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秘密組織の序列十位は自称器用貧乏  作者: 使い捨て系鉛玉
二章 勇者
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十六話 ナイストゥミートュージャパニーズ?

テストヤベェ……。

相加相乗平均ってなんなんだ。

暗記科目が全て終わり少し余裕が出来たので投稿しました。

あとは古文、英語、物理と一夜漬けではどうにもならないものばかりなので神様に祈ります。


 

 先程まで誰も居なかったここら一帯の通り。

 しかし今や、結界によって別の場所に押し込められていたはずの人々がいつも通りの賑わいをここら一帯に作り出していた。

 まるで、最初からそこに居たかのように。


 おかしい点はそれだけでない。

 あのルダという少年によって粉砕されたはずの民家がハルカの目の前に悠然と建っていた。

 家には傷一つなく、それどころか明かりさえついており、中からは子供の無邪気な笑い声が聞こえてくる。

 街の景観は、まるで戦闘など無かったかのように、平和だった。


 不思議な国にでも迷い込んだかのような違和感、場違い感とも表せるそれは、むしろハルカの方が突然ここに現れたのではないかと錯覚を引き起こした。


「一体、これはどうなってるんだ?」


 この訳の分からない状況に口を開けて呆然とするハルカ。

 さっきまで白昼夢でも見ていたのだろうか。頭にはそんな思考さえ浮かんでいた。

 その横顔にふと、声がかけられる。


「ねえ」

「えっ、あ、はい?」


 我に帰って慌てて振り向くと、ひとりの少女がこちらを心配そうに覗き込んでいた。

 王都では珍しい黒い髪に黒い双眸。

 学院のローブを身に纏ったその人物はーー

(十六夜……来ノ未)

 その名前が文字列として自発的に再生され、意図せず表情が引き締まった。


「さっきからボーっとしたり急に走り出したりしてどうしたの?

 というか、さっき突然現れたように見えたんだけど」


 浴びせられた質問は、いきなり核心をついていた。

 お前を狙う何者かに襲われていた、などともちろん言えるはずもなく、結局返答に窮し口ごもってしまう。

 とはいえずっと黙り込んでいても不自然なので、とにかく一般的な学院生を演じようと、自然で、それでいて誤魔化しに適している振る舞いや言葉を思考の海から探す。

 一秒にも満たない思考の末、辿り着いた結論は謝罪だった。


「も、申し訳ございません勇者様。

 貴女様にぶつかるなど、とんだ御無礼を」

「そ、そんなに畏まらないでよ。こっちは気にしてないからさ。ね?」

「あなたがそう仰るならば」

「うーん出来れば敬語も止めて欲しいなあ」

「それはご容赦を。不敬罪に処されてしまいますので」

「あーそっか王国だもんね。不敬罪くらいそりゃあるか。

 むず痒いし、距離感じて()なんだけどな」


 上手く話を逸らせた。

 日本人らしく恐縮する十六夜を見てそんな手応えを感じながら、以降の会話に矛盾が生まれないようにハルカは状況の整理を試みる。


 とりあえずあのルダとかいう少年の言っていた『結界』からは外に出られた。と、いうことで間違いないだろう。

 だから人が現れた。という認識で、取り敢えず疑問は頭の隅に置いておく。魔術理論的には納得は出来ないが、その推理も後回し。

 今はここが結界の外だという事実さえ分かっていれば良い。

 一応先程の二人組の魔力を探るが、どちらももう近くには居なかった。

 完全に逃げられた。それも、実力がバレたまま。

 思わず舌打ちしたい衝動に駆られた。


 さて、先程の言葉から察するにこの勇者の少女、というより周りからはやはりハルカの方が突然現れたように見えたようだ。

 話を逸らす事は叶ったが、恐らくまだ怪しまれている。

 どう説明したものやら。

 と、悩む暇もなく、十六夜が唐突に目を見開いた。


「あれ?君、血が出て……ってその腕どうしたの!?」

「あーこれは、その、魔術に失敗しちゃいまして……」


 全く、先程から気づいて欲しくないことにばかり気がつく。


 皮膚の無い右腕を慌てて背に隠し即興の言い訳を取り繕う。

 脳内に残っているアドレナリンの所為で演技がいささか大根芝居になってしまったが彼女はまだ魔術に明るくないので納得するしかないはずだ。


「へえ、熱心なんだね。学院生って皆そうなの?」

「いえ、一部だけですね。今から学者や騎士を志望しているような学生はかなり意欲的ですが、僕はあまりそうでもありません。今回はちょっと事情がありまして」

「へえ、良いなあ。すごい楽しそう。

 勇者とかじゃなくて、普通に通いたかったな」


 説明に十六夜は興味深そうに何度も頷く。完全に関心が話に行っていた。その反応に安堵していると、しかしその口からはまた別の言葉が続けられる。


「でも」


 一拍間が空いて、それから続く言葉はハルカの予想していたものからかなり乖離していた。


「それで怪我してたら本末転倒だと思うな。私まだ魔術の事はよくわからないけど、怪我でもして研究とか出来なくなったら、それこそ目も当てられないよ?

