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秘密組織の序列十位は自称器用貧乏  作者: 使い捨て系鉛玉
二章 勇者
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十四話 勇者モドキ

もう、テストなんか知らないっ!

という訳で投稿する事にしました。


 

 視点・ハルカ



 現在、俺は勇者の監視する任務につく事になった訳だが、実は最近とあることに頭を悩ませている。

 いや、前々から悩んではいたのだがここ最近特に酷い。

 例えば廊下を歩くと……


「ほら、あれだよアレ。昨日言ってた」

「うわ、本当に勇者様と同じだ」

「同じじゃねえ。真似してんだよ。

 甘い汁でも吸えるんじゃないかって」

「というかアイツってあれだろ?

 確かシュオリーゼのお嬢様に付き纏ってるって言う」

「アイツが?本当碌な事しねえな」


 ……この言われようである。

 なんだこれもう涙出そう。こういうのって普通落ちこぼれの勇者が受ける扱いじゃないのか?

 ここ四年ラノベを読んでないから分からんが。


 それにしてもこれ、絶対イジメだよな?

 ヒュノさーんあなたの学院でイジメがありまーす。


「……はあ」


 なんにせよ、学院を辞めたい。そう思う事もここ数日でかなり増えた。前々からそれなりに多かったため息も、今日この頃に比べれば可愛いものだろう。

 いや、物は考えようだ。

 あのテラクラとかいうイケメンみたいに学院の内外まで全て尾け回されるよりは全然良い。あれでは任務どころの話ではなくなる。こっちの方が監視もしやすく……ってそんな訳あるか。

 こっちはこっちで目立ってやりにくいわ。


「あ、ハルカ。

 神聖術のレポートちょっと手伝ってくれません?

 障壁のところで躓いちゃって」


 この空気をものともせず俺に話しかけてくるシャアラには本当に舌を巻く。

 こいつはむしろ気楽過ぎないか?

 呆れたように眺めていると、シャアラはなにを勘違いしたのか照れたように明るく笑った。


 そんなこんなで肩身が狭い思いをしながらも、今日を無難に乗り切った。

 監視対象(ゆうしゃ)からの怪しむような視線にも、知らないフリを貫いて。


 ◇


 学院長室にて。


「進捗どうですか?」

「全然駄目だ。勇者の内、二人が俺を訝しんでいる。

 あと悪目立ちし過ぎている所為で動き難い」


 ここにわざわざ訪れた用件は十日に一度の定時報告。

 しかし最近は最早愚痴と化している。

 それほどまでに問題が生じまくっていた。


 現在、秩序の鎖は戦闘班のかなり大規模な戦力を王都に集中させている。

 これは勇者が危険な存在だった時に確実に対処する為だ。

 結局、勇者はただ魔力が大きいだけの素人だと確認されたので杞憂に終わったが、全員そのままこの王都で別の任務に取り掛かっている。

 王都にはかなり懸念事項が多いので、それらを一気に解消していってる感じだ。

 例えば一つは勇者の監視。

 これは主に俺とヒュノ、エイナさんに任されている。

 俺は学院内外での勇者の動向を見張り、ヒュノは勇者に関わる国内の情報やらの移動を確認、統制している。

 エイナさんはどちらかと言うと国王やら貴族連中の監視だ。

 あの馬鹿どもは私益のためにまた馬鹿な事を馬鹿みたいに企んでいるから、その牽制が必要なのだ。


 ちなみに他のメンバーはあのイェラド山で出た魔族のバックにある組織を追っていたり、勇者による他国の動きのを見たりと色々分担して行なっている。

 俺も怠けてはいられない。


 ……とはいっても、だ。


「俺もう裏方に徹した方が良いんじゃないか?

 向いてないっていうか状況がもう駄目だ。ほら、一つ下の学年にフェイを向かわせてあいつに任せよう。

 あいつ今王都でノンビリしてるんだろ?」


『秩序の鎖』序列六位 フェイル・パシアソナ。

 年は俺の一つ下で、数少ない常識人。

 王都に集合している序列一桁の中で、実は現在唯一任務を与えられていない。

 ノイでさえ魔族集団の調査を行なっているというのに。

 大方また任務を終えたばかりなのだろうが、だというのに休養の滞在先でこんな事になっているなんて、あいつもツイてない。

 だが、俺は休暇さえ取れずにこんな目に遭っているのだ。

 押し付けても罰は当たらないと思う。


「残念ながら、フェイル君はもしもの時に魔族の対処の方に回したいそうです」

「ああ、なるほど。……あいつも本当に難儀な。

 というか既にもう連絡取ってるのか」

「丁度みんな王都に居ますからね。

 エイナさんにハルカが今言ったように苦言を呈して見たところ、苦笑しながら応援を手配すると言っていました。ハルカが目をつけられた事はあの人にとっても想定外だったそうです」

