二十二話 マイスターの暗躍①
遅くなりました。
しかも今回短いです。
次回あたりからやっと話が進みますので。
昼中ずっとテオに愚痴り尽くし、現在時刻は夕方頃。
そろそろ下校時刻、つまり勇者を襲いやすい時間帯となったので本格的に活動を開始する。
まず王都中に魔力を巡らし魔術的な異変が無いか調査。
「……フム」
予想通りと言うべきか、特に引っかかる所はない。しかしあの結界、少なくとも奴らがそう呼んでいたあの空間はヒュノの目さえ誤魔化していたのだ。俺が感知出来なかったなんて程度では安心材料にもならない。
とはいえ勇者の魔力反応にも目立った異常は無い為、奴らがもう動いたという事は無いだろう。まだ急ぐ必要はない。ゆっくり調べて行くとしよう。
「しかし調べるにしても、こうなると地道に歩き回るしかありませんねえ」
魔力の感知出来ない敵とは、本当に厄介な。
くぐもった声でため息混じりに呟くと、俺は時計台の屋根から飛び降り、街の景色へ溶け込んで行った。
◇
学生寮から学院までの通学路を見回りすること二時間。
特に勇者の付近を警戒しつつ入念に探知を試みたが、何か起こる様子は未だない。
強いて起こったことを挙げるとすれば、勇者の中でも要警戒対象とされている『閧ノ宮日向』が先程すれ違う時に俺をチラリと見た。魔術で気配を絶っているはずなのに、だ。
『要警戒』というのは彼が勇者の中でも魔力が高く、ヒュノが見た限り召喚されたその時点で既に魔術を操れている節があるらしいのだ。
それはつまり、日本でも魔術を知っていたのかもしれないという事で、同時に牙を剥いた時の危険度が高まる事を意味する。その為勇者の中でも特別警戒しているという訳だ。
その話をヒュノから聞いた当時は、どうせ日本人なのだからと大して深刻に考えていなかったが、奴がシキ直伝の隠密魔術に気がつく程の魔術師かもしれないとなると、もう少し警戒レベルを上げるべきかもしれない。改めてそう認識した。
他に起こったことと言えば……確か「照倉」と言ったか。あのイケメン勇者が早速ラノベの主人公よろしくハーレムを築いていた。
まさかこの世界でそんなまともにラノベを体現する奴が居るのは思わなかったので目撃した時は堪えきれず爆笑した。
……と、特筆するならばそのくらいか。
流石に初日で釣れるとは思っていないので奴らが現れなかった事への落胆はさして無い。それどころか安堵しているくらいだ。
というかいっそのこと勇者が学院を卒業するまで何もしないでいて欲しい。
ーーそんな事を考えていたからだろうか。
「……!」
学院の方にて何の前触れもなく異常な魔力反応が生じ、同時にそこに居た勇者二人の魔力反応が消失したのを感知する。
ーーほら、また厄介事が起こった。
「ハア。まあ尻尾を掴めた、と納得しておきましょうか」
◇
学院入り口付近にて、先程感じた異常な魔力の残照を頼りにあの結界の裂け目を探す。
ヒュノ曰く、この結界は擬似空間を作り出す魔術からできたもので、現実と繋げる時にしか魔力が生じないらしい。道理で三英雄とヒュノが居ても気づかない訳だ。
というか普通見つからんぞ。たとえ四六時中王都に魔力を張り巡らせたとしても穴が開かない限り見つからないんだから。
それにしても一つ疑問が残る。そもそも魔力反応が無いのだから結界を見つけられないというのは分かった。ただ、結界はそれ自体を作り出す時には必ず魔力が生じる訳で、その際化け物達の目を掻い潜らなければならないのだ。
それを、どうやって?
そこまで考えて、自ら頭を振る。
「……今考えても詮無きこと。さてと」
いくら不思議だろうとどうせ後でヒュノやエイナと考えた方が早いのだから。取り敢えず結界の穴を探そう。
右目にとある術式を編み込んだ魔術を施す。すると瞳が真っ赤に染まって行き、視界に黒い渦のような何かが紛れ込んだ。
「ビンゴ」
やっと見つけた。これが結界の穴か。さて、同時にヒュノの推測が証明された訳だが、突入の前に報告をするべきだろうか?
しかしそんな悠長な事をして勇者の身に何かが起こらないとも限らない。
「せめて合図だけでも………?」
不意に、横に引っ張られるような感覚と共に景色が真横へスライドする。その事に違和感さえ感じる間も無く、気がつけば目の前には穴が迫っていた。
「……チッ」
吸い込まれまいと試みるも抵抗虚しく、次の瞬間、俺は学院の正門の前に立っていた。
先程と変わらない景色には、しかし喧騒といった人の気配が一切感じられない。
昨日と同じだ。
ここはもう結界の中。
「そういえば出口は……良かった。ちゃんとある」
後ろを振り返ると先程見たものと同じような黒い穴が緩慢に渦を巻きながらふよふよと浮かんでいた。
一度触れて見ても何の反応も示さない。が、小型の魔石など、魔力の通った物を近づけると吸い込まれそうになる。
「つまり魔力に反応して開く……と」
最初に触った時は魔力隠蔽の術式を編み込んだ手袋の所為で反応しなかったようだが、全身でタックルしたら多分吸い込まれる。
なにこのダイソン識別機能搭載とか優秀過ぎ。
ともあれ脱出手段は得られたので、勇者の救出に向かいますか。ヤバそうな奴が二人と接触しそうだ。
◇
「お姉さんと遊んで行かない?」
勇者二人と、初めて見る赤髪のエルフが会話している様子を曲がり角の影から伺う。というか巻き込まれてんのあいつらかよ。あの二人無駄に聡いから説明が面倒臭いんだよな。
なんて胸中愚痴をこぼしつつ、あのエルフの女性の言葉に聞き耳をたてる。
どうして今すぐあの場に飛び込まないのかと問われれば、情報を得るためだ。
あのルダの言葉を素直に受け取るならば奴らは勇者が素人だと把握している。つまり油断しているのだ。ポロリと秘密を漏らしてもおかしくない。今の所はあまり役立つ話は聞けていないが。
「そうね、何が良いかしら。
私としてはダンスが良いのだけれど」
おっとそろそろ不味いな。
仮面を丁寧に着け直し、私は場に乱入した。
「それは素晴らしい」
どうでも良い設定補足
ハルカは仮面を着けると成り切りモードに入る為マイスター状態の時は口調が変わる。
どうしよう閑話を書いてる方が筆が進む。
二章終わりの閑話がもう既に四つくらいストック溜まってる件について。なお本編は三つしか無い模様。




