二十一話 イッタイ奴が出てきた理由
またまた遅くなりました。
今回は時間をちょっと遡って『勇者十六夜の憂鬱』の時のハルカのお話です。
・ハルカ視点
シンと静まり返っている学院長室。
そんな中俺とヒュノは机を一つ挟んで向かい合っていた。
目の前のヒュノはこれまた質の良さそうな椅子にちょこんと可愛らしく腰掛け、感情の読み取り難い無表情を浮かべたまま手元の紅茶を啜っている。
静寂に包まれた部屋の雰囲気はいつになく真剣で、今回俺が定時連絡でも無いのにわざわざここに来た用件の深刻さを示していた。
カチャと小さな音を立ててカップを置くと、ヒュノはこちらに視線を戻す。
そして、話を再開した。
「……ではつまり、その謎の二人組にあなたの存在がバレ、その上どちらも逃してしまったと?」
「……ああ、完全に俺の失態だ。こればかりは言い訳のしようもない」
話の内容は昨日逃した二人組についてだ。
奴らは三英雄の揃っているこの王都で、あんなに大胆に仕掛けてきた。それも今注目の的である勇者を狙って、だ。逃走の手段を用意してない訳がない。
しかしそんな簡単な事にも気付かず、俺は奥の手である占星術まで使ってしまった。
「思い返しても詰めが甘過ぎる。やっぱ実戦から離れ過ぎたかなあ……」
「別にこの成果を責めるつもりはありませんよ。
こちらとしても完全に想定外でしたし、事前に察知出来なかった私にも責任はあります。対処の仕方も間違ってませんでしたしね」
「だがなんにせよ警戒された。お陰で俺はしばらく大胆に動けん」
奴らは異常に戦闘能力の高い学生、と言っても学生として見ればの話だが、そんな俺を認識しても【秩序の鎖】を連想しなかった。ということはまだ『鎖』の存在そのものをまだ知らないのだろう。
しかしそうなると、ここで俺が『鎖』のメンバーとして下手に動いたりして尻尾を掴まれる訳にはいかない。
要するに動けないのだ。
「それならもういっその事『学生のハルカ・ウィルノート』として派手に動いてみては?」
「……それはあんまりやりたくないんだよなあ」
信仰対象にも似た存在である勇者が居るのに、同じ黒髪黒目の俺が目立つと確実に余計な波風が立つ。
例えば勇者に取り入ろうと必死な貴族連中は難癖つけてくるだろうし、勇者含む学院の生徒からも嫉妬やらでヘイトがたまって今後の動きに支障をきたす可能性がある。
あとなによりリマが厄介事持ってくる口実が増える。それだけは是が非でも避けたい。
自己顕示欲とか英雄願望とかが無いとは言わないが、有名税がかかるとなるとマジで勘弁して欲しい。
「しかしとはいえ、こんな状況だからこそ貴方が動けないのは困るんですよね。スピカとノヴァにはちょっと荷が重そうですし。
そう言えばあの子達とは接触出来ましたか?」
「ああ丁度今朝寮でな。びっくりしたぞ?起きたら天使に挟まれてたんだから」
「なんですかそれ詳しく説明してください」
羨ましかろ?ってうわ近い近い。分かったから身を乗り出して来るな。手元の紅茶零すぞ。あと前髪が当たってくすぐったい。
「とにかく離れろ。後で話すから」
「むう……まあ良いでしょう。それで、その二人組、ないしはそのバックにいる組織をどう対処しましょうか。
エイナさんも今は忙しいそうなので貴方が動けないとなると本当に洒落にならないのですが」
「なんならシキの奴でも呼び出すか」
「却下です」
即答せんでも……。いやまあ分かるけど。分かってて言ったけど。そういや勇者の事あいつにも話さないとな。
「……実は一つこちらに考えがあります」
「へえ?」
少し意外で思わず視線がヒュノの方へ向く。するとその無表情にうっすらと笑みが浮かんでいた。
あ、嫌な予感。
「ミスターマイス……」「却下だ」
今度はこっちが即答した。言葉を遮られたヒュノからジト目が向けられる。
「なら他に手があると?」
「無いけど、嫌なモンは嫌だ」
「はあ、仕方ないですね。……二人共」
どこを見るでもなく呼びかけるようにそうヒュノが呟くと、次の瞬間、天井のタイルが一枚剥がれそこから二つの人影が背後に降ってきた。
振り向くとそこには翡翠の髪の子供が二人。というかスピカとノヴァだった。
「……何してんの二人とも」
「ヒュノ姉に言われて隠れてた」
「多分これに深い意味は無いから気にしなくて良いよ」
「そうか」
要するにヒュノの趣味か。苦笑しながら視線をヒュノに戻す。
「二人がハルカのベッドに潜り込んでいたという件については非常に気になるところですが、取り敢えず後にしましょう。さてスピカ、ハルカの格好いい姿を見たくありませんか?」
あ、おいコラ待て。それはズルい。
「……見たい」
「ノヴァは?」
「見たい見たい!」
「だそうですよお師匠さん?」
「いや待て。言い方に語弊があり過ぎる。
なあ二人共、あんなの別に格好良くもなんとも無いぞ?」
あんな厨二病全開の格好見ても恥ずかしいだけだ。
黒マントに仮面だぞ?
