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彼女は俺と




そうだ。

葉月はどんな作品でも否定をしない。

まさに真のヲタクと言える。


「相手が何が好きなのか嫌いなのか分からないのに、自分の価値観だけで発言をしない。それは、絶対にダメだと思う。それは、漫画以外もそう」

葉月は告げる。


「野球をしてる中田はカッコいいし、勉強と両立してる中田は凄いと思う。でも、私には私の譲れないラインがあるの。だから、ごめん」

葉月はハッキリと述べた。


「でも、中田が嫌いなわけじゃない。友達でいてくれると嬉しいんだけど」

「………うん」

中田は泣きそうな顔を堪えながら、頷く。


「ごめん、一度でいいから、ぎゅってしていいか」

中田は言う。

「一回だけね」

葉月がそう答えると、中田はすぐさま葉月を抱き締めた。


10秒ほど抱き締めると、中田はゆっくりと体を離した。


「ありがとう、井上」

「ううん。これくらいなら」

葉月は微笑んで答える。


「じゃあ、先戻るわ」

中田が葉月に背を向けたので、俺も慌てて席へと戻るのだった。





打ち上げの食事会が終わり、俺は葉月を家まで送り届ける。

自転車を押しながら、歩いて帰路につく。

その道中、俺達は会話という会話をしなかった。


「……何か、怒ってる?」

あまりにも無言だったので、葉月は俺に聞いてきた。

「悪い」

俺は謝る。


「何?何かあった?言ってくれないと分かんない」

「……ちょっと自分が嫌になっただけだ」

俺は答える。


「……どしたの?」

葉月は立ち止まり、自転車を停める。

「いや。別に葉月は悪くない」

俺も止まり、自転車のスタンドを立てる。


「……隆臣?」

葉月は俺に恐る恐る近付き、袖を掴む。

「ごめん」

俺はそう言うと、葉月の腕を引っ張り、自分の胸に抱き締めた。


「っ!」

葉月は驚いたものの、身を委ねてくれる。


俺は無言で少し強く抱き締める。

葉月は「どうしたの?」と優しく聞きながら、俺の背中に手を回した。


受け入れてもらえたことに俺は嬉しくて、更に強く抱き締める。


「隆臣、どしたの」

葉月は、抱き締め返したまま優しく聞いてくる。

「……中田が告ってる所、見た」

俺は答える。


「そっか。……くすぐったい」

葉月は身をよじる。

俺の息が耳にかかって、くすぐったいようだった。


「聞いてたの?」

「……悪い」

俺は謝る。


「ん。まあ別に見られても問題ないし」

葉月がからりと笑いながら答える。

「大丈夫。私、今、隆臣の所にいるでしょ?」

葉月は俺を安心させるように、俺の背中を優しく叩く。


「隆臣から言ってくれるんでしょ?」

葉月は俺の耳に向かって話す。

「ああ。待ってて、くれるか」

「いつまで?」

「大学合格したら、言う」

俺は答える。


「うん。受験勉強に専念したいんでしょ?」

「ああ。今告って、OKもらえたら、俺は恋愛に現を抜かすと思う」

「真面目だねー」

葉月はからからと笑う。


俺は少し体を離し、葉月を見る。


「だってさ」

「うん」

「もっと葉月に触れたくなるし、離れたくなくなる」

「う、ん」

葉月は照れた顔で相槌を打つ。


「俺の理性がもたない」

「…うん」

「だから、まだまだ先なんだが、待っててくれるか?」

俺は尋ねる。

「うん。大丈夫」

葉月は微笑んで答える。

上目遣いで俺を見てくる顔が、たまらなく可愛い。


「何でそんな可愛いんだよ」

俺はそう呟き、また抱き締める。

「えー。そう?でも、嬉しい」

葉月はまた俺に身を委ねてくれる。


「中田に告られてるの見て、ちょっと焦った?」

葉月は尋ねる。

「当たり前だ。葉月を取られたくないと思ってるし、葉月がどんな答えを出すのかも緊張した」

俺は正直に答える。


「まあでも、ほんとに、作品を貶すのは無理だからね」

葉月は言う。

「それだけは私の中で許せない」

「だろうな」

俺は葉月の頭を撫でる。


俺だって、知っている作品を貶されてイラっとしたのだ。

振りかぶってはヘタレな主人公だが、決して悪い作品ではない。俺はむしろ面白いと思う。

略してあお高と呼ばれる野球漫画だって、俺は好きだ。絵も綺麗だし、面白い。


バトンタッチだって名作だ。

あの場で葉月がきちんと言ってくれなかったら、俺が口を出していたかもしれない。


だから、俺は葉月の頭をよしよしと撫でる。


「好きだ、葉月。待っててくれ」

