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秘密組織の序列十位は自称器用貧乏  作者: 使い捨て系鉛玉
二章 勇者
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二十話 勇者十六夜の憂鬱③

遅くなりました。

リアルが、リアルがぁ……!

 

 視点・来ノ未



 陽も沈んだばかりの王都。

 まだ人が賑わっていておかしくない時間帯には、しかしこの辺りだけ何故か人通りが一切なく、シンと静まり返っていた。

 それゆえか、黒マントの男とコートの女性が剣を重ねる度に生じる金属音が、やけに甲高く響く。


「うふふふ。貴方とっても強いのね。そんなに動きにくそうな格好なのに。お陰で凄く楽しいわ」

「それは重畳にございます」


 現在目の前で繰り広げられているデタラメなそれは、剣戟。といっても『コレ』は一般に剣戟と呼ぶものとはあまりにかけ離れていた。


「貴方、きっと剣士としても食べていけるわよ」

「お褒めに預かり光栄ですが、貴女の様な美人が相手だといささか恐縮してしまいますね」

「ふふ、お上手ね。騎士様としてもやって行けそう」


 日本では決して見る事がなかったであろう、まるで映画のような光景。それを、私はただ呆然と見つめていた。

 いやだってあんな人間離れした動きついていけないもの。

 なんか建物の壁とか屋根を足場にして空中戦に突入してるし、着地の瞬間も全く見えない。

 しかもあの斬撃明らかに間合いより遠くまで斬れてるんだけど。あ、ほら今そこにある家がたった一振りで端から端まで真っ二つになった。


 さっきまで死の恐怖さえ感じていたというのに、今やすっかり置いてけぼりを食らっている。

 また、目の前の光景にあまりにも現実感が無い事も相まって、私も風雨花も変に落ち着いてしまっていた。

 もはやハリウッドを通り越してアメコミ映画を見ている気分だ。

 人間の筋肉でどうやったらこんな動きが出来るのだろうか。


「魔術……を使ってる感じでもないし、でもじゃああれが素の身体能力って事?」


 私が知っている魔術といえば氷とか火を生み出したり、風を起こしたりとか、日本の創作物にあった魔法のような物ばかりだ。

 他にも神聖術とかいう治療に使えたりする魔術も習ったけれども、読んだ魔導書の中に身体強化なんて物は無かった。再生能力の補助とか近い物ならあったが。


「あはは……ねえ風雨花ちゃん。これ、どうしようか」

「……逃げる事くらいしか出来そうにないけど、逃げて大丈夫なのかな」

「あの女の人、私達の事狙ってたっぽいもんね」


 あの紅髪の女性は私達を勇者と知っていた。それでいて、接触を図ってきた。

 ならば目的は私達、もしくは勇者の内の誰かと見るのが自然だろう。

 少なくともミスターマイスターの登場は計算外だったはず。というかあいつはそもそもは味方なのだろうか。

 取り敢えずそうだとして、逃げようとする私達をあの女性がそうすんなりと見逃がしてくれるだろうか。

 最悪今戦っているマイスターの足手纏いになりかねない。


「でもそれはここに居ても変わらないよね」

「なら逃げるの?」

「……」


 断言しきれず黙り込む。そのまま互いに数秒思案していると、目の前に一枚の紙キレが落ちて来た。


「なにこれ?どこから……」


 広げて読む。内容は『今すぐ来た道を引き返して下さい』とあった。

 マイスターの方を見ると『行け』と剣を握ってない方の手で学院のある方角を指差し促された。ならこれはあいつが書いたもので間違いない。


「……? 『逃げろ』じゃなくて『引き返せ』?」

「あ、ホントだ」


 風雨花の指摘に頭を捻る。

 どういう事だ……?


