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秘密組織の序列十位は自称器用貧乏  作者: 使い捨て系鉛玉
閑話の二
31/33

ヒュノとハルカのおつかれ会

お久しぶりです。間が空いて申し訳ございませんでした。

ちょっと友人に「お前の話、展開詰まんねえよな」と容赦なく指摘されて凹んでました。

ちょいちょいアクセスがあるのを見て回復し、同時に罪悪感が凄まじい事になったので取り敢えずストックにある閑話をどうぞ。

本編は一応三部の大筋だけ決まったので急いで書き始めます。

 


 それは遠い日の記憶。


 少女はある日いつものように組織の上司の命令に従って本部に向かっていた。

 少女には意思というものが無かった。

 秘密組織の一員としてただ言われた通りの仕事をこなすだけで、何を望むでもなく、ただ死なないでいるだけの存在。

 それが彼女だった。


 少女が指示通りの部屋に入ると、そこにはいつもの通り自分の上司である金髪の女性が居た。

 ところがいつもと違う点が一つ。女性の隣に見慣れない黒髪の少年が腰掛けているのだ。


「ん? なんで子供が……」


 少年はこちらを見るや困惑を浮かべ、女性と何やら小声で話し出した。

 取り込んでいる様子だったので出直そうかとも考えたが特に退出を促される事もなかったので立ったまま女性からの指示を待った。

 そうしていると、少年がこちらに近づいて来た。そして一歩手前で立ち止まると明るく破顔し、言う。


「今日から組織で世話になるハルカ・ウィルノートだ。

 今回の任務に同行する事になったからよろしくな」


 手を差し出して来る少年に、少女は困惑を浮かべ、間を空けて言葉を返した。


「よろしく、お願い、します?」


 おずおずと手を握り返すと少年は嬉しそうに頷く。


 ーーそんな出会いだった。まるで降って湧いたように突然な。


 けれどそれがきっかけだった。


 少女に、感情らしい感情が芽生えたのは。



 ◇



 秘密組織【秩序の鎖】本部。

 その治療室にて、先日任務によりとある迷宮の攻略を終えたヒュノは傷や疲労を癒すべく養生していた。

 養生、と言っても、もう体調はほとんど完全に快復しており明日には任務にも復帰出来る予定だ。

 しかしベッドの上の生活も十日目となればそろそろやる事が無くなり、ヒュノはすっかり暇を持て余していた。


「……むう、退屈です」


 ふと隣のベッドを横目に見る。そこには自分よりも重傷だったはずの後輩が寝ていたのだが、ほんの二日で完治してしまったらしく、目が覚めた時には既にもぬけの殻になっていた。