「うん。待ってる。でも、もう好きだって言ってるけどね」

葉月はくすりと笑う。


「言っとかないと誰かに取られそうで怖い」

「取られないよー。別に皆、私のこと狙ってないし」

「狙ってる。今日ぐっちも言ってたし、中田も告ってた。葉月は可愛いんだよ」

「……ありがと。隆臣も普通にカッコいいと思う」


「……目悪いのか?」

俺は体を離し、葉月の顔を見る。

「そんなことないし。隆臣はカッコいいよ。私の癒しでもある」

「癒しって何だ」

俺は思わず笑う。


「だって、隆臣がいると落ち着くもん。一緒にいて落ち着くって、めっちゃ大事だと思うの」

「……俺も、葉月といて楽しい。落ち着く。好き。すっげぇ、好き」

「私も好き。隆臣と一緒にいたい」


「何で俺なわけ?」

俺は疑問に思っていたことを聞いてみた。

「話が合う人って凄い大事だと思うの。あと、ヲタクっていうのも結構大事」

からっと笑う葉月。


「私結構、隆臣とヲタクな話をしてると思うんだけど、隆臣は変な顔をしないし、否定もしないでしょ?それって凄く嬉しくて」

葉月は微笑む。

「外でここまでヲタクな話、出来たことないもん。だから、楽しくて」

その嬉しそうな顔が本当に可愛い。


「俺も楽しい。色々一緒に出来たらいいなと思ってる」

「うん。私も」

葉月は微笑むと、ぎゅっと俺に抱きついた。


そして、体を離す。


「今日一日色々と付き合ってくれてありがとね」

「これくらいは何とも。葉月の方が疲れてるだろう?」

野球をして体を動かしたのだから。


「そうなんだよねー」

葉月は笑いながら答える。

「実はもう眠い」

「じゃあ、今日は早めに寝るんだぞ。明日も学校なんだから」

「はーい」


そして、葉月を家まで送り届けてから、俺は帰宅した。


ベッドにダイブして、俺は息を吐く。


「緊張した…」

動悸が止まらない。

ずっとドキドキしている。


好きだと伝えてしまった。

うつ伏せから仰向けに変えて、天井を見る。


「……扉開けっぱで何してんの」

俺の部屋の扉の外から姉が話しかけてきた。

「あー、姉貴」

俺はゆっくりと体を起こす。


「どしたの。彼女と何かあった?」

「……なぁ、一応姉貴って賢いよな?」

「まあ、一応ね。小学校教師なんで」

姉は何言ってんの?というような顔で俺を見る。


「ちょっと受験頑張りたいんだけど」

「何。どうしたの。まあいいけど。何処狙ってるの?」

「栄養学部」

「へぇ。また珍しい。何、栄養士?あ、大学だから管理栄養か」

「そう。美味しい栄養のある飯をつくれるようになりたい」

「彼女に?」

「そう」

俺は即答する。


「あら、彼女なんだ?」

姉貴はにやりとする。

「まだだけどな」

「動機は不純かもだけど、まあいいんじゃない?管理栄養取ってたら、病院や学校、保育園とかでも働けるしね」

姉貴は賛成する。


「それで?」

「理系教えてくれ。文系は葉月に教えてもらう」

「へぇ。葉月ちゃんっていうのね」

姉貴はニヤニヤとする。


「いいわよ。その代わり、私がいる時にその葉月ちゃんとやらを連れて来なさいね」

「……今度連れて来る」

俺は嫌そうな顔で答えた。


「へぇ。まあ、勉強したいと思ったのはいいことね。頑張りな」

「おう」

「まあ、そんな長く続くかは分かんないけどねー。大学に行ったら、可愛い子いっぱいいるわよ〜」

姉は意地悪い顔で告げる。


「うるせ」

俺は睨む。


「とりあえず、教材探しといてあげるわ。間に合うか分かんないけど、まあ、やれるだけやってみたら?」

「おう。そういや、姉貴」

俺は呼びかける。


「なに?」

「結婚いつなんだ?」

俺は尋ねる。


姉には婚約者がいる。結婚の準備もあるはずだ。


「今年じゃないから大丈夫。あんたが大学生の内かなぁ」

「ふぅん。分かった」

「あ、その時にあんたがその彼女と付き合ってたら一緒に招待してあげる」

「言ったぞ?」

「いいわよ、別に。長続きさせなさいよ。ヲタクなあんたと付き合ってくれる人なんて奇特なんだから」

「分かってるよ」


ぶっきらぼうな俺の返事に、姉は「やれやれ」と言いながら、自分の部屋に歩いて行った。





都立あおい坂高校野球部。ご存知ですか⁇

サンデー漫画だったはず。

面白かったですね。

5人の特筆すべき一年生選手達が甲子園を目指す話。

正直ダイヤのAよりは好きかもしれない。

機会があれば是非、読んでみてください(*´-`)

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