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竜契の巨人 血を啜れ約束を果たせ 闘技場の王  作者: 織部


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軍団長

「カイン、そのうち実際に剣を振ったことのあるやつは何人だ? 闘技場出身者は数えなくていいぞ。先輩方は、俺たちには戦うふりしかしないよ。みんなが考えているのは、そういう事だ」


「ああ。そうだった。ごめん、トルサン」

カインは一瞬だけ視線を伏せ、すぐに言葉を続けた。


「古井戸家の兵隊の多くは、炭鉱労働者です。一方、子狐家は商人ですが、闘い慣れています」


古井戸家 五百

子狐家  一千

隼家   四百


そこにいる上級剣闘士は、全員がにやにやしだした。

だが、カインだけは違う。彼は訝しげに、その様子を見つめていた。


「それなら勝てるな」

カインの言葉を無視するように、皆が好き勝手に話し出す。


「一人が四人倒せばいいんだろう!」

「そんな簡単な話ではありません」

静かだが、よく通る声だった。


「確かに一人一人は弱いでしょう。ですが、古井戸家では、軍隊の形での軍事練習を定期的にやっています」


その言葉に、笑っていた剣闘士の何人かが口を閉じた。

「例えば、十人に囲まれて一斉に槍を突かれたら。空から、矢の嵐が降ってきたら。皆さんが局地的に勝っても、全体では負けるかもしれません」


「奴らは……古井戸家は、こうなることをあらかじめ考えていたのか?」

「また、子狐家はキャラバン護衛で盗賊と戦っています。ある程度の集団戦と、実戦経験があります」


上級剣闘士たちが、黙り込んだ。

彼らが他の剣闘士と決定的に違う点。

それは、戦うという行為を、常に最悪の形で想像できることだ。


「うむ……」

各々が戦場の光景を思い浮かべているのだろう。

誰もが口を閉ざしている。

残念ながら、その想像力に一番欠けるのが俺だ。


だからこそ、指揮官という役目がどれほど危ういかは分かっている。

「もう一つ。面倒な話があります」

カインの声が、わずかに低くなった。


「魔術師を招聘しているとの話が出ています」

その瞬間、誰も声を出さなかった。

誰かが無意識に杯を置く音だけが、やけに大きく響いた。剣闘士たちは、剣で死ぬ覚悟はできている。


だが、理屈の外から命を奪う存在に対しては別だ。

「……そうか」

さっきまでの浮かれた雰囲気は一変し、全員が今までにない真剣な顔になった。


剣闘士の枠は、上級八人、中級十六人、下級三十二人と決まっている。

引退や移籍などで欠員が出ると昇格があり、成績が悪ければ降格もある。


剣闘士見習い 六十四

新人     百二十八

奴隷     約六百

看守以上   約二百


盛りを過ぎるまでに、ある程度稼ぎ終えて引退する者もいれば、冒険者になったり、各地の有力者や商人に仕官する者もいる。進む道は様々だ。


カインが静かに宣言する。

「そこで、シャーヒナ様からの希望をお伝えします。ここにお集まりの八人の上級剣闘士の方々に、軍団長として部隊を率いていただきたいとのことです」


上級剣闘士は、どいつも曲者ぞろいだ。

八人の中で最年長なのが、老師チェン。


いつも酒を飲んで酔っている老人で、「酔剣闘士」との異名を持つ。剣筋や動きは曲芸のようで、とても年寄りのものとは思えない。


だが実際には、人が起きない早朝から密かに鍛錬を積んでいる男だ。

彼が口火を切る。


「ふむ……シャーヒナが本気になったか。面白いな」

チェンは盃を傾けながら、愉快そうに笑った。


一門と呼ばれる弟子も多く、部下を率いることにも慣れている。軍を指揮することにも自信があるのだろう。


「その方が良さそうね」

今度は、唯一の女性剣闘士、アマゾネスのウフートが口を開いた。

低く響く声には、苛立ちが滲んでいる。


「無駄死にさせたくないし、何より女奴隷に手を出させたくない。できれば、防衛部隊を任せてもらいたいわ」


彼女の妹も中級剣闘士であり、数少ない女性剣闘士たちは姉妹の指揮のもとでまとまっている。


かつて、強姦や女奴隷いじめを働いた剣闘士が、彼女たちの手で吊るされているのを何度も見た。

戦いの中で、ウフートが躊躇することは決してない。


彼女は、隣にいるカインの顔を軽く撫でた。

「もちろん、カインも守ってあげるからね……死なせない」

カインはあからさまに嫌そうな顔をしたが、ウフートは意に介さない。


「他の奴はどうだ?」

会話を回したのはファーリスだった。

この中では年齢が中間に位置し、全員と適度な距離を保つ珍しい男だ。元貴族で、奴隷に落とされたという噂もある。彼の剣は正確無比で、理詰めだ。


「もちろん、俺も賛成だ」

他の四人も、不満はないようだった。

だが、俺は思わず口にしてしまう。


「いやぁ……ちょっと待ってくれ。俺はそういうのは苦手だから、外してくれないか?」

一瞬、頭の中に浮かんだのは、

命令一つで倒れていく、顔も名前も知らない連中の影だった。


俺は、あれを背負う覚悟ができていない。

「駄目だ!」

珍しく、カインが激昂した。

感情ではない。切迫した判断の色をしている。


「それでは、軍団の構成について、シャーヒナ様の考えをお伝えします」

俺は黙り込んだ。


カインに嫌われるのは、正直、嫌だった。

「皆さんがすべて面倒を見る必要はありません。まず、中級剣闘士を二人ずつ、副団長としてつけます」


「じゃあ、任せていいんだな?」

「違います。三人で話し合って、軍を運営してください!」

……ああ、そういうことなら。


俺の無知も、何とかなるかもしれない。

「そして、各々四小隊ずつ配下に置きます。下級剣闘士……失礼。一流の剣騎士の方々に小隊長を務めてもらい、部下に剣闘士見習いを二人、新人を四人つけます」


「どうやって選ぶんだ?」

今まで静かにしていた、牙狼剣士のウルフが口を開いた。


狼の獣人族で、しなやかで速い動きと鋭敏な体感覚を活かす、圧倒的な戦闘力の持ち主だ。獣族のボス的存在でもある。


「どうしましょう? 選抜指名にするか? くじ引きか?」

全員一致で、選抜指名となった。

「中級は二人欠員しているぞ」

「それなんですが……私、カインがトルサンの副団長となります」


「そんな危険なこと、させられない!」

俺は、唯一、反対の声を上げた。

「トルサンの副団長のもう一人は、闘技場の委員、ワッド様をお借りしました。これなら良いでしょう、トルサン?」


ワッドは上級剣闘士並みの実力を持つ男だ。

正直、あいつは死んでも構わない。いや……簡単には死なないだろうが。

「トルサンが嫌なら、私の副団長にしても良いぞ!」


横から口を挟んできたのは、エルフの魔術剣士シフリー。

魔術具でもある剣を器用に回しながら、カインを指さす。

「いや、譲らん」

どうせ、魔剣士軍団を作るつもりだろうに。

「最初から、そう言えよ!」


暗殺剣のフウマが笑った。

軽やかに身を翻しながら、口の端を上げる。

「それじゃ、トルサン以外の俺たちの副団長のドラフト会議を始めようか!」


斧剣士のカザムが、カインに進行を促した。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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