「……分かんないな」


 けどわざわざ隙を見せてまで伝えたんだから流石に意味がないって事はないだろうし、どうしたものか。


「取り敢えず学院まで走ろう」


 互いに視線を合わせて頷き合うと、今度こそ私達はあの戦闘に背を向け走り出した。


 ◇


 来た道を辿ってただひたすらに走る事かれこれ10分。

 学院が目の前に見えて来た頃、目の前に突然人が現れた。


「うわっ……と!?」


 避けようと試みるが、あまりに突然だった為に勢いを殺しきれず止まれない。もう駄目だ、と目を瞑る。


「……あれ?」


 しかしいつまで経っても想像したような衝撃が訪れることは無い。それどころか、気がつけば、ふわりと優しい感触が全身を包んでいた。

 戸惑いながら目を開けると、銀色の双眸と目が合う。


「大丈夫ですか?」

「え、あ、はい」


 こちらを慮る鈴の音のような声に、しどろもどろに返事すると、ゆっくり体を下される。

 そこで私は抱きとめられていたのだと気がつく。それも、私よりも背の低い相手に。


「ご、ゴメンね。大丈夫?」


 状況が整理出来ないまま、慌てて頭を下げる。

 すると、優しい声が返ってきた。


「こちらこそすみません。怪我はありませんか?」

「ううん大丈夫、って学院長?」

「ふふ。ええ、私です」


 外見に似つかわしくない敬語を不思議に思ってもう一度見ると、ぶつかったその相手は学院生活の初日に私達を案内してくれたあの少女、学院長だった。

 見知らぬ子供に謝るつもりで失礼な態度をとってしまった事に後悔していると、彼女は不思議そうに質問を投げかけて来た。


「どうかしましたか?こんな時間に学院まで駆け込んで来るなんて」

「あ、そうなんです!」


 質問を受け、やっと我に帰る。

 焦るあまりところどころ日本語が変になりながらも先程のあの女性の事や戦闘が起こっている事を伝える。すると学院長はその幼い顔立ちに似合わぬ神妙な表情を浮かべ、詳しく話すように促した。

 途中、マイスターの話の辺りで何故かため息をついていたのが気になったが、そんな事を尋ねている場合では無いので自粛した。


「……事情は分かりました。すぐに私の方で対処しますので貴女達は寮へ帰っていて下さい」

「え……?建物とか真っ二つになってるんですけど、憲兵とか呼んだ方が……」


 学院長の外見はーー実年齢はともかくとしてーー幼く華奢だ。魔術も凄まじいレベルで扱えるのだろうし、武術の心得もあるようだが、とてもあんな人外じみた二人の中に割って入って戦えるようには見えない。

 なのに彼女の言葉はまるで自分一人でなんとかすると言っているようで、ついつい聞き返してしまった。

 すると彼女はフイと目を逸らしながら頷いた。


「……はい。もちろんそうやって対処します。

 ですので寮に……そうですね、迂回してあっちの安全な道を通りながら帰って下さい」

「……分かりました」


 私の返事とともに風雨花も頷く。そんな私達の反応を見て学院長は満足そうに微笑み、私達が来た道を走って行った。

 って、まだ兵士を呼んでいないのに、まさか一人で?


「風雨花ちゃんッ!急いで追いかけるよ!」

「え?……あ、うんっ」


 風雨花の返事も待たずに暗闇に消えて行った幼い後ろ姿を追って走り出した。


 ◇


 学院長を追いかける事かれこれ五分。

 しかしいくら走れども、追いつくどころか学院長の影さえ見えない。風雨花からの指摘がない事から道も間違えていないはずだ。あの緑の屋根の建物見覚えあるし。

 それとも、学院長は別の道を通って憲兵を呼びに行ったのだろうか。

 だとするなら、一度逃げたのに、誰も助けを呼ぶ事なく私達だけでまた戻って来てしまった事になる。

 すぐそこではあの二人がーーー


「ーーあれ?」


 ちょっと待て。

 なんで()()()()()()()()()()()