「まあ潜入先でイジメられるなんて想定してないわな」


 というかイジメで応援要請ってよく考えたらめっちゃ情けないな。

 ノイとかリマあたりに話したら爆笑されそうだ。

 応援の人も可哀想に。


「編入手続きはもう終わらせました。

 勇者達との同年代にはやはり適当な者が居ないので中等部に送り込みます。

 今日明日に到着するそうですので直ぐに接触があるかと。

 ちなみに、急な退学は嗅ぎ回る連中が出て来るのでもうしばらく通学は継続しろとの事です」

「……それは、まあそんな事だろうと思った」


 むしろ監視の本命に目が行かないよう陽動として動くことになりそうだ。

 はあ、学校行きたくねえなあ。


 ◇


「それでわざわざ騎士の訓練所(こんなところ)まで来たのかい?」

「ああ、愚痴に付き合わせて悪いな」

「それは別に大丈夫だよ。

 今日から勇者様が寮暮らしだからけっこう暇だしね」

「あっははは嬉しくねえわそれ。マジで勇者どもこっち来んな」


 辟易とした様子を隠そうともしない俺の声に、テオはどこか楽しそうに笑う。

 何が面白いのか分からないが、やはりイケメンの笑顔は嫉妬の余地なく絵になると思う。


 ーーその右手が凄まじい勢いで木剣を振り回していたとしても。


「しかし珍しいね。ハルカの方から打ち合いに誘って来るなんて。

 いつもはエルシードに引きずられて来るのに」

「偶に無性に剣が振りたくなる時があるんだよ。

 あとここでエルさんの話はしないでくれ。ボッコボコにしごかれたトラウマが蘇りそうだ」

「気に入られてる証拠じゃないか」

「エルさんは気に入った相手にあんな事するような人じゃねえだろ。なまじ卑怯な手を使って勝っちまった俺が悪いんだよ。

 そりゃ剣の道に生きてたらアレは怒る」

「武器を投げたりしてたからね。挙句素手で木剣を殴り返した時は思わず笑ってしまったよ」

「やめてくれ。恥ずかし過ぎて死にそうだ」


 そうは言いながらも、自分の頬は緩んでいた。

 もう三年も前の事となれば懐かしさの方が強いのかもしれない。厨二病の頃の記憶は未だに脳漿が沸騰しそうになるくらい恥ずかしいが。


「そう言えばテレイルは誘わないの?

 仮面つけて誘ったら喜んで応じてくれそうなものだけど」

「あいつと手合わせなんかしたらストレス解消どころか余計に疲れる。

 本当に面倒な……っと悪いちょっと力んだ」

「大丈夫だよ。ハルカは太刀筋が綺麗だからね。ちょっと力加減を間違えても受け止めやすい」

「へいへい剣聖様にお褒めの言葉をいただき恐悦至極ですよー」


 会話の合間を埋めるように木剣と木剣のぶつかる軽い音が間隙なくあたりに響く。

 それがなんとも小気味良く、木剣を握る手に自然と熱がこもって行く。

 やっぱり打ち合いは楽しい。


「そういやネムは最近どうなんだ?」

「勇者様の対応でお疲れだよ。

 お見目が麗しいものだから、昨日まで勇者様方に引っ張りだこ状態でね。

 今は自室でお休みになられている」

「ああ……」


 そりゃ日本じゃ滅多にお目にかからんぐらい綺麗だからな。

 リマとずっと一緒に居たり姉妹とかと比べられてきた所為で卑屈なとこあるけど、健全な男子高校生からしてみれば、是非お近づきになりたい存在だろう。


「あいつも大変だな。……支えてやれよ?騎士様」

「それは言われるまでも……ない!」

「うおっ」


 一際強い打ち込みを受け損ない、鈍い音と共に手が痺れる。

 剣戟が止み、一瞬の沈黙が訓練所に走る。

 が、直ぐに打ち合いは再開された。


「……急に力入れんなよ。

 お前の一撃めちゃくちゃ重たいんだから」

「ごめんごめん。でも、これでまだ剣を離さないんだね。

 会った時と比べると、随分強くなった」


 じとっと睨むが、その笑みはますます深まる。

 虫も殺せなさそうな美形なのに、どこか獰猛だと感じられたのは気の所為か。


「ま、どうせお前らにゃ全然届かねえけどな。

 オッさんとかもうアレ人外認定していいレベルだろ」

「確かに。けど、そりゃハルカに剣で負けたら、ね」

「お?俺に才能が無いってか?

