彼女は野球漫画も大好きで
井上は服と洋菓子を購入してから、山口の家へと向かった。
「あら、久しぶりねー。隆臣くんだっけ?」
山口の母親が俺に話しかける。
「そうです。ご無沙汰してます」
俺は頭を下げる。
「で、そちらの女の子が?」
「初めまして。同じクラスの井上葉月と言います。急遽、しかもお風呂を貸して欲しいなど無理を言ってしまい、申し訳ありません」
葉月は深く頭を下げる。
「あらあら、そんなかしこまらなくてもいいのよ」
「いえ。もし良ければ、こちら」
葉月は、途中購入したシュークリームのセットを渡す。
「えっ!そんな気を遣わなくていいのよ!」
山口の母親は驚きながらも、それを受け取る。
「それくらいしか出来ず、申し訳ありません」
葉月は再び頭を下げる。
「何て出来た子なの!なに、裕也の彼女?」
裕也とは山口の下の名前である。
母親はとても感激している。
「んなわけないだろ。俺じゃなくて、そっちだ」
山口は俺を親指で差す。
「あらー。若いっていいわねー」
母親は頬に手を当てて言う。
「バカ!何言って…っ!」
俺は山口を止める。
「私は別にいいんだけどね」
葉月はそう言って、俺を見て微笑む。
「まあ、何でもいいじゃないの。ほら、上がって上がって。葉月ちゃん、汗で服ひっついてるわね。ゆっくりお風呂入ってらっしゃい。裕也、きちんと説明してあげてね」
「ほーい」
葉月が風呂に行ってる間、俺は山口の母親からもてなされる。
「裕也と仲良くしてくれてありがとうね。炭酸のジュースでいいかしら?」
「何でも大丈夫です」
俺は返事をする。
母親はジュースとシュークリームを出してくれた。
「え、このシュークリームは家用に買ったものなので、俺は…」
山口の家用に購入していたはず。
「大丈夫。あの子賢いわね。余分に購入してるわ」
母親は微笑んで答える。
流石である。
20分ほど経つと、葉月が出て来た。
「あのー、すいません。お風呂ありがとうございました」
扉から顔を覗かせ、葉月はリビングに声をかける。
「いえいえ。サッパリ出来た?あ、あとはドライヤーね。ドライヤーはね…」
母親が説明しに葉月の元へと向かう。
そして、10分ほどのドライヤーが終わると、葉月もリビングへとやって来た。
途中の服屋で購入したのは、黒のタンクワンピース。
ワンピースというだけで、先程までのボーイッシュとは正反対で、がらりと印象が変わる。
「ほんと、可愛いわねー」
山口の母親があらあらと呟く。
「ありがとうございます」
はにかみながら、葉月は礼を言う。
「ゴムはある?」
「はい」
葉月は後ろ手に編み込みをしていく。
ポニーテールと同じで、ゴム1つで出来る髪型だ。
「シュークリーム食べて行く?」
「いえいえ。ご家族で食べて下さい」
葉月はそう答え、用意してくれたジュースに口を付ける。
「俺、食べたぞ」
俺は口を挟む。
「美味しかった?」
葉月は尋ねる。
「ああ。美味かった。葉月も食べて行けば?」
「んー。晩御飯が入らなくなるからなー」
葉月は唸る。
「……今、下の名前で呼ばなかったか?」
恐る恐る山口が口を挟む。
「!?」
俺は目を見開き、そして葉月を見た。
「言ってない言ってない」
葉月は微笑みながら、首を振る。
「あらあらあらあら」
山口の母親が微笑ましく俺と葉月を見る。
「まあ、何でもいいけどさ」
山口は笑って俺達を見る。
「いいわねぇ。青春ねぇ。で、晩御飯は何処で食べるって?」
母親が尋ねる。
「あー、ここここ」
山口がスマホで店を調べて見せる。
「ここね。じゃあ、そろそろ行かないといけないわね」
母親が時計を見る。
「そうですね。ですので、シュークリームはご家族でどうぞ。シャワーありがとうございました」
葉月は立ち上がり、頭を下げて荷物を持つ。
「ご馳走様でした」
俺も頭を下げる。
「私もご馳走様でした。ありがとうございました」
葉月は再び頭を下げる。
そうして、俺達3人は夕食のお好み焼き屋へと向かった。
♢
「おー!井上ー!ワンピースじゃん!」
「えー!めっちゃ可愛いじゃん」
「俺はあのボーイッシュ系の方が好きだったなぁ」
「ワンピースも可愛いじゃんか」
「何だその髪型。それも可愛いな!」
野球部員達が次々と葉月を見て感想を述べる。
「ありがと、ありがと」
葉月は軽く流す。
「やっぱり、井上は可愛いな」
中田が少し恥ずかしそうに述べた。
「ありがと」
葉月はそう言うと、皆と一緒に店に入る。