 三日も意識が無かった自分に未だ顔さえ見せに来ない薄情な後輩の顔をまた思い出しヒュノは頰を膨らませる。


「……ハルカの馬鹿」


 不貞腐れたように呟いたその時、ふと扉の向こうからノックの音が響く。誰だろうかと頭を捻るも特に心当たりはない。


「……どうぞ」


 扉の前で待たせるわけにも行かないので取り敢えず入るよう促すと、そこに入ってきたのはーー


「よっ、元気か?」


 ーー丁度さっき思いを馳せていた後輩、ハルカ・ウィルノートだった。


「ーーーハルっ……!?」

「ちょっ!? 無理すんな!」


 思わぬ来客に慌てて立ち上がろうとして、しかし体がついて行かずベッドから落ちてしまう。

 思ったより筋力の低下が著しい。


「起きれるか?」

「すみません。手を貸してください。はあ、リハビリしなきゃですね」

「そりゃ三日も寝たきりだったってのに、その上七日もの間じっとしてたらな」

「その七日間あなたは一体何をしてたんです?」


 私を放っておいて、と拗ねたようにハルカを睨みつける。

 するとハルカはしばしポカンと呆けたようにヒュノの顔を見つめる。そしてやがて、腹を抱えて笑い出した。


「えぇ!? なんで笑うんですか!」

「やー悪い悪い、いや悪かった悪かった。まさかそんな事を言われると思わなくてな。もしかして寂しかったか?」

「な……!ち、違います!任務の後に挨拶一つ無く姿を消した後輩にただ無性にイライラしただけです」

「プッ、アハハハハ!はーあ、そっかそっか。

 ……ククッほんっとにお前って変わったよな。最初に会った時とはまるで別人だ」

「……? 元からこんなだったと思いますけど」

「いやいや。ま、本人に自覚が無いならそれで良いんだけどさ」


 コテンと小首を傾げるヒュノに、ハルカは肩をすくめては、随分と感情の起伏が激しくなったものだと穏やかに微笑む。

 釈然としないヒュノは不満げに唇を尖らせた。


「それでハルカはどこで何をしていたのですか?私のお見舞いにも来ないなんて、さぞ大事な用事があったのでしょうねえ」

「おっとそうそうそうだった。よくぞ聞いてくれました」


 本題を忘れるところだった。と明るく笑うハルカ。非難していたつもりのヒュノはその態度に思わず戸惑う。

 そんなヒュノを他所に、ハルカはこう提案した。


「なあヒュノ、温泉旅行に行かないか?」



 ◇




 温泉宿『ツクモ』

 霊峰『エステト』と呼ばれるどの国の領土でもない山にある民営の旅館である。

 そんな辺鄙(へんぴ)な場所で商売として成り立っている理由は謎だが、知る人ぞ知る秘湯として細々と経営している。


 七日ほど前、すっかり怪我から快復したハルカはエイナに提案されヒュノとどこかへ出かける計画を練っていた。

 その時、たまたま組織の本部で『霊峰にオンセン宿と呼ばれる場所があるらしい』と誰かが話しているのを小耳に挟み、丁度良いからそこにしようと決めたのだ。

 ちなみに提案した本人であるエイナとしてはその時、『ヒュノをデートに連れて行け』と言ったつもりだったのだが、『日頃の恩返しをしてみてはどうか』と解釈した彼が真っ先に思いついたのは慰安旅行だった。

 その事を聞いたエイナや組織の知り合いは皆呆れ、それどころかハルカが彼らまでその旅行に誘った時は口を揃えて朴念仁と罵った。

 幸いなのはハルカがノイなどの()()()()()()()()()()女性陣を誘う前にその知り合い達が必死に止めた事だろう。

 彼らが阻止しなければ大陸規模の危機が訪れるところだった。


 と、そんな経緯もあり、ハルカは現在ヒュノと二人きりでその旅館に訪れていた。

 既にチェックインは済ませ、互いにゆっくりしようと言い合い、別れて風呂へ向かったところだ。



「うわあ、(すげ)ぇ……」


 脱衣所を出た瞬間、ハルカの口から驚嘆の声が漏れた。

 その目の前には岩肌に縁取られた雄大な景色。標高の高い場所にあるこの温泉から一望できる夕刻の麓は黄金のように輝く茜色がどこまでも広がっており、それはもう言い尽くさぬほどに美しかった。