 喧嘩なら買……いややっぱお前と喧嘩とかゴメンだな」

「違う違うそういう意味じゃなくって。

 というか後半失礼じゃないかい?僕としてはハルカと一度本気で喧嘩してみたいんだけど」

「マジで勘弁」

「ええー」


 兵士達の多くが休暇をとっているこの日の訓練所に、なぜか日暮れまで木の打ち合う音が響いていた。


 ◇


 城から寮まで帰る道中。

 あたりはすっかり夕暮れで、道はかなり薄暗く足元が見えにくい。

 この時間帯をあちらでは逢魔時と言ったか。

 なるほどこれは確かに不気味で、いっそお化けでも出てきそうだ。

 人通りが全くない所為もあるだろうが、どうしようもなく不安を煽られた。


「あ、そこの人!」


 ふと後ろから呼び止める声が一つ。

 はたと立ち止まり振り返ると、なにやら少年が、早足でこちらへと向かって来ていた。

 バッチリ目が合っている事から、間違いなく俺のことだろう。

 というかそもそも周囲には他に誰も見当たらない。


「呼び止めてすみません。その黒髪、もしかして勇者様ですか?」

「……は? 」


 唐突な問いに、思考が一瞬フリーズした。

 しかしそんなこと御構い無しにその少年はこちらを見て目を輝かせている。

 同い年くらいだろうか。背は同じくらいで、しかし童顔なために年下にも見える。


「僕、北の方から来たんです。それも結構遠く。

 千年前から続く勇者様を崇めている村なんですが、僕は村の中でも特にその勇者様のお話が大好きなんです」

「は、はあ」


 急に話し始めては恥ずかしそうに笑う少年。

 対応に困る俺に対して、語り口がどんどんヒートアップしていく。


「その勇者様が王都においでなさったと立ち寄った行商人から聞いて、つい居ても立っても居られず村を飛び出してしまいまして」

「そ、それはそれは」

「だから、ここで出会えたのは運命なんだと思います!

 折角ですので、その、よろしければ握手してもらえませんか!?」


 言い終えると、手が差し伸べる、というには勢いよく突き出された。


「は、はい。握手だけなら」


 説明も面倒だったので、適当に応じようとこちらも手を差し出す。あとでバレたとしてもその時にはどうせもう関わることがない訳だし、とにかく今は門限が過ぎる前に寮へ帰りたかった。


「わあ、ありがとうございます」

「いえいえ構いまーーー!?」


 手を掴もうとしたその瞬間、少年の口がニィと裂けるのが見え、背にゾクリと怖気が走る。

 思わず後方に跳びのいていた。


「あれ、気付かれた?」


 少年は自分の手を眺め、次にこちらに視線を向け首を傾げる。


「もしかして勇者様、実戦経験がおありですか?

 全員まだズブの素人だって聞いてたのに、面倒だなあ」


 少年は穏やかな、しかし先程と違ってどこか寒気を覚える笑顔を貼り付け、ゆらり とこちらを見据える。

 その異質な雰囲気に、頰を一筋汗が伝うのを感じた。


「……いやあ悪い。実は今日、手汗がヤバくてね。さっきしこたま木剣振ってきたから臭うんだ。

 先に帰って手を洗ってきたいんだが、良いか?」

「流石勇者様。随分と武術の稽古に熱心なんですね。

 けれど僕はそんなのぜーんぜん気にしませんよう?むしろ勇者様の汗なんて、故郷に自慢できるくらいです」

「……おおう。それはそれは随分と熱烈な。

 そんな熱心なファンには悪いんだが、そもそも俺、勇者じゃ無いんだわ」

「へ……?」


 ポカンと自失する少年。先程の不気味な雰囲気が少し霧散するのを感じた。

 なるほど。対話は可能なようだ。


「俺はたしかに黒髪黒目だが、学院じゃその所為で『勇者モドキ』なんて呼ばれてる、偽物だよ」

「……ああ、なるほど少数部族ですかあ。

 すみません完全に人違いでしたね。それじゃあお詫びにーーー」


 突如、ドロリと少年の体が崩れ落ちる。かと思えば、次の瞬間には視界から完全に消えていた。


「ーーー夢を見せてあげましょう」


 ふと声が聞こえたのは、後方。

 しかし振り向くことなく手を地に付け咄嗟に屈みこむ。


「そぉいっと、あれ?」


 数瞬後、俺の首があった空間を黒い何かが通過した。


「わぷっ!」


 学院制定のマントを後方に投げつけ追撃を阻みつつ、前方へ跳んで再び距離を取る。

 構えを取りつつ振り返ると、少年はどこから取り出したのか、身の丈ほどもある真っ黒の大鎌を両手で握りしめていた。


「へえ、あれを避けるんだ……。うーん、中々想定外の事態だな。……けど、まあどうせーー」


 少年は鎌を両手でくるくると、まるでオモチャのように振り回しながら思案顔を浮かべる。


「ーー殺してしまえば問題ないですよね?」


 こちらに切っ先を向けた状態で鎌を回すのを止めると、少年は無邪気にニコリと笑った。

ちなみにハルカは仮面を被れば顔パスで入城出来ます。


次回更新は金曜です。

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