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秘密組織の序列十位は自称器用貧乏  作者: 使い捨て系鉛玉
二章 勇者
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十九話 勇者十六夜の憂鬱②

遅くなりました。

次次回あたりが難産で、ストックを保ちつつ書こうと思うと一週間も間が空いてしまいました。

 


「これは、どうなってるんだ?」


 呆然とする私を他所に、少年はキョロキョロと辺りを見回して小首を傾げる。

 その仕草がやはりどこか彼に似ていて、ついつい見入ってしまう。数秒経って我に帰った私は、一瞬躊躇いを覚えつつもやがて意を決して声をかけた。

 すると少年はそこで初めて私に気がついたらしく、慌ててこちらに頭を下げた。それは良いのだが、その時の言葉遣いや態度があまりに恭しくて、私は思わず少し苛立ってしまうのを感じた。


 それを指摘すると少年は頭を上げるが、言葉遣いは敬語のまま。それにも不満を訴えたが、『ご容赦を』なんて迷惑そうに返された。理由があるのは分かるがその顔でそんな態度を取られては、やはり釈然としない。

 言葉に出来ないむず痒さに歯噛みしていると、ふと彼のローブの腕の部分が血で滲んでいるのが目に入る。

 何気なく注視すると、ローブの隙間から腕がグロテスクな状態になっているのがチラと見えた。

 悲鳴混じりに尋ねると、少年は慌てて経緯を説明を始める。


「魔術の実験に失敗しまして」


 どんな実験をすれば腕が赤黒く変質すると言うのだろうか。

 痛がる様子もない彼はそこまで危機感を感じておらず、それどころか学院がどんな所なのか説明さえ始めた。

 こちらとのテンションの差に違和感を覚え、相槌が曖昧になってしまう。なんとか治療するように訴えれたが、何故か少年は笑っていた。

 その笑みがまた彼に似ていて、その所為で次の言葉が思わずキツくなってしまう。

 しまったと後から思い、その態度を怪しまれないように不意打ちで手を引っ張って誤魔化す。そのまま表情を見られないよう背を向けながら寮まで走り出すと、迷う事なくすぐに時計塔に辿り着いた。感動を隠しつつオジさんに言われたように正面から右手へと走るが、そこで少年からそっちは女子寮だと指摘される。

 恥ずかしくなった私は手を振り払うように離してしまった。


 少年との間に気まずい空気が流れるが、あちらがすぐに破ってしまった。


「とにかく大丈夫です。ではこれで」

「あ、待って!」


 去ろうとするその背中を、気がつくと呼び止めていた。

 別段なにがあった訳でもないが、黙っていても気まずい。

 何か言わねばと思って出た言葉はーーー


「あなたの名前、教えてもらって良い?」


 ーーーあまりにも核心を突いていた。

 言ってしまってから、やっぱり心の準備が出来てからにと思ったが、今更訂正する訳にもいかなくて、もう私には相手の言葉を待つことしか出来なかった。


 相手に聞こえるんじゃないかと不安になる程激しい鼓動を手で抑え、沈黙に包まれた長い長い一瞬を耐える。


 沈黙を破ったのは、やけにあっさりとした少年の言葉だった。


「ハルカ・ウィルノートと申します。

 御用の際は呼びやすいように呼んで頂ければ」

「はる、か?」


 その言葉を咀嚼するのに数秒要した。

 ハルカ、はるか、はるーー


『次、ハルが鬼ね』


 ーー遙花?


「え、あれ……なんで?」


 思わずそんな言葉が口から出ていた。

 だって、それは、その名前は……!