 さっきここを通った時は『静かだ』と思ったが、今回は違う。喧騒が、聞こえるのだ。

 それもすぐそこ、あの二人が暴れた爪痕が残っているはずの通りから。


 曲がり角から恐る恐る喧騒の聞こえてくる通りを覗き見る。

 すると、そこに広がっていたのはあり得ない光景。


「もう門限ヤバいって!」「そう思うんなら速く行け!詰まってんだよ!」「あー研究に没頭し過ぎた」「こんな時間まで残って練習したのに神聖術が出来ない……」


 学院生専用の大通りを、行列を成しながら駆け足気味に向かって行く人の群れ。

 これらは、ローブを身に纏っている事からわかる通り、皆学院の生徒だ。


 学生寮は門限を守らなければ学院での成績が下がる。

 その為みんな必死に門限を守ろうと努めるのだが、それでも魔術師としての気質の問題か、いつも遅くなるまで学院に残る生徒が居て、この時間帯になると寮まで走って行く。その結果こんな慌ただしい状況が生まれるという訳だ。

 つまりこの光景は、実はいつもの事。


「な、んで。さっき……確かに」


 ーーーだからこそ、こんなのはおかしい。


 あの女性によって両断された建物。

 足場にされて幹が歪んだ街路樹。

 根元からだるま落としのように切り落とされた街灯。

 剣が突き刺さっていくつも傷のついた石畳の道。


 そんなもの、どこにも無かった。


「どうしたの?何が……あれ?」


 絶句している私を怪しんだ風雨花がその通りを見て、同じく疑問の声を漏らす。


 思考さえ追いつかない内に、学院生達はみんな寮の方へと走って行ってしまった。

 未だ呆然としている私達はポツンとその場に取り残される。


「ねえ、お姉さん達」

「……っ!?」


 突然かけられた声に弾かれたように視線を向ける。

 するとそこには、こちらをじっと見つめる二人の子供。

 二人は双子なのか、互いに良く似た容姿をしており、また、学院のローブを羽織っている。

 綺麗な翡翠色の髪の所為で、パッと見両方とも女の子に見えなくも無いが、今話しかけてきた髪の短い方の子は良く見ると男の子だった。

 などと、そんなことを考えながら無遠慮に視線を浴びせていると、男の子の方が怪しんだのか小首を傾げ再びもう一度話しかけてくる。


「お姉さん達ってば」

「……え、な、なに?」


 まだ思考を整理しきれていない私はさっきの学院長の時と同じようにしどろもどろな返事をしてしまう。

 これでは風雨花をとやかく言えないなとついつい自嘲がこぼれた。


「ぼーっとしてたけど、寮に戻らないの?」

「あ、そうだね!急いで戻らないと怒られちゃう。

 君たちも速く行こ?」

「……? うん」


 色々と納得のいかない疑問が脳内をぐるぐる回っていて、今すぐ誰かを問い詰めたいくらいの心境だったが、こんな子供に質問しても仕方ない。それらを一旦全て飲み込んでぎこちない笑みを繕い、寮へと向けて走り出す。

 男の子は未だ不思議そうにこちらを見ていたが、こちらが強引に帰ろうと促すと、何も言わず着いて来て、やがて途中の分かれ道にて男子寮の方へと帰って行った。

 そこで思い出したように女の子の方へと視線を向けるが、彼女の姿はその時にはもうどこにもなかった。


「……」

「……」


 驚くのももう疲れたとばかりに私達は無言で寮に帰った。


 ◇


 自室のベッドに寝転んで天井を仰ぎながら、ひとつため息をこぼす。


「なんだったんだろう」


 今の私の心情を表そうとすれば、ただその一言に尽きる。

 今日はあまりにも色々と、それもこちらの理解の及ばない事が起こりすぎだ。

 突然現れた紅髪の女性に、久し振りに見た仮面の男。

 漫画のような戦闘と、それによる被害が数分後には綺麗さっぱり消えていた街道。

 全力疾走でも追いつけなかった学院長に翡翠色の双子。

 それらについて思考を働かせようとするが、存外私は疲れていたらしく、その前に私の意識は微睡んでいってしまった。

モヤッとした感じで終わりましたが、次回ハルカ視点で説明します。

コミュ症設定の所為で風雨花が中々喋らなくて描写が難しい。

かと言って来ノ未の動きと心情だけ書いてると現実感やらが……うーん。


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