二人に「こんなししょー恥ずかしい」とか言われたら死ねる。大陸全土巻き込んで壮大に自殺する。
「良いからっ!早く見ーせーてーよー!」
「ししょー……」
うお、まさかのダブル上目遣い。ちょ、待って服の端を掴むまないでマジで悶死する。
「ぐうぅ……あーくそ、分かったよ!」
どうか二人の反応が苦笑い程度で済みますように。
◇
「……なんで私はまたこんな格好をしているのでしょうか」
「あははははは!ホント君ってあの二人に甘いよね」
目の端に涙を浮かべるくらい爆笑するテオ。このイケメン本ッ当に殴りてえ。
あの後スピカとノヴァにせがまれ諦観交じりに変☆身して見せたのだが、その結果は意外も意外。なんと二人は目を輝かせたのだ。
『すっごい!すっごくカッコいいよししょー!』
『ん。格好良い』
『でしょう?』
……再現するとこんな感じ。
いや、うん、師匠としては二人が喜んでくれるのが一番なんだけどさ。ご満足いただけたようでこっちとしてもなによりなんだけどさ。
でもな?ししょー的にこんな姿で王都の調査なんてしたく無かったかなーなんて思う訳ですよ。あとヒュノは笑うな。肩震えてんの見えてるから。
ま、後でアイアンクローするとして、あの場では決を採っても3対1。勝てるはずもない。
結局俺はヒュノの狙い通りミスターマイスターとして王都の怪しい場所を探索する事になった。
そして現在、俺はしかし王城にてテオに再び愚痴をこぼしていた。
まだ日の位置も高く、学院は絶賛授業中だが、ちょっとテキトーな理由でっち上……一身上の都合でサボっ……欠席した。どうせ出席日数はまだ余裕あるし。
「はーあ、笑った笑った。それで、弟子が可愛くて仕方の無いマイスターさんはまだ動かないのかな?」
「はい。恐らく奴らはこの時間帯だとまだ動きを見せないので」
「そういやその二人、確か勇者を狙って襲って来たんだっけ?」
「ええ。そして勇者様は立場上依頼を受けられない。
なので狙われるのは必然的に下校時、つまり夕方頃と言ったところでしょう。昨日もそうでしたし」
「昨日、ね。巻き込まれ体質もそこまで行くともう呪いだよね。
勇者召喚云々で落ち着いて来たと思ったらこれだ」
「全くです。本当に勘弁して欲しい」
「どんな感じで襲われたの?」
「暗殺者みたいに一般人に扮装して手に呪術を施して握手を求められまして、怪しんだら次の瞬間背後から首を目掛けて斬撃一閃。間一髪そこから戦闘開始……と言った感じで」
「……お疲れ様」
「……はい」
お疲れってレベルじゃねえぞ。急に握手求められたかと思えば呪い掛けられそうになるわ大鎌で『ティ□フィナーレ☆』されそうになるわ挙げ句の果てには訳分からん魔術で腕グチャアするわで最早なんか死にそう。
もう疲れたとか思う余裕も無かったな。
「とにかく報告してくれてありがとう。こちらも警戒しておく事にするよ。何かあったらすぐ伝えるね」
「助かります。貴方に協力して頂けるなら私も安心して行動できますので」
「その格好で、ね。……プフッ」
……イラ☆
もうちょっとでリアルが落ち着くのでちゃんと投稿ペース元に戻します。と思っていた矢先、ついにヤツが、定期試験が……!
という訳で七月中旬まで不定期更新になるかもです。
出来るだけ早めの更新を目指します。




