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竜契の巨人 血を啜れ約束を果たせ 闘技場の王  作者: 織部


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最後の日

カインの説明によると、古井戸と子狐の連合軍が攻めてくるのは、明後日以降だろうということだ。


「ちょうど今頃、古井戸家と子狐家の両家で会議をしている。明日夜、その両家で最終の話し合いが行われる。だから、早くて明後日の朝だ」


「……正面から来るなら、な」

 俺は小さく付け足した。

「悠長だな」俺の感想だ。だが、他のみんなも同意していた。


「まあ、今日の会議の結果は、こちらに聞こえてくるよ。そうしたら、又、報告する」

「ところで、隼家の人間は大丈夫なのか? まだ、何人か残っていただろう?」


「脱出して来た者と、知人を頼って隠れた者達に別れています。知人というのは、元闘技場奴隷の者達です。兵士だったり、重要な町の仕事をしているものですから、大丈夫だよ。町を壊してまで得るものはないと、子狐家の中にもそう考える者は多い」


「そうか、それならいい」


 今日は、頭を使い過ぎた。夕食後の一杯だけで眠くなってきた。

「考えるのは明日だ。もう寝る」

「じゃあ、また明日」

 アミンとワッドがテントを出て行った。


 闘技場周りの警備もいるらしいので、俺は安心して寝床に横になろうとして、寝る場所がないことに気がついた。


 いつも俺とライラが寝ている寝床に、サーミヤがすでに横になっていた。

 いや、本当は俺の寝床なのだが、朝起きるとライラが隣で寝ている。


 ひとりで寝るのが怖いらしいので、好きにさせている。

 だから、このテントにはもうひとつ、ライラの寝床がある。


「トルサン、早く横に来い! 一緒に寝よう!」

「サーミヤ様、塔に戻らないと皆様が心配されますよ」カインが言う。


「それなら、さっきワッドにしばらくここにいると言っておいた。それより、御主こそシャーヒナのところに行かんか!」


「シャーヒナ様には、副団長としてトルサンと共にいろと命じられましたから」


 珍しく鼻息荒く、声が上ずっている。カインの嘘が珍しく俺にも見ぬけたが、俺は何も言わなかった。今は、それぞれが落ち着く場所にいればいい。


「じゃあ、サーミヤとライラはこの寝床で寝ろ! 俺はライラの寝床でカインと寝る」

 ライラの寝床は俺の寝床の半分くらいの小さな寝床だが、しかたがない。何せ相手は、大呪術師様だ。


「え?」ライラは不満げだ。

「今日はサーミヤ様がいてくれる、安心して寝れるぞ!」

「えー」

「ライラ、策はある」


 サーミヤは、ライラに小声で伝えていたようだが、俺にも聞き取れている。

 俺が朝起きると、その小さな寝床に全員で寝ていた。


 やけに重い。暑い。

 サーミヤは俺の腕にしがみつき、カインは胸に顔を埋め、ライラは脚を抱えていた。


 俺の寝床がなくなったどころか、俺自身が寝床になったらしい。

 ……だが、振り払う気にはなれなかった。

 守るべきものは、もう俺の上にある。


 前日に続き、皆で朝食を食べていると、カインがシャーヒナの使いに呼ばれて出て行った。


 食料制限がある中、このテントだけは特別だと、アミンが食事を持ってきてくれたおかげで、俺は腹いっぱい食べることができた。

 戻ってきたカインに、前日の古井戸家と子狐家の会議の様子を聞いた。


「まず、子狐家ですが、戦争なんてしたくないというのが本音のようです。町を壊してまで得るものはない、と」


「現状維持が望ましいんだろうな」

「問題は、古井戸家です。新しい当主が功績を残そうと、無理にでも戦争を仕掛けようとしているようです。父を超えるためなら、町一つ焼くことも厭わぬ男だと噂されています」


 俺は黙って頷いた。争いを避けたい子狐家の意向を汲んでも、結局、古井戸家の力が全てを決める。


 戦争を回避する方法は、シャーヒナの死と闘技場の運営権を握ることだろう。

 だが、それは無理だ。そんな方法で守れる理想郷なら、最初から価値などない。


 理想郷は、守るためにあるのではない。ここにいる連中が笑うためにある。

 あいつらには、この理想郷を維持するつもりはない。


 ただの自己利益を求めるための私闘が渦巻いている。

 その感情を押しこめ、俺は軍団の練習に向かうことにした。


 カインと合流して到着すると、四つの部隊に分かれて、ワッドの指導の下で訓練が始まっていた。


「この部隊は、はぐれ者、残り者。個性が揃っていると言えば、そうかもしれませんね」

「ああ、目指すのは、冒険者ってことだな」

「その通り。その方がトルサン、あなたの力も活かせるでしょう」


 俺は指導していたワッドと簡単に打ち合った。さすが元上級冒険者、彼にも一癖がある。

 その癖は、速さだ。


 無駄な力が抜け、重い一撃が正確に届く。まるで、速さそのものを操っているかのような動きだ。

「闘技場なら、負けるかもしれんな」

 戦いは見世物ではない。次に来るのは、本物だ。


 ワッドの一撃を避けるために、集中力がいつも以上に試されているのを感じた。

「カインをしっかり守れ!」

「もちろん!」

 ワッドは笑みを浮かべて頷いた。


「じゃあ、全員、練習はおしまいだ」

 俺は声をかけた。これから起こるのは試合ではない。殺し合いだ。


「ワッド、ヒールポーションを配ってやれ!」

 みんなが少しでも疲れを取ろうとする中、俺は心の中で思った。


 これが、最後の一日かもしれない。

 それでも、明日が来るなら、俺が迎え撃つ。俺がいる限り、この場所は奪わせない。

お読み頂きありがとうございます。


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