彼女は推し声優を語る
俺は井上のバイト先に着くと、意を決して店の扉を開けた。
「いらっしゃいませー!」
カランコロンと店の扉の鈴が鳴り、それに反応して店員が声を上げる。
その声の中に聞き覚えのある声が、俺に届いた。
「っ!」
井上は驚いて動きが止まっていた。
「い、いらっしゃいませ」
1番近くにいたのが井上だったので、俺に向かって目を瞬きながら近付いてきた。
エプロンをした制服姿が可愛い。
髪は三つ編みのままで、エプロン姿も相まって猛烈に可愛い。
「来てくれたの?1人?」
「そう。コーヒーでも飲んで時間潰しとく。退勤時間には会計しとくから、外で待っとくな」
「分かった。ありがとう。とりあえず、そこの席どうぞ」
井上は驚きつつも、席に案内する。
「コーヒーでいいの?」
井上は尋ねる。
「何でもいいけど、何が美味しい?」
「飲み物で?カフェオレ人気かなー」
井上は答える。
「じゃあ、それにする」
「OK。持ってくるね。待ってて」
井上は笑顔でそう言った。
カフェオレがすぐに運ばれてきて、俺は10分ほどの時間、カフェオレを飲みながら店の中を見渡す。
さくらcafeには初めて来た。
メニューを見たが、たくさんある。客は女性が多いが、男性もちらほらいる。
店の雰囲気が男性だけでも来やすい感じだ。
カフェオレも美味しい。
「あ、お会計はいいからね。私が奢っとく」
井上が、近くを通った時に俺に言った。
「え、いいって」
「大丈夫。来てくれたんだから、これくらいさせて」
井上は笑顔でそう言う。
「分かった。じゃあ、外で」
「うんっ」
井上はいつもの笑顔でそう返事した。
♢
「お待たせ!」
駐車場で待っていると、井上が駆けてきた。
「お疲れ」
俺は声をかける。
「全然疲れてないから大丈夫。今日はごめんね」
井上はまず謝罪する。
「謝ることなんて1つもないだろ?」
俺は言う。
「お腹空いてないか?」
「ちょっと、空いてる」
「じゃあ、ワクドナルドにでも行くか?」
俺は尋ねる。
「行く!隆臣は時間あるの?大丈夫?」
「俺のことは気にしなくていい」
そんなことより、名前呼びがむず痒い。
「じゃあ、行こう!隆臣は食べたの?」
「俺は食べた。だから、アイスでも頼む」
「うん。分かった!自転車取ってくる」
そうして、2人でハンバーガーショップへと向かった。
井上はポテトとチキン、ジュースを頼み、俺は当初の予定通りにカップアイスを頼む。
「ごめんね、わざわざ。ありがとう」
井上は言う。
「いや、別に家から近いしな。それに心配だったし」
「心配だったの?」
「まあな。機嫌悪く帰っただろ?あれくらいしか出来なくて悪かったな」
「何で隆臣が謝るの。悪いのは私じゃん」
井上は目をぱちくりさせながら言う。
「もうちょっと大人な対応出来たらいいんだけどね」
井上は苦笑う。
「十分だろ。別に誰かに八つ当たりする訳でもないんだから」
「ほんと、優しいよね」
井上は微笑む。
「あれから、そっちは大丈夫だった?」
「特に何もない。夕方には帰ったしな」
「そうなんだ。本当、フォローありがとね」
「あんなことしか出来なかったがな」
「隆臣がいてくれて、本当助かった」
井上は礼を言う。
「あ、ポテト食べてね」
井上は俺が食べやすいようにポテトの向きを変える。
「これ井上の晩御飯だろ?俺はいいからいっぱい食べろ」
俺は向きを直す。
「うん」
井上はぱくぱくと食べ終える。
最後にジュースをちゅーっと飲み、店を出る。
「はい、本」
駐輪場で本を渡す。
「ん。ありがとう」
井上は笑顔で受け取る。
「家まで送る」
「えっ。そんなのいいよ」
「いいから。気にするな。女の子を1人で帰らせるわけないだろ」
「女の子だから?私だからじゃなくて?」
井上は際どい質問をしてくる。
「井上だから気になるのはある」
正直に答える。
その答えに井上は嬉しそうな顔をする。
「名前は呼んでくれないの?」
