十二話 監視任務
勇者編二話です。
少し時間が飛び、ハルカ側の話になります。
途中まで三人称視点、それからはハルカ視点です。
〜王城のとある一室〜
「急に呼び出してすまないね」
「全くだ。寮の門限とっくに過ぎているんだが。
というか、カスタの奴はどうした?
最近あいつから連絡来ることが少ないんだが、サボりか?」
いつもの通り気怠げにぼやくハルカ。
対して呼び出した本人、エイナ・アイゼノトスは、そのエルフ族特有の端正な顔におおらかな笑みを浮かべていた。
現在は勇者が召喚された日の夜。
ミスターマイスターとして勇者への対応を終えた実に十八時間後に、ハルカは急遽組織の上司であるエイナから呼び出されていた。
その場所が城の中なのは決してツッコんではいけない。
例え彼女が女給の格好をしていたとしても。
「それで用件は……聞くまでもないな」
「ああ。ご明察の通り勇者関連だ。新しい任務だよ」
「へ?じゃあシュオリーゼ家の長女の監視は?」
勇者関連の報告があるのはわかっていたが、まさか任務を言い渡されるとは思っていなかった。
現在別の任務を遂行中だからだ。
ちなみにシュオリーゼ家の長女とはシャアラの事。
元来、ハルカはシャアラの監視任務を言い渡され学院に訪れていた。
それを終えるならば、学院を去る事が出来る。
それは、ハルカにとってかなり大切な事だった。
「それはもういい。
アンタが一年もごえ……監視してくれたお陰で無事にシュオリーゼ家は『鎖』の出資先になったからね。
勇者召喚に間に合って良かったよ」
まるで一年前から召喚がある事を知っていたかのような言葉に、しかしハルカは驚きを示さない。
それどころか、全く別の部分に食いついた。
「やっぱりアレ、護衛任務だったのか」
予想がついていた事なのだが、ハルカに課された任務の実態は監視ではなく護衛だったらしい。
監視任務にしては対象のシャアラから出てくる有益な情報があまりにも少ないと思っていたのだ。
そのくせ直ぐに面倒事に巻き込まれ、結構本気で守る必要があった。
「だって護衛任務なんて言ったらアンタ断るだろう?」
「当たり前だ。なんであの任務の後に、しかも一番重症だった俺が護衛なんてしなければならない。
……まあそれも、今日で終わりだがな」
「そうだね。もう彼女を狙う勢力は無くなった。
アンタが一人で殲滅してしまったからね」
「あれは俺じゃない。事故が起こったんだ。
蠍の化け物が現れるなんて、あいつらもツイてない」
「ああ、そうかそうだったね。
そういえばあの時は事故が起こったんだった。
けれどね、だからこそ、新しい任務だよ」
「……伺いましょう」
学院を辞めれるのかと期待が現れそうになった表情がその言葉に一瞬で引き締まり、口調も敬語に変わる。
エイナは満足気に笑い、次の任務の内容を告げた。
「勇者が学院に通う。その監視を務めなさい。
他国からの干渉があったり、勇者が問題を起こした時は水面下での対処をし、明るみに出ないうちに沈静化。
とにかく国家間の関係性を刺激しないように動くことが厳命されているから、まあ頑張りな」
「え、じゃあ学院は……」
「通学を継続。学院内での勇者の行動を『銀閃』と協力して逐一見張れ」
期待を真正面から打ち砕かれ、ハルカはガクリと項垂れた。
◇
視点・ハルカ
〜学院〜
「おはようございます。ハルカ」
世の理不尽から目を背けるように教室の机に突っ伏す俺に、朝から声をかける者が一人。
シャアラだ。
というかこの教室で俺に挨拶をしてくる奴など、もうこいつくらいのものだろう。
俺の噂もそろそろ学年中に広まっていて、しかもどうやらどんどん尾ひれがついていっているらしく、廊下でもよく見知らぬ他人から目を逸らされる。
未だ会話してくれるような知人は居ない訳では無いのだが、その他大勢から嫌悪の目で見られるというのは中々に辛いものがある。
それもこれもこの優等生様の所為なのだが、自覚が無く、しかも当の本人が友好的なものだから憎む事さえ出来ない。
「……おはよう」
ぶっきらぼうに返したつもりだったが、顔を伺うと、ニッコリと満面の笑みが浮かんでいた。
魔族の件以来、こんな風に所構わず話しかけてならようになり、距離感もどこか近くなった。
今も触れる一歩手前くらいに肩が寄せられ、サラサラの金髪が手に当たってくすぐったい。
というかなんでこいつが隣の席に座ってやがるのだろうか。
日本の義務教育と違って席など自由なのだから女友達とでもツルめば良いのに。
ほらクラス中の人間、特に男子からの視線が集中しまくってるだろうがっていうかお前は自分の人気を自覚しろっていうかああもう訳分かんなくなってきたどうにでもなりやがれ畜生。
そんな俺の心情に気づくこともなく、シャアラは会話しようと話題を振ってきた。
「実は昨日、勇者様が顕現なさったそうなんです。
しかも、三十人も!」
ああ、学院でも美声と名高い筈のシャアラの声がいつになく耳に障る。
その話は恐らく誰より俺が詳しく知ってるから勘弁してくれ。昨日ヒュノの事務作業手伝ったから頭痛がヤバイんだ。これ以上ストレスを溜めないでくれ。
喚ばれる勇者が一人のつもりだったから、途中入学の根回しが三十倍近く必要になり、しかもあの愚王が召喚翌日に入学させるとか訳のわからない事をあの言い出した所為で徹夜になった。
しかしそんな事情を話せるはずもないので初耳の時ヒュノに返したのと同じ反応をしてみせる。
割れそうな頭痛を表情に一切出さないのがポイント。
「へえ、そうなのか。
勇者様って、あの千年前の伝説の、だよな?」
「はい。魔神を倒す程の方々が、しかも今日学院に訪れるそうなんですよ。
その話を昨日父様から聞いて以来、ずっとワクワクが止まりません」
うん。知ってる。
お前のお父さんがなんでそれを知ってるのかっていうのも昨日聞いた。
今度組織で顔合わせるかもしれんからよろしくな?
