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1会いたい

 千沙都は走っていた。息を切らして、脇目もふらずに。どうしてこんなにも私は必死なんだろうかと考えるけれど、答えは見つからない。

 理由をあげるとするなら、ひとつだけ。


 ただ、一汰がメールを送ってきたから。


『会いたい』


 その一言に、こんなにも千沙都は急かされていた。


 雨上がりの路上は、しっとりとした雨の匂いがして静かで、外灯の光が水に反射していた。


 ポケットに入っている携帯が、何度も何度も音をたてるけれど、知らないふりをする。黙って家を飛び出してきてしまったから、母親が心配しているのだろう。



 カンカンカンカンカンカンカンカン



 夜闇に赤いライトが点滅していた。踏切で足止めされる。運動不足が祟って息を弾ませながらも、早くたどり着きたいのにと苛立つ気持ちを抑えて携帯を開く。


 液晶画面には、千沙都の母親の名前がでかでかと表示されていて、胸に苦い気持ちが沸き上がる。受信ボタンを押すか押さないか。考えている間に電話が切れて、少しほっとした気持ちになるけれど、すぐにまた電話がかかってくるのはよくわかっていた。


 周りの友人は皆スマートフォンを使っているのに千沙都がガラパゴス携帯を使い続けているのは、一汰のせいでもあった。

 時たまメールをしたり、会って話したりするだけの関係だから。他校の生徒というのもあって、頻度は少ないし、話せる時間も少ない。


 つながりがこれだけだと思うと、携帯を変えてしまうのはとても勿体ないと思うのだ。


 着信履歴はとても膨大。千沙都は冷や汗をかきながら電話をかけるが、踏切の音に遮られて通信音がよく聞こえない。


 大きな、怒声が耳を劈く。


『………今どこにいるの!』


 母親は娘の行動を束縛したがる気質があるから、今が何時であろうと怒られるのは仕方がないのだろうと思った。けれど、帰るつもりはない。


 呼ばれたから。


「ごめんなさい、文房具が切れちゃって。買いにいってくるね。もしかしたら置いて無いかもしれないから、時間がかかるかもしれないの」


 苦しい言い訳だと言いながら思う。千沙都は母親が何か言うより先に通話を切り、携帯電話をサイレンとモードに設定した。


「………会いたい」


 踏切を待つ間、肌寒い夜風に肩を震わせる。ずっと伸ばしていた髪をこの間切ったから、首もとが慣れない寒さを伝える。胸元で握り締めた手の中には携帯電話。


 こんなことが、あるのなら。


 それほど携帯電話は使わないし、母親からの連絡ばかりだから正直携帯は好きでなかったが、どうしようもなくこれから好きになるような気がした。


「…会いたい」


 呟くのは、一汰からのメール。


 会いたい。呟くのは、私。


 会いたい。一汰の言葉。


 会いたい―――誰の……私の、気持ち?


 踏切が上がった。走り出す。足が地面を蹴る。藻掻く腕が空気を掴む。息が切れる。頬が上気する。会いたい。会いたい。会いたい―――









 会いに行こう。









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