「……2人きりのときだけな」
「ほんとっ!?」
井上は嬉しそうな声を上げる。
「呼んで呼んで」
井上は催促する。
「………葉月」
俺は少し目を逸らしながら呼んだ。かなり、緊張する。
「嬉しい」
井上は少し照れながら俺を見る。
その照れた顔が本当に可愛い。
「ほら、帰るぞ。……葉月」
「っ。うん。隆臣」
まるで、恋人のようだった。
葉月の家の近くまで行くと、公園があったのでそこでちょっと休憩しないか、と誘われた。
「時間大丈夫か?」
俺は問う。
「大丈夫。本当、今日はありがとね」
「いや、何も特別なことしてないからな」
「何でそんな優しいの?」
「そりゃ、いの……葉月だからな。気になるし」
「ヲタク仲間だし?」
葉月は笑って問いかける。
「そうだな。今日のカラオケの別部屋のアニソン、楽しかったな」
「うん!良かったよね!FREEDシリーズ良かった!」
「だな。完全に世代の人だったな。因みに何のキャラが好きなんだ?」
「ムウさん。あのカップルが好き。だって、三ツ石さんと小安さんだよ?」
「あのカップルいいよな」
俺は頷く。
大人の魅力があるカップルだ。三ツ石さんは、美少女戦士の主人公やエヴァにも出ているベテラン声優である。
小安さんはダンガムに多数出演し、色んなアニメで主人公から名脇役をこなす、こちらもベテラン声優である。
「隆臣は?」
「俺はディアミリ」
「うわー、分かる。それも分かる。そっちも好き」
「流石、葉月」
俺は笑顔で応える。
「アスカガじゃないんだな?」
「アスカガも好きだけど、ムウマリュが1番かなぁ。声も好きだからなー」
「因みに声優は誰が1番好きなんだ?」
「声優はもちのろんで、赤い人」
「渋いな」
「デュランダル議長もしてたでしょ?FREEDで初めて聞いたとき、うわーーーってなったもん」
テンションが上がってくる葉月。
好きなものの話をしている姿は本当に可愛い。
「映画するって言ってたのに、いつするんだろうね」
葉月は呟く。
「そういやそんなこと言ってたよなー。もう何年経ったか…」
俺は指で数える。
「だよねー。楽しみにしてるのに。その時はもう大人かもね」
葉月は笑う。
「かもなー。一緒に見れたらいいな」
「!!だね。一緒に見れたらいいね」
葉月は少しはにかみながら、俺を見た。
「よし、そろそろ帰ろうか。もう遅いしな」
「ん。寂しいけど」
葉月はさらりとそう言った。
「連絡してきていいぞ」
「寝るまで付き合ってくれるの?」
その言葉に俺はハッとする。
「リアタイで見てないから、1時や2時とかは無理だからな」
慌てて言っておく。
「分かってる。寝落ちしてもいいよ」
からからと笑う葉月。
「じゃあ、また後で連絡するね」
「ああ。落ち着いてからでいいからな」
俺は葉月を見送りながら言う。
「分かったー。隆臣、ありがとー」
葉月は最後に手を振って、家に入っていった。
彼女がきちんと家に入り、扉が閉まったのを確認してから、俺は自転車に跨る。
漕ぎ出そうとした瞬間、携帯が揺れた。
『後ろ』
とたった一言。
振り返ると、部屋の窓から手を振る葉月がいた。
「やば。可愛いすぎる。何だそれ」
俺は口を手で押さえながら呟き、手を振る。
もの凄い自分が照れているのが分かったので、表情を見られたくなかった。
帰りたくないって人生で初めて思ったかもしれない。
俺は自転車を漕ぎ、見えなくなるまで手を振って帰路についたのだった。
三石さんの名前が出たので、皆さんはセーラームーンはご存知ですか⁇
私は、初めて読んだ少女漫画はこれかもしれません。
タキシード仮面が好きです。あと、クイーンセレニティ。
オープニングも好きです。
小さいときにはじめて買った自転車、セーラームーンでした(´∀`*)
ボタン押したら「月にかわってお仕置きよ!」と言ったりしてました。
子供時代を思い出すのがセーラームーンです(*´-`)




