歪な軍団
各軍団の副団長が決まると、一旦休憩となった。
次は、副団長も交えて小隊長の選抜に移るからだ。
「じゃあ、ワッド委員――いや、副団長を探しに行こう!」
「ごめん、トルサン。勝手に決めてしまって」
カインはそう言って、素直に頭を下げた。
「いいよ。カインが俺のために、いろいろ考えてくれたんだろ?」
「まあな……」
罰が悪そうに視線を逸らすカインを見て、俺は小さく息を吐いた。
気を遣われるのは嫌いじゃない。だが、期待されるのは面倒だ。
※
「ああ、シャーヒナ様からは聞いている。構わんよ。サーミヤ様も一緒だそうだな。お前のことを、ことさら気にかけておられる」
ワッドは答えた。
「……何ですって? どういうこと、トルサン?」
カインが驚いたように振り返る。
「さあな」
俺は視線を逸らして誤魔化した。
説明するのは、後でいい。その後、俺のテントで遅い昼食をとった。
※
食事を終えると、会議室に向かい円卓についた。
八人の上級剣闘士。その後ろに中級剣闘士が二人ずつ並ぶ。
戦闘スタイル、種族、性別――似た者同士を揃えているせいか、各軍ごとに雰囲気がはっきり分かれていた。
「式典の時くらいしか、こうして揃わんからな。壮観だ」
斧剣士のガサムが、豪快に笑う。
「カイン、シャーヒナ様から何かご指示は?」
ファーリスの問いに、カインが立ち上がった。
「はい。この会議の後、各隊で顔合わせを行うようにとのことです。それと夕刻には、軍団長全員参加の御前会議が開かれます」
「武器については、副団長が代表で武器庫へ行こう。分配で揉めるし、大人数で行っても管理ができん」
ワッドの提案に、全員が頷いた。
「それなら、小隊長も選択指名でいいな?」
「ああ」
異論は出なかった。
「俺は、残りものでいい」
そう言った瞬間、円卓の空気がわずかに沈んだ。
本音を言えば、期待されるのが一番厄介なのだ。
カインやワッドが反対するかと思ったが、何も言わない。
それが逆に、少しだけ胸に引っかかった。
カインが黒板に名前を書き、ワッドが書類をまとめていく。
他の軍団は、軍団長と副団長が熱心に話し合っている。
それに比べて、俺の軍団は――どこか歪だ。
「次は剣闘士見習いです。各軍八名。本日中に配属を決めてください」
結局、見習いも新人兵も、すべて選択指名となった。
「あいつは、うちには合わない」
「性格に難がある。いらん」
「あの男は是非とも欲しい」
熱のこもった議論が続く。
だが、俺には見習いの顔と名前など、ほとんど分からない。
副団長二人は雑用で手一杯だ。
「俺の軍は、残り者でいい」
それだけ言い残し、席を立った。
「トルサン?」
心配そうにカインが追ってくる。
「問題ない。用事を思い出しただけだ。会議は続けろ。後でな」
本当に用事がある。
連日だが、サーミヤに話を聞きに行かなければならない。
ライラに菓子を用意させた。
「こんな時に何を悠長な」と、嫌味を言われたらしい。
まずアミンを連れて武器庫へ向かう。
入口には看守が立っていた。
「管理人はいるか?」
「ああ……」
疲れ切った様子で現れる。武器の準備で手一杯らしい。
「カビース戦で使った武器と防具を。買い取る」
「何だと? いくらすると思ってる。貸し出しにしろ!」
だが管理人は記録も見ずに、俺の武器を出してきた。
久しぶりに触れる巨人族の剣。
やはり、真剣勝負にはこれだ。
「俺名義でつけてくれ。足りなきゃ、ワッドの保証もつける」
「相手は委員だぞ……」
「俺の副団長だ。問題ない」
渋々ながら、武器は渡された。
今まで使っていた装備は予備として持ち帰る。
ギガンドブレードを手にし、自然と口元が緩む。
※
昨日に続き、塔を登る。
「今日もか……」
看守は呆れた顔で扉を指差した。
「トルサンなら構わん。さっさと行け」
武器を預け、菓子袋を見せると扉が開く。
「話は聞いたか?」
「ああ。本気なのか?」
菓子を渡すと、サーミヤは嬉しそうに中身を確認した。
「当然だ。わしの力を見たいのだろう?」
「その時に教えてくれ。部隊もそろそろ決まる。顔合わせに来ないか?」
サーミヤは菓子に伸ばした手を止め、頷いた。
「面白そうだ。おんぶしていけ」
「その姿でか?」
「迷彩しておる。見える者は限られておる」
見える者からすれば驚くだろう。
だが、これほどの存在なら――心強い味方か、最悪の敵だ。
塔を降りると、ライラが待っていた。
「ワッド様がお探しです。それと……トルサン様、変な匂いがします!」
「菓子の匂いじゃないか?」
「いえ、もっと妖しい匂いです!」
首を捻りながら一周見回し、諦めたように前を歩き出す。
河原では、いくつもの部隊が集会を開いていた。それぞれに個性があり、見ていて飽きない。
――だが。
一角に、明らかに浮いている集団がいた。
笑っているのに、目が笑っていない。
(……面倒だな)
「やっぱ、俺一人で戦おう」
踵を返した瞬間、腕を掴まれた。
「どこへ行く。こっちだ」
ワッドだ。
「用か?」
「顔合わせだ」
カインが睨んでいる。逃げ場はない。
「トルサン、挨拶を!」
仕方なく、俺は部下に向き直った。
――その瞬間。
「……こいつが軍団長かよ」
どこかで、確かにそんな呟きが聞こえた。
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