「なぜ、とは?」


 そこで思考が引き戻され、慌てて何でもないと首を振る。

 誤魔化すように教室でやった自己紹介を繰り返し話題を逸らす。上手く話題がすり変わり、安堵していると、少年から聞き捨てならないワードが出て来た。


「……千年前の、魔神を討った勇者の話も」

「……!」

「ではそろそろ門限が近いので失礼させていただきます」

「うわ、すっかり忘れてた」


 もう辺りはすっかり真っ暗になっていた。

 引き止めてしまった事を謝りつつ手を振って少年と別れる。


「やっぱり、似てるなあ」


少年のしぐさを思い出し、そんな言葉がポツリと零れた。

 それにしても、千年前の勇者か。そう言えばその事についてはまだ一度も調べてなかった。他種族の事も調べたいし、もう少し読む本の範囲を広げてみようか。



 その後、寮があまりにも広くて自分の部屋まで辿り着くのにこれまた五分ほど迷ったのは、ここだけの話。


 ◇


 翌日、図書館にて風雨花にあの少年の事を打ち明けた。

 すると彼女は突然立ち上がり、勢い良くこちらに身を乗り出して来た。


「なんで、なんで()()()()()()()()()()?」


 最近引っ込み思案気味な彼女から思わず出たその声は意外にも遠くまで届いたようで、周囲の視線がこちらに殺到する。

 しばらくしてからそれに気がつくと、彼女は顔を真っ赤にしながらおずおずと再び席に着いた。その様は小動物を思わせ、なんとも可愛らしかった。言わないけど。

 とはいえこの反応も仕方ないだろう。

 私だって昨日全く同じ反応をしてしまった。


 気まずい空気に苦笑を一つ浮かべ、机に並べた本を一つ開く。

 その内容は、この世界の千年前について。

 これから得られた情報は私の予想を大幅に上回る程に有益だった。

 例えばこの時代には二種族間で激しい戦争があった事、その最中に魔神が現れた事、それを討った勇者がいた事。そして何よりーーー


『その英雄の名は、カナタ・ウィルノート』


 ーーその勇者が、あの幼馴染と同じ名前をしていた事。


「どういう、事……?」


 思わず漏れた声は先程と違って遠くまで響く事は無かったが、目の前に居る風雨花が聞き取るには充分な声量だったようで、彼女はじっとこちらを見つめていた。

 そこで、打ち明けるべきかどうか迷いが胸中に生まれる。

 そして結論が出ないまま黙りこくること数十秒。

 やがて彼女の方から『教えて』と日本語の書かれた紙切れを手渡され、ため息をつきながら本を見せた。


「……!」


 彼女はしばらく文字を追って、数秒の間が空いてから先程のように目を見開く。しかし先程と違って『面食らう』事なくただ絶句する事で驚愕を露わにしていた。


「これ、どういう事だと思う?」

「……」


 返答は、やはり無かった。訳がわからないのだから返事のしようもない。

 こちらもただ何も言わず本を閉じ、別の本を手に取って調べ物を再開した。


 ◇


 その少し後私達は寮までの帰路に、今日は二人揃ってついていた。

 時間帯は昨日より早く、まだ遠くの空が若干赤みがかかっている程度だ。日暮れまではまだ少し時間がある。

 これなら門限にも余裕で間に合うだろう。 というのは、寮生活初日からギリギリで目立ってしまったから印象を薄めなければ、と思っての事だ。

 現状、目立つのはあまり好ましくない。むしろ避けるべきだ。

 あの国王とその一派に、聞けば人と見分けのつかないらしい魔族。それら敵がここに居ないとも限らないのだ。

 例えここに居なかったとして、それでもどこからそこに私達の情報が伝わるとも知れないのだから、やはりどれだけ警戒しても過ぎるという事はないだろう。


「あれ?」


 ふと、隣を歩く風雨花が訝しむような声を上げた。

 振り向くと、彼女は周囲を見回しては小首を傾げている。

 どうしたの?と問おうとして、そこで私も違和感を覚える。

 ーー少し、辺りが静か過ぎやしないか?