 事情って言うのも気になるけど、程々にね」


 それは、紛う事なき説教だった。

 物言いは上からで、内容はまるで見当はずれ。

 しかしその上から目線は勇者としてのそれではなく、むしろ例えるなら世話焼きな医者のようで、その瞳は心配を訴えていた。


「わかった?」

「……肝に銘じておきます。

 ご心配をおかけしたようで申し訳ありません」

「だから畏まらないでって」


 反論など意味もないので大人しく頭を下げておく。

 しかしその顰められた眉は煩わしさを隠せずにいた。

 そもそもこの程度の傷、魔術直撃直後ならともかくとして、処置後の今程度の状態ならば、その実そんなに珍しくもない。ここまで心配されるとむしろ鬱陶しいのだ。


 例えばついこの間、ハルカの数少ない知り合いである魔導騎士隊員志望の学生が討伐依頼で魔物の呪詛を貰ってきた。危険度S級の魔物による死に際の呪いは恐ろしいもので、それを受けてしまった彼女の状態は、それはもう非道かった。

 全身がただれ、骨格は一部歪み、学院でも評判だった美しい顔はもはや見る影もなくなっていた。

 年頃の女性である彼女にとって当時は精神的ダメージも大きく、嫁の貰い手がなくなったと悲壮に暮れていた。幼馴染の貴族との婚約も破棄されたらしい。

 まあ流石にこれは極端な例だが、要するに人生を全て台無しにするほどの怪我を負うことも人によってはあり得る訳で、それに比べればこの右腕の傷などなんでも無い。

 なにせ、日本と違い、そもそも死んでさえなければ大体の傷は直ぐに魔術で治療できてしまう。


 まあ、だからといって日本人である十六夜にとってはそうすんなりと頷けるものではないのだろう。

 魔物も居らず戦争もない、更に言えば日常に喧嘩が起こることさえ珍しい、そんな平和な場所から来た人間にとって怪我とは非日常のものであって、大事(おおごと)であるという認識が一般的。

 仕方ない。とわかってはいるが、それでこの先魔族と戦えるのかと思うと不安になる。

 しかし日本に居た時の事を思い出した懐かしさからか、頬は自然と緩んでいた。

 その不自然な変化を、十六夜は訝しむ。


「何笑ってるの?早く病院……は無いのか。

 とにかく治療ができる施設に行こう」


 無事な方の腕が捕まれ、グイと勢いよく引っ張られる。

 そのまま十六夜は歩き出し、どんどん速度を上げて行く。

 ハルカに出来るのは、互いに転ばぬよう同じ速度でついていくことだけだった。

 小走りをというには速い足で向かう先は、学生寮のある方向。しかし途中で通る別れ道から目的地が女子寮であることを察し、慌てて手を振り払う。


「どうしたの?」

「その、治療ならば男子寮でも出来ますので」

「……あ、そっか男女別か。

 寮に来るの今日が初めてだからさ。ゴメンゴメン」


 危なかった。気づいてなかったらしい。

 この程度の怪我を理由に女子寮に侵入し、あまつさえ勇者に迷惑をかけたとなればどれほど悪目立ちしていた事だろう。

 そう考えると頬に冷や汗が伝った。


「とにかく大丈夫です。ではこれで」

「あ、うん。じゃあね。お大事に」


 言うや否や、アイドルに会った小市民のように挙動不審を装いながら逃げるように駆け出しーー


「あ、待って!」


 ーー肩を掴まれ立ち止まった。

 ため息を堪えながらぶっきらぼうに振り返る。


「……なんでしょうか」

「あ……あーその、えっとね?」


 目を逸らして口ごもる十六夜。

 何か聞きにくい事を聞こうとするような、そんな態度だった。

 何か勘付かれただろうか。

 肝を冷やすハルカをよそに、十六夜は意を決したようにそれを口にした。


「あなたの名前、教えてもらっていい?」


 婉曲的な言い回しのそれは、当然の言葉。

 なにも知らない人間からすれば何故名前を聞くだけで口ごもったのかさえ分からないだろう。


 随分躊躇われたその問いに、ハルカはやけにあっさりと答えた。


「ハルカ・ウィルノートと申します。

 御用の際は呼びやすいように呼んでいただければ」

「はる、か?」


 対する十六夜の反応は、やはりどこか不自然。

 期待が外れたような反応、とは似ているがまた違う。確かに失望感が表情に一瞬表れたが、その呆然としている様を見ると、どちらかと言えばーー


「え、あれ? ()()()


 ーー『ハルカ』という名を知っていて、しかもそれが()()()()()()()であったかのような、会話だけ聞けばなんとも失礼極まりない反応だった。


「なぜ、とは?」

「あ、ううん!なんでもない。なんでもないの。

 そっか、ハルカくんね。うん覚えた」


 苦笑を浮かべ聞き返すハルカに、十六夜はハッと我に返り、慌てて首を振る。

 そして無理やり笑みを浮かべると自然体を装って名乗り返した。


「多分教室で聞いてたと思うけど、私は十六夜 来ノ未。

 あー、こっち風に言えばコノミ・イザヨイになるのかな?」

「イザヨイが家名、という事ですよね。

 それでしたらこちらの世界にも家名を先に名乗る国はいくつか御座います」

「あ、そうなんだ。そりゃそっか。あっちでも国によって違ったし」

「他にも閉鎖的な部族や他種族では家名など不要としていて、そもそも無い事が多かったりしますね」

「……面白いね。そういえば他種族とかも居るのか」

「その辺りは学院の図書館に詳しい本がありますよ。

 ……千年前の、魔神を討った勇者の話も」

「……!」

「ではそろそろ門限が近いので失礼させていただきます」

「……あちゃ、すっかり忘れてた」


 辺りを見回すと、陽は完全に落ちて、もうすっかり真っ暗だ。

 勇者の十六夜は例え学院の規則を破ろうと怒られたりなどしないだろうが、表向き一般生徒であるハルカは別だ。


「引き止めちやっててゴメンね。その腕、お大事に」

「ありがとうございます」


 恭しく頭を下げ、ハルカは十六夜と別れた。



次回は土曜になるかと。


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