 一方で後方の空はもう夜に飲み込まれており、星が湯けむりの向こうで爛々と輝いている。その朧げな様はなんとも風情を掻き立てた。

 こうまではっきりと夜空と夕焼けに挟まれるなんて機会、滅多にお目にかかれるものではない。

 なんとも贅沢な気分に包まれながら、ハルカはゆっくり足元の湯に浸かった。


「はぁ〜〜極楽だ」


 じっくりと、噛みしめるような吐息が零れる。


「まさかこんな日本みたいな温泉旅館がこっちの世界にも存在するとは。

 あの千年前の勇者とやらが案外関わってたりしてな」


 もう一度景色を眺めて息をこぼすと、小さく笑う。


 ーーーその時、ふと後ろからちゃぷんと物音が聞こえた。


 誰か入ってきたのか。他に客が居ただろうか。と疑問に思いながら振り向く。

 するとそこには湯から出ている影が一つ湯けむりで輪郭がボヤけて揺らめいていた。

 目を凝らすと次第にその輪郭がはっきりしていきーーー


「あれ、ハルカ?」


 ーーー銀色の瞳と視線が正面からぶつかった。



「…………」

「…………」


 互いに目を合わせたまま黙り込む。

 気まずい雰囲気の二人の間からは驚愕の声一つ上がらない。というより、驚愕が大き過ぎて声さえ上げられなかった。

 お陰で双方ともリアクションするタイミングを完全に見失ってしまい、結果として辺りに嫌な沈黙が漂ってしまっていた。

 湯に隠れてお互い裸が見えないのがまだ幸いか。


「えっと、その……混浴だったんだな、ここ」

「……え? えっと、はい」


 漂う気まずさを払拭しようと苦し紛れに放った言葉はしかしその甲斐虚しく、会話はすぐに終わってしまった。

 ヒュノの表情はいつもに増して感情が読み取り難く、下手な事を言えない空気。

 再び降りた静寂にハルカはどうしたものかと頰を掻く。


「……その、なんだ、悪い。後で入り直すわ。上がったら呼んでくれ」

「あ、待って!」


 逃げるように風呂を上がろうとするも、その背中は呼び止められた。

 振り返ったハルカの視線にヒュノはまた視線を彷徨わせ、言い訳のように提案した。


「その、折角なので背中でも流してください」

「……はい?」


 言ってから、ヒュノは凄まじい後悔と羞恥に襲われた。


 ◇



「普通男相手にこんな事頼むかぁ……?」


 往生際悪く、居心地悪そうにハルカがぼやく。

 目の前にはヒュノの華奢な背中。シミひとつないその肌は白磁の如く艶やかに美しい。

 ついつい男としての衝動からそちらへ向いてしまいそうになる視線を手に持っている布に固定する。

すると前方から抗議の声が上がった。


「う、うるさいです。性別以前に後輩なんですからちゃんと先輩にご奉仕してください。言っておきますが、十日も私を放って置いたこと忘れてませんから」

「だからそれは悪かったって道中さんざ謝っただろ?エイナさんから心配要らんって言われてたんだよ。

 ……はあ、そりゃヒュノに欲情とかしないけどさあ」


 ヒュノの見た目は幼い。

 美しいと形容するに値する魅力を持ってはいるものの、華奢で体格も小さく、確かに男好きのする体型ではない。


「……むっ」


 これはハルカにとっては何気ない言葉のつもりだったのだが、それにヒュノは頰を膨らませる。彼女は見た目はどうあれ、否、見た目を気にする年頃の乙女なのだ。そんな言われ方をされれば腹が立つというもの。

 報復にちょっとしたイタズラをしてもバチは当たらないだろう。


「えい」

「うわっ」


 直後、ヒュノが振り返り、ハルカの首元に腕が回される。

 かと思えば、胸に柔らかい感触が押し付けられた。


「ひ、ヒュノさん? 一体何をしてらっしゃるので?」


 側から見れば抱き合っている態勢。

 上擦った声を出すハルカにヒュノはしたり顔を浮かべてみせる。


「別にいいでしょう? どうせ欲情なんてしないんだから。

 私はこんな体ですし、むしろ欲情なんてしたら変態ですからね」

「ぐっ……! 」


 淡々とした声色で嫌味を吐かれるが、今更引っ込める訳にも行かずハルカはただ悔しそうに呻いた。

 せめてもの反抗として恨みがましげな睥睨を向けるも、ヒュノはただ意地の悪い笑みを深めるだけだ。


「ぐぅ……くそっ、あーもう分かった降参だ。俺の負けでいいから離れてくれ。それ以上はヤバい」


 あえなく、ハルカは両手を上げて降参を訴えた。


「さっきのは強がりだ。流石にそう言うことされたら意識しそうになるんだよ。だからそういう事はもうするな。ノヴァにお前が痴女だって言い触らすぞ」

「ーーあ」


 やや早口になってまくし立てるハルカの頰は若干赤らんでいて、ちょっと嫌がらせをするだけのつもりだったヒュノは想定していた反応と違う事に急速に正気に戻って行くのを感じ、バッと手を離して身体を背ける。


「へ、へえ。前言を撤回すると。ならハルカは小さな女の子にも欲情するんですね」


 自分の体を抱きしめながら、ジトと非難がましい視線を向けるヒュノ。

 羞恥か、それとものぼせたのか頰がもう真っ赤だ。だというのに口角が上がっていたり、どこか満更でもなさそうに見えるのは気の所為か。

 責めるように問われて、少し考える素ぶりを見せたハルカだったが、やがて真面目な顔つきで首を横に振った。


「ーーいや、そうじゃない」

「何が違うんですか今更取り繕ったって無駄です。あーあ幻滅しました。もうスピカちゃんに近づかないで下さい」

「だからそうじゃないんだ。そう言うんじゃなくて、なんて言うかその、『ヒュノだから』なんだと思う。というかスピカをそんな目で見たりする訳ねえだろ」

「どうでしょうか。だってハルカですからねー?

私なんか溺れて気絶してる間にファーストキス奪われちゃいましたし」

「そ、それも道中謝っただろ?

というかそうじゃなくて、ほら、ヒュノとはそろそろ二年近い付き合いになるし、女の子なんだなーって知ってる訳で、どうしてもその、間近で魅力を見てきた身としては意識してしまいそうになるというか……」

「なっ……ば、バカじゃないですか!?

