。これならお風呂の方がまだマシよ。


「どうしたのアニス?」


「あら、シオンも戻った……奥様? 大変失礼致しました、どうぞお入りください」


 え? お母様?


「お母様? 何故?」


「クララから連絡を貰ったのよ、ケーキを食べるのでしょ? お夕食に出てこれないって言うから様子を見に来ました」


 脇に控えたアニス、お母様が部屋に入ってきます……何故?


「え? でも、今までも何回かありましたわよ?」


 そう今までも何回かケーキを食べて、お夕食をキャンセルしたことあったわ。でもお母様が様子を見に来たことは無かった、ちゃんと連絡を侍女がしているのでそれで特に問題なかったわ。


「ベニカ、これでもワタクシは貴方の母親よ? 余り構ってあげられない、それを心苦しく思っているわ。だから、娘が倒れた翌日位は可能な限り一緒に居たいの。身勝手なのは承知してます、だけどそうしたいの。ダメかしら……」


 少し顔を赤くしてそう問いかけるお母様、うん、本当にお母様はベニカ大好きみたい……愛されてるねベニカ……


「いえ、とても嬉しいですわ……ただ……」


 そう、嬉しい、とても嬉しいのだけど……


「ベニカ、貴方が心配しているのは侍女達と楽しくケーキを食べれない、そうでしょ? ワタクシが一緒だと、侍女達が一緒に食べられない、それが嫌なのでしょ?」


 そうお母様がもしこのまま私とケーキを食べると言った場合、お母様とケーキを一緒に食べれるのは嬉しい、だけど、侍女達とは一緒に食べられなくなってしまう……ベニカの胃は小さい、お母様と食べた後、侍女とケーキを食べることは不可能……


「お母様……」


 答えようがない……二者択一、でも選べない……


「ベニカ、ワタクシが家族での食事の際に侍女と一緒に食事するのを禁止しているのは、それが貴族であると言う事、他者の上に立つという事の自覚を促す為。良いベニカ、貴族は人の上に立つからこそ、その孤高に耐えなければいけません」


 そう、教えられている、だから分かってる……


「貴族には多くの物が与えられています、しかし、それはただ与えられているわけではないわ。義務を、務めを果たすからこそ与えられている物です。その気高き義務を果たすから貴族、分かりますかベニカ」


 そうアシュリー侯爵家の人々はベニカに甘い。しかし、貴族としての義務、それを自覚させる為の教育は徹底して行われる。そこに甘えは無いわ……


「孤高に耐える、それも貴族の義務、侍女と一緒は楽しい、親しい者と共に居るのは安心でしょう。貴方は侍女を姉の様に慕っている、それはワタクシも承知しています。それを止めろとは言いません。他者の見ていない所では構いません。しかし、他者の目のある所で侍女との馴れ合いは許しません」


 そうお母様は決して許してくれない……私が侍女と親しく触れ合えるのは私のお部屋の中だけ……


「良いベニカ、貴族である貴方の下には、貴方を支えている大勢の使用人が居ます、家臣が居ます。貴方が一部の親しい物とだけ楽し気に話していると、その他の者はどう思うか、考えたことがありますか?」


 私の生活は、数多くの使用人たち、また家臣、もっと言えば領民によって支えられている、それを忘れることをアシュリー侯爵家は決して許さない。


「全て平等に扱う事など出来ません。働きに応じて、その与える対価も変わるのは当然でしょう。しかし、人は不当に多く与えられた者に対して、必ず不平、不満を感じます。そんな事が積み重なれば組織は機能しなくなる。その責任は上に立つ貴族が負う、そうでしょ? そうならない様にする義務が貴族には有るのです」


 義務を負うからこそ貴族、それがアシュリー侯爵家の矜持、それが一族の誇り。それを命懸けで示し、守って来たからこその名門……


「だから、ワタクシは家族と一緒の食事、他者の目が有る際に、貴方と侍女が一緒に食事をすることは許しません。貴方が侍女とだけ食事をした場合、それは他の者の不平・不満を招きます。理解できますね?」


 五人は私に尽くしてくれる、私を愛してくれる。けど、他の侍女も大勢いる、他の使用人も大勢いる、彼女達だけを特別扱いは出来ない……


「はい……お母様」


 そう私は貴族、アシュリー侯爵家の令嬢。その義務を負っているからこそ、この五人も私に仕えてくれている。その義務を投げだすことは彼女達への裏切り……


「よろしい、では皆でケーキを食べましょうか♪」


 それまで厳しかったお母様の表情が一気に華やかに和らぎます。うん、私、泣きそうだったんだけど……今までのシリアスは何処へ?


「えっ? お母様?」


「ここにはワタクシ達しか居ませんよ、ベニカ。何か問題がありますか?」


 ちょっと待てと言いたい、けど確かにその通り、しかもお母様が許可してくれている。なら何も問題ない。何も遠慮の必要がない!


「お母様っ♪」


 そりゃもう私の中のベニカも大喜び、声も弾みますわ。


「でもベニカ、先ほど言ったことも忘れてはダメよ? 偶にコッソリは見逃してあげます。でも余り頻繁になのはダメ、いいですね?」


 一応釘を刺す事を忘れないお母様、でも激甘! だけどそんなお母様が好き!


「はい、お母様! お母様大好き!」


 思わず抱き着いていた。でもお母様も本当に嬉しそう。けど……ダメね、こんな顔のお母様は他の人の前に出せないわ。何故娘に抱き着かれて恍惚としてるのお母様…………


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