……なんて、言えるはずもないが。
「それは、凄いんだけど、なんか凄すぎる所為でむしろ実感が湧かないな。
というかシュオリーゼ伯爵は随分と情報通なんだな」
「ええ。なんでも最近とある組織と繋がりを持ったそうで、色々とやりとりを交わしてるんだとか」
知ってる。っていうか今さっきその事考えてた。
くそう辛いな。話術の訓練微妙なまま終わったから、こういう事聞かれるとボロが出そうだ。
「それ、俺に話して良かったのか?」
良し、この返答が恐らく最適解。
本音でもあるから表情も不自然ではないはず。
そう、本音だ。なんでこいつはそういう事を無関係の(と思ってる)俺にそんなことをポンポン話してるんだ。
小声で話す辺り秘密な事も分かっているはず。
と、その組織に所属している俺にしてみれば割と本気で不安になる。
俺とか、友人というだけの存在にそんな秘密を漏らされればこいつの父親である伯爵も、組織もたまったものではないだろう。
「だって、ハルカですし」
どういう事だ。
まあ確かに俺にならば話したとしても秘密が漏れる心配はない。話す相手が王都全体レベルで居ないからな。
いや、居ない訳ではないのだが、その知り合いはそもそもほとんどが秘密の張本人だし、それ以前にその事をシャアラは全く知らないはず。
つまり俺ならば秘密が漏れないだろうと思っての事。
なら大丈夫、か?
◇
「さて、今日は君たちに重大発表がある」
そんな前置きをして、女性教師はそれを告げた。
「昨日、国王陛下によって召喚された勇者様が、本日よりこの学院へ通われる事となった。
幸運なことに君たちと同年代であらせられる為、この教室にも三人いらっしゃった」
うん知ってた。今日だけでもそれ聞くの2回目だし、さらに言えばその手続きしたの俺。
隣のシャアラも特に驚いた様子はなかった。
が、もちろん他の生徒にしてみれば初耳な為、教室はどよめきに包まれていた。
「驚く気持ちは分かるが今は落ち着け。
既に廊下にお越しなさっているんだ。
粗相のないよう、誇りある学院生らしく振る舞え。
特にウィルノート。お前は最近、教室の和を乱しているようだからな」
「……はい」
その勇者と同郷なのにな。
ははは滑稽。
「ではお入り下さい」
廊下より入って来たのは二人の少女と少年一人。
いずれも俺と同じ黒髪黒目をしていて、しかし俺と違ってかなり整った顔をしていた。
黒髪黒目という事で一瞬俺に視線が集まるが、俺が呆けた顔を繕っていると、何の関わりもないとお分かりいただけたのか、すぐに皆勇者へと視線を戻した。
しかし、その所為で既に勇者達の視線が俺へと向いてしまった。
男子の方はシャアラに見惚れているっぽかったが。
「勇者様方、自己紹介の方をお願いします」
教員の言葉に促され、男子から名前を名乗り始めた。
「僕は照倉 道と申します。
あ、姓が照倉なのでミチ・テラクラと覚えて下さい」
先程顔を真っ赤にしてシャアラに見惚れていたとは思えない爽やかな笑顔。
女子生徒の殆どは頰を赤らめてしまっていた。
ちなみにシャアラは何故かこちらを睨んでいた。
いや、なんでだ。
目や髪を不思議そうに見つめるならともかく、何故睨む。
その後女子二人、『コノミ・イザヨイ』と『フーカ・ミシルシ』も自己紹介を無難に日本人らしく終えたが、やはり視線はちょくちょくこちらへと投げかけられていた。
美少女三人から視線を、それも全て訝しげなものを向けられ、ストレスが溜まりそうだ。
この監視任務、辞退できないかなあ。
早速憂鬱になった。
次回召喚直後の話です。
勇者達視点からの話になります。
ややこしくてすみません。