「……人が、居ない」


 そんな呟きが聞こえると同時に私もその事に気がつく。


 確か国王の話ではこの道は交通が制限されている。

 その為学院生やその他関係者以外は居らず、道にあるのは学院生御用達の施設ばかり。活気などあったものでは無い。

 しかしそれを加味したとして、その学院生や店員さえ居ないのは不自然では無いだろうか。

 そう思っていた頃、前方の角より人影が一つ現れた。


 この状況について聞こうと歩み寄り、しかしその人物の姿が建物の陰から露わになった途端、前へ向かう足が止まる。


 ただ視界に入れただけで、背後にあるはずの夕日が目の前に現れたかのような錯覚さえ覚えた。

 よく見るとそれは太陽などでなく女性。

 燃えるような(あか)い髪を後ろで適当に纏め、黒いコートのようなものを羽織っている。

 この世界ならばどこにでも、とは言わないが探せば居そうなその特徴は、しかし女性本人の放つ雰囲気の異質さから私の頭の中を真っ白に塗りつぶしてしまった。


「こんにちは。可愛いらしいお嬢さん達。その黒髪、貴女達って勇者なんでしょう?

 ならその救世の道すがら、ちょっとお姉さんと遊んで行かない?」


 女の私でも見惚れてしまいそうな程に魅力的な笑顔を浮かべる女性。

 気がつけば私は風雨花の手を引き、女性に背を向けながら一心不乱に駆け出していた。

 いや、その表現は正しくない。

 だってーー


「生憎だけど、鬼ごっこはあまりオススメしないわ。

 きっと勝負にならないから」


 ーー私が足をたった一歩踏み出すより先に、女性は私達の背後に回り込んでいたのだから。

 踏み出す事叶わず二の足を踏んでいると、それを他所に女性はこちらに歩み寄ってくる。互いの距離が一歩、また一歩とゆっくり縮められていく。


「そうね、何がいいかしら?

 私としてはダンスが良いのだけれど。人が舞い、剣が舞い、血飛沫までもが舞うような、情熱的な演舞が」

「それは素晴らしい」


 どこからか響いた、くぐもった声が女性の問いに答えた。

 もちろん私ではないし、声からして風雨花でもない。

 バッと、慌てて振り返る女性。つられるようにそちらを見ると、視界の中に突然人が現れた。

 ーーいや、というよりは、先程からそこに居たかのようにその姿が周りに溶け込んでいたその人物を、今初めて見つけられたと言うべきか。


 あんなにテンパっていたとは言え、多少日本で武術を嗜んでいた私が足音に気が付かなかったそれは、あまりにも意外な人物だった。


「こんばんは勇者様方。そして、エルフのお嬢さん」


 そういえばこちらに来てからの一週間、たったの二度しかその姿を見ていない。

 頬のあたりに小さな五芒星が刻まれた白い仮面に、首より下の一切の情報を遮断する黒マント。


 確か、『ミスターマイスター』と、そう名乗っていたか。


「……誰かしら? 紳士の癖に女同士の会話に割り込むだなんて……いささか無粋よ?」

「おや、それは失敬。なにぶん見目の麗しい婦人方が大変楽しそうなご様子でいらっしゃいましたので、ついついお声かけを、と。

 おっと申し遅れました。(わたくし)はここ王都にてしがない魔術師をやっている者にございます。

『ミスターマイスター』と、そうお呼びください」

「……ふうん?」


 紳士然と、といっても私はこちらのマナーなどよく知らないが、とにかく気品を感じる動作で一礼するミスターマイスター。そんな彼を、女性はただ訝しむように見つめていた。


「ところで無粋ついでに一つ。ダンスは古来より男女で踊るものでございます。しかも剣を以ってと仰る。

 然あらば、是非ともこの私と踊って頂けませんか、レディ?

 僭越ながら私、かの剣聖様に中々だ、とお言葉を頂ける程度には剣が得意でございますゆえ」


 マイスターは言い終えると、マントの内より右手を出す。

 すると次の瞬間、そこには青白く輝く細身の剣が握られていた。


「……へえ」


 それを見た女性の顔に妖艶な、それでいてどこか獰猛さを感じさせる笑みが浮かぶ。

 女性はコートの内から剣を二本取り出すと、刃をマイスターに突きつけるように構えた。


「なら、手加減は必要なさそうね?」

「ええ。どうぞご存分に」


 マイスターが短く言葉を発するや否や、突如二人の姿が互いにブレ、甲高い音と共に凄まじい勢いで衝突した。




来ノ未「なんか訳分からんままバトル始まった」


中途半端になったのでやっぱり三回に分けます。

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