 こんなチンチクリンな体に魅力って急に何を言い出すのかと思えば」

「だから小さいとかそう言う事じゃなくて、ヒュノの体だから……」


 話している内に自分が何を言っているのか自覚したのか今度はハルカの顔が林檎のように紅潮していく。

 そしてやがて誤魔化すように目を逸らした。


「悪い今すげえ変な事言ってた。忘れてくれ」

「わ、忘れろって、そんな口説き文句みたいなこと言われて忘れられる訳……あうぅ」


 もちろん急に言われた立場にあるヒュノが恥ずかしくない訳がなく、両手を頰に当て茹で蛸のような有様。


「うぐっ……悪かったからもう掘り返すのは勘弁してくれ」


 再び気まずくなった雰囲気の中、先程の事を思い出しては鼓動を激しくさせつつもハルカは石鹸を手に取り布を泡だて始めた。



 ◇



 その後ハルカは背を流し終えるや気まずさから逃げるようにヒュノを置いて風呂を出た。

 部屋に戻ると既に布団が敷いてあったので体を投げ、枕に顔を突っ伏す。

 そして、腹筋にあらん限りの力を込め叫んだ。


「わぁーーーーーーーー!!!」


 くぐもった叫び声が部屋中に響き渡る。


「何言ってんだ俺! 何言ってんだ俺ぇ!!!

 バッカじゃねえの!?何口走ってんだバァアアカ!

バァアアッカ!」


 ごろごろとのたうちまわりながら燃え盛るような羞恥を必死にかき消そうと罵倒の言葉を並べる。

 しかしどれほど叫んでもむしろ先程の事が思い出され、羞恥は次第に肥大化していく一方だ。


「くっそぉ、なんであんなこと言ったんだ俺ぇ……」


 消え入りそうな声を漏らして天井を仰ぐ。

 ハルカ自身、先程何故あんな事を言ったのか分からない。ロリコン疑惑を晴らしたかったというのはもちろんあるが、けれど決してそれだけでは納得できないくらい不自然に、気がつけばあんなフランス人も真っ青な、一周回って赤面ものの言葉が口を衝いて出てしまっていた。

 もちろんあれらは決して偽りではない。

 ハルカが【秩序の鎖】に入ってからしばらく、任務は慣れるまでの間ヒュノと共同でこなしていた。

 こちらの世界に来て二年と半年。その中で最も長い時間を共にしたのは間違いなくヒュノだ。最も近しい者と言っても過言ではない。

 つまりあれらは全て本音だ。しかしだからこそ、より一層先程の事が恥ずかしかった。


 自身を罵倒する言葉も尽き、転がるのを止めて布団に潜って悶えていると、ふと背後にある部屋の襖が開かれた。

 芋虫のように布団に包まりながらおそるおそる顔だけ出すと、ヒュノが珍獣でも見るような目でこちらを見つめていた。


「……何してるんですか」

「久々の床に敷く布団を堪能してた」

「何ですかそれ」


 咄嗟に浮かんだ嘘をつくと呆れたようにため息をつくヒュノ。しかしそこに先程のようなぎこちなさはない。

 ハルカはホッと密かに胸を撫で下ろすと布団からのそりのそりと這い出て体を起こし胡座をかく。

 すると向かい合うように正面でヒュノが正座を組んだ。


「さっきは悪かった。別にセクハラとかをするつもりは全然無かったんだ。つい口が滑ったと言うか、勢いで冷静さを欠いたまま頭の中を全部口に出してしまっていたというか、決して嘘って訳じゃないんだが、不快に思ったのなら本当にすまん」

「気にしないでください。ちょっとだけ、ホントにちょーっとだけ恥ずかしかったけど不快だなんて微塵も感じてませんから」

「そう言ってくれると助かる」


 ひらひらと手を振って穏やかに微笑むヒュノだが、やはり全く気にしないという訳には行かないようで頰が未だに薄っすらと赤い。

 とはいえ指摘する事でもないのでハルカは素知らぬフリをした。


「……それに、嘘じゃないなら、意識されてるなら、むしろ嬉しいですし、ね」

「なんて?」

「いいえ独り言です。少し、とある事に頑張ってみようと思いまして」

「……ふーん? まあなんだ、頑張れ」


 何をだろうか。そう疑問に思いつつも聞くのは野暮な気がして躊躇われ、曖昧な相槌をうつ。


「ええ、もちろん」


 そんなハルカを見つめながら、ヒュノは満面の笑顔で頷いた。




この話続きあるんですけど、これで十分書きたいこと書けたし区切りが良いので投稿するべきか迷ってます。

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