俺と山口はその後をついて行く。
俺は、葉月が男達に囲まれているのを見て、なにかもやもやしたものが込み上げていた。
「何食べる?」
葉月は俺の隣に座り、一緒にメニューを覗く。
4人掛けの座敷席。
葉月の向かいには中田。俺の向かいには山口が着席する。
「普通のやつ1つと焼きそば、あともんじゃ頼んで、皆で食べようぜ」
中田が提案する。
「私はそれでOK」
「ああ、俺もそれでいい」
「俺もー」
皆が同意したので、それで注文する。
焼いた物が運ばれてきて、それを席の鉄板で温めながら頂く。
「ほら、井上」
中田が切り分けて皆の皿に乗せていく。
特に、井上に気を遣いながら過ごしているのが分かる。
「もう充分だ」
俺はシュークリームを食べたこともあって、すぐにお腹いっぱいになった。
右手を下ろすと、葉月の左手に触れた。
すると、俺の指を握ってくる。
俺はビックリして一瞬葉月を見たが、葉月は何事もない様に俺の指を握ったまま。こちらを見もしない。
それならと、俺は葉月の手に指を絡ませ、恋人繋ぎをする。
「!」
葉月は驚いて体をビク、としたものの、無言で受け入れ、俺と指を絡めた。
「井上はどうする?まだ食べれるか?」
中田が尋ねる。
「んー。デザート食べたい」
すると、中田が先生にデザートを注文していいか尋ねる。
「いいってさ。何食べる?」
「さっぱりしたやつがいい」
「アイスとシャーベットならどっちがいい?」
中田はメニューを見ながら尋ねる。
「シャーベット!」
「ゆず味しかないけどいいか?」
「いいよー。ちょっとトイレ行ってくるね。ごめん、荷物よろしく」
葉月はリュックの中からハンカチと携帯だけ手に取って、立ち上がった。
荷物は勿論、俺に任せて。
手が離れたのが少し寂しかった。
「ごめん、俺も行ってくる」
葉月の後を追い、中田も立ち上がった。
俺は嫌な予感がして、少ししてからトイレに向かった。
そして、案の定、嫌な予感は当たってしまった。
トイレから出て来た葉月を、中田は呼び止める。俺は慌てて隠れて、2人の様子を窺う。
「なぁ、井上」
「何?」
葉月は中田を見上げて問う。
「俺、井上が好きなんだけど」
中田はストレートに述べる。
いつもの葉月なら赤面する所なのに、全然表情が変わらない。
「ありがとう。それで?」
葉月の対応はとても素っ気ない。
「付き合って欲しい」
その言葉を聞いて、俺の鼓動が強く脈を打つ。
「……私ね、ヲタクなの」
葉月は徐に口を開いた。
「あ、え、うん」
脈絡の無い答えに中田は怪訝な顔をする。
「野球も好きだから、野球してる中田はカッコいいと思う」
その言葉に、隠れて聞いている俺の心がモヤっとする。
反対に、中田はその言葉を聞いて、嬉しそうな顔をしていた。
「野球の漫画も大好きでよく見るし、高校野球も好きだから中田と見に行けるだろうし、キャッチボールも出来る。けど、その中で優先されるのは二次元なの」
葉月は言う。そして、続ける。
「振りかぶって、っていう漫画、どう思う?」
「あのヘタレな主人公だろ?見ててイラってする」
「バトンタッチは?」
「前も言ったけど、あれは野球漫画じゃなくて恋愛要素の方が強い」
「うん。それは分かる。じゃあ、県立あお高は?バトンタッチと同じ作者のO2は?プロ野球が舞台のONE OUTは?」
「O2はちょっと見たことあるけど、安達先生って野球っていうより、人間模様を描いてるのが多いだろ」
中田は答える。
「ん。まあね」
「あお高はあんなの有り得ないだろ?サブマリンピッチャー、スラッガー、んで俊足とかの5人の一年が入った所であんなに勝てねぇよ」
「そうかもしれないね。うん」
葉月は相槌を打ちながら続きを促す。
「んで、最後のやつは知らねぇ」
「うん。じゃあ、マウンドのAとMAJORへは?」
葉月は尋ねる。
「野球漫画と言えば、その2つだ。バトンタッチも名作かもしれないが、あれは違う。野球漫画はその2つだけだ」
中田は断定するように答えた。
「そっか。うん。私は他人の考えは否定しない。考えは人それぞれだからね。でも、作品を貶すのはダメ」
葉月は中田の目を見つめて、そう言葉を紡いだ。
おお振り。「おおきく振りかぶって」はご存知ですか⁇
集めています。面白いですよ〜。
成長の仕方がリアルというか、青春しているというか。
リアタイで見ていた勢です。
曲も良かったですよね〜(*´-`)
「ドラマチック」と「青春ライン」是非聴いてみてください♪




