秘密兵器
「おいおい、又、隊列の整備で一日終わらせるつもりか?」
俺はいらいらしていた。
「どうも、秘密兵器があるみたいだ。それを待っているらしい」
カインが答えた。
「秘密兵器ってなんだ?」
「珍しくあいつらの口が硬いらしい。いや、当主と数人しか知らないみたいだ」
「まあ、楽しみにしていよう!」
敵は、夜襲の体制も組んでいるようだ。こちらの戦略は、出来るだけ被害を出さないことだ。
「今夜の夜襲は、中止だとよ」
フウマが、俺に愚痴を言いにきた。
「仕方ないさ、奴ら、堀を作ったり、灯火台を増やしたりしてるしな。それに……」
「ああ、奴ら、獣人族の一般民を警備に駆り出したと聞いている。こんなやり方をする古井戸家は、許さん」
ウルフは、怒りでガシガシと歯を合わせた。
「ああ、決戦は近い。その時までの我慢だ」
※
どしゃ、どしゃ、どしゃ。
砂を掻き分け、何かが這い寄ってくる。
現れたのは――砂漠蛇。アジ=サハラ。それも、一匹ではない。三匹だ。
金色の光を帯びた波のような体が、砂漠に螺旋の軌跡を刻む。
複眼が鋭く光り、長い舌がしゅる、しゅると音を立てる。
大きく開いた口の奥、濡れた牙がぎらりと覗いた。
「ほお、魔物使いか?」
「知ってるのか?」
「ああ、魔物の額に、従魔紋があろう。しかし、悪趣味だな。可愛げがない」
確かにだ。何を好き好んで、蛇を飼うのか。秘密兵器とはこれのことか。
「さて、迎え撃つか!」
あっという間に、防御壁の前にまでやってきそうな勢いだ。
「駄目だ! 効かない」
「消されるだけだ。攻撃は無駄だ。弱点を探せ」
迎撃に出た魔法剣士軍の、魔法の矢は悉く跳ね返り消える。
「シフリー、後退しろ!」
俺は大声で叫ぶ。飛び道具を持つ部隊は、大切な戦力だ。砂漠蜥蜴のそりに乗った
砂漠蛇の全長の長さは、荷車を十台くらい並べた長さにもなるだろう。
首を高くもたげており、その高さは、俺の数倍はある。
アジ=サハラと呼ばれる砂漠蛇が、獲物を捕らえに、首を下げた瞬間に、狙うしかなさそうだが。
「どんな蛇だ? カイン、知ってるか?」
「あくまで、魔物図鑑の知識だが、金色の胴体は、魔法耐性があり、刃の届かぬ鎧皮と言われている」
「あの針山みたいな尻尾も曲者だな。鞭みたいに、ふられたらまずそうだな」
まだ遠い。俺のように、目が良く無ければわからないだろう。
「それと、針が広がる尖った尻尾と牙には猛毒がある。普通の人間ならば、即死だ。気をつけて」
「ありがとう。カイン、だいたいわかった。丁度、三匹だ。一軍で、一匹倒すだけだ!」
その前に、このままだと魔法剣士達の部隊を載せたそりが捕まってしまう。
俺は、素知らぬ顔で砂漠蛇に地面から硬い土槍を魔法で撃ち込んだ。だが、硬さが足りなかったようだ。無傷のようだ。
俺は、サーミヤだけに聞こえる声で話す。
「まだ、俺の魔法は力が弱いな!」
「ほっほっほ、そうじゃな、子供の魔法じゃな」
サーミヤに笑われてしまった。
それではと、土魔法で、穴を開けて砂の中に引き摺り込んだ。
蛇達は視界から地下に消える。
「トルサン、そんなくらいじゃ奴らは死なんよ。奴らが行方不明になるぞ」
逆に姿を消されて地中を進まれる方が面倒だと、サーミヤに言われて仕方なく、地上に押し出した。彼女の言った通り、蛇達は平然と変わらず、余裕が見てとれた。
だが、魔法剣士達の逃亡の手助けはできたようで、慌てて、壁の隙間に、逃げて走り込んできた。
「助かった」
彼らの声が聞こえてきた。
今回の魔法は、ばれていない筈だが、シフリーの目は、俺とサーミヤを睨んでいた。
※
「じゃあ、わしが吹き飛ばすか?」
「かなり重いと思うが、いけるのか?」
「当たり前じゃ、と言いたいが、自信は……」
どっちなんだ?
俺が小馬鹿にした仕草をしたのに気づいたらしく、サーミヤが俺の頭を軽く叩いた。
「非効率なだけじゃ。あいつらは高いところから落としても傷ひとつつかんし、遠くに飛ばしても、すぐに戻ってくる」
「そうだな」
「他にもではあるが、その時ではないしな。……まあ、お主も、隠しておるだろうし」
そんな会話をしていたところで、蛇たちが壁の前に到達していた。予想を超える到達時間の早さだ。
大蛇退治の開始だ。
三匹の蛇の正面の壁には、それぞれファーリスとチェン、そして俺が立つ。
壁の隙間を、大楯を構えた看守の防衛部隊が最終ラインとして固める。
各兵団の兵士たちが、次々に戦場へと姿を現す。
「まるで、闘技場への入場みたいだな」
「健闘を祈る!」
敵兵の主力部隊は、砂漠蛇との戦いに巻き込まれまいと、距離を取った場所に布陣したまま、動かない。
「さて行くぞ! サーミヤ達は下がっていろ!」
俺は岩壁の縁に立ち、全身の筋肉を爆発させるように跳躍した。
両手で構えた、巨人族の古き剣を振りかぶる。
アジ=サハラの頭部が、目前に迫る。
「――はああッ!」
ドン――ッ!
風が唸り、剣が閃いた。
ズガァァンッ!
鋼のような鱗を裂き、剣は蛇の頭蓋にめり込んだ。
ゴギャリッ……!
砕けた骨の音が、腹に響いた。
砂漠蛇の巨体が、ドシャアッ!と崩れ落ちる。
地に重たい衝撃が走り、砂が舞い上がる。
「やったか?」
――一瞬の静寂。
「……動かない」
「仕留めたのか?」
誰かが呟いた。
そのときだった。
縦に三つ、二列に並んだ閉じられた小さな目が、パチリと音を立てて見開かれた。
その瞳は、憎悪と怒りに染まっていた。
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