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婚約破棄排泄ゼリー〜復讐者が幸せになっても、いいですか〜  作者: 佐村河内ちゃっぴい


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17/22

幕開け

鐘の音が青空へ高く響いた。

タイムアタック家の大邸宅の正面には花を飾った馬車が何台も並び、広い庭にも色とりどりの花が咲き乱れている。

門前には招待客が次々と集まり、燕尾服や豪奢なドレスが陽光を受けて輝いていた。


「おめでとうございます!」


「なんて素晴らしい日でしょう!」


「エリシア様、本当にお綺麗ですわ!」


祝福の声が絶え間なく飛び交う中心に、花嫁がいた。

純白のドレスの長い裾には細かな刺繍が施され、胸元には真珠が連なり、陽光を受けるたび淡い光を返している。

長い髪は丁寧に結い上げられ、白い花が幾重にも飾られていた。

エリシアは集まった人々へ優雅に微笑みながら、一人ひとりの祝辞に応えていく。


「ありがとうございます。皆様に祝っていただけて、とても嬉しいですわ」


声も表情も完璧だった。

その隣では、クラウスが緊張した面持ちで立っている。


「クラウス様も、おめでとうございます」


「ありがとうございます」


「うお゛お゛お゛お゛んおんおん、お二人とも、本当にお似合いですわ」


「ええ、素敵なご夫婦になりそうですね、うお゛お゛お゛お゛いおいおい」


エリシアの取り巻きの逞しい令嬢たちも来ていた。

次々に向けられる言葉へクラウスは笑顔を返し、そのたびにエリシアの口元も満足そうに上がった。

誰もが、この日を幸福な門出だと思っている。


     *


屋敷の裏手では別の準備が進んでいた。

サーカスの団員たちが慌ただしく荷物を運んでいる。


「トーロ、その箱は右だ!」


「こっちか!」


「違うそっちは左!」


巨大な箱を抱えたトーロが右往左往する。


「こっちか!」


「逆よ!」


アルエットとパンソンが頭を抱えた。


「もういい! そのまま置いて!」


「おう!」


どすん、と箱が地面へ置かれる。

シュエットは片手で器用に小道具を並べ、アルエットと戻ってきたグリヴは舞台装置の調整をしていた。


「照明、問題ないわ」


「音響も大丈夫」


ルージュゴルジュが大きく頷く。


「よし! 我々の出番だ!」


団員たちがそれぞれの持ち場へ散っていく中で、シュラは一人、屋敷を見上げていた。

人魚の尾には舞台用の装飾が施され、銀色の鱗が陽光を受けてきらめいていた。


「シュラ! もうすぐ始まるぞ!」


ルージュゴルジュの声に振り返ったシュラは微笑んだ。


「準備はできています」


その声は穏やかだった。


     *


大広間に飾られた無数の花が昼の光を受けて輝いている。

楽団が奏でる音楽にグラスの触れ合う音、人々の笑い声、そして祝福の拍手。

司祭の前に立つクラウスとエリシアへ、次々と祝いの言葉が贈られる。


「末永くお幸せに!」


「お二人の未来に乾杯!」


クラウスがグラスを掲げ、エリシアもそれに合わせる。


「乾杯」


美酒が揺れ、二人のグラスが軽く触れ合い、カチン、と澄んだ音が響く。

エリシアは満足そうに微笑んだ。


「素敵な式でしょう?」


「……ああ」


クラウスは頷いた。

人々が食事を楽しみ、楽団が軽やかな曲を奏でているそのとき、司会役の男が声を張り上げた。


「皆様、お待たせいたしました! 本日の特別な余興をご紹介いたします!」


会場のざわめきが止まり、扉が開いた。

最初に姿を現したのは巨大な赤い燕尾服だった。


「王国一のサーカス団、ただいま参上!」


ルージュゴルジュが両腕を広げると歓声が上がった。

続いてトーロが登場し、燃える大きな輪を軽々と持ち上げる。

パンソンがその輪をくぐり抜け、シュエットが宙返りを披露すると、観客から驚きの声が上がった。


「すごい!」


「なんて身軽なの!」


アルエットとグリヴが鮮やかな布を舞わせ、色とりどりの布が宙を泳ぎ、音楽に合わせて大きな花のように広がった。

会場の空気が一気に変わっていく。

そして最後に、水音を思わせる楽器の音が響いた。

シュラが現れ、ざわめきが消える。

舞台衣装に包まれた姿は、まるで海そのものが大広間へ現れたようだった。


「まあ……!」


「本当に人魚なの?」


シュラはゆっくりと観客を見渡し、その視線が花嫁へ向く。

エリシアもこちらを見ていた。


「……あの人魚……以前、どこかで見たような気がして」


クラウスが呟く。


「気のせいでしょう。今日は私たちの結婚式ですもの。余計なことは考えないで」


エリシアは興味を失ったように扇を開き、クラウスは頷いた。

シュラは目を伏せる。


「それでは新郎新婦に捧げる一曲、歌わせていただきます」


シュラが微笑み、伴奏が始まる。

最初の一音が広間へ落ち、透き通った歌声が空気を震わせ、ざわめきが消えた。

グラスを持っていた者も、料理を取り分けていた者も、皆が手を止めてシュラを見つめている。

歌声は高く、そして柔らかく広間を満たしていった。

窓から差し込む光に揺れる白い花、銀色に輝く人魚の尾、その光景に客人たちは息を呑んだ。


「素晴らしい……」


「こんな歌、初めて聞いたわ」


拍手が起こり、シュラは歌いながら花嫁を見た。

エリシアとクラウスは拍手をしている。

歌声を途切れさせないままシュラは微笑んだ。

会場はまだ、祝福に包まれている。

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