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告解者  作者: カナタ


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第22話:安寧




先生はあれからますます口数が減ったように思う。



この街を包む陰鬱とした空気感も変わらない。



時間ばかりが過ぎていく。

次の事件がまたいつ起きるのか分からない。




私の中で焦燥感ばかりが膨らんでいく。


そんな折、先生がたまに宿からひとり出掛けて行く様子を窓から見て取れた。


どこに行くかは私には分からなかったし、聞こうともしなかった。


ただ、先生はいつもその時商売道具の一番大きい猟銃を抱えていた。


何か、不穏なことが起きていなければいいけれど。そうやって祈るしか出来ない自分の無力を呪う。


三度目にその背中を見送った日、私はとうとう我慢できずに後をつけた。




先生は迷いのない足取りで森の外れまで進み、罠にかかった兎を手早く締めると、それを袋に詰めて街の精肉屋の裏口へ運んだ。




硬貨のやり取りは短く、無駄がなかった。

それだけなら、いつもの生業だ。


けれど先生は、受け取った硬貨を懐にしまわず、そのまま握りしめたまま歩き出した。



向かった先は、テオの家だった。


戸口の前で先生は足を止め、辺りを一度だけ見回してから、硬貨を布に包んだものを戸の隙間にそっと差し込んだ。




ノックもせず、名乗りもせず。




それだけで、来た道をそのまま引き返してくる。




私は物陰に身を隠したまま、それを見ていた。




先生に見つからないよう、私はゆっくりと物陰から離れた。




その日の夕食の席で、先生はいつも通り無言だった。


私も、いつも通り何も聞かなかった。




ただ、彼の不器用な優しさの輪郭だけが、私の中にひとつ、確かな形を持って残った。










不思議なことに、最後にテオの事件が起きて以来、あれからピタリと事件が止んだのだ。




一週間経っても、


二週間経っても、


一ヶ月経っても、




まるで湖の底に閉じ込められたかのように何もない日々が続く。

人々はそのことに深く安堵し、

嘆息を漏らしていた。




市場では笑い声が戻り、


子供たちは日が暮れるまで外で遊ぶようになった。


誰かが誰かに「もう終わったのかもしれない」と囁くのを、私は何度も耳にした。



私は、この紛い物のような安寧の時間にどこか落ち着かないまま、ただそれを眺めていた。


せめて、ヤツの――『狼』の喉元をいつでも狙えるようにと、隔週で、毎回深く黒いベールを纏いながら礼拝へと参加していた。


祈るためではなく、見るために。


座る場所も、いつも同じ、聖堂の後方の柱の陰と決めていた。


彼が、


前に行った時とは違う、美しい紫色の衣装を纏っていたのが印象的だった。



ただ深く沈むような紫だった。


祭壇の蝋燭の光を受けると、その色は血よりもなお暗く見えた。




声も、いつもより一段低く、ミサの言葉から華やかな旋律が抜け落ちている。




歌われるはずの賛美の一節が、今日は静かな詠唱に置き換えられていた。




すべてが、喜びを注意深く取り除かれた儀式だった。




その静けさの中で、


シエルは――




いや、セラファンは、いつもと変わらぬ穏やかな声で祝福の言葉を紡いでいた。




信徒たちは目を伏せ、

彼の一挙手一投足に安らぎを見出している。




彼らの誰も、この紫の衣が、何を意味する色なのか、その奥に何が息を潜めているのか、知る由もない。




私だけが、ベールの下で息を殺しながら、


その横顔を見つめていた。





お読みいただきありがとうございます!明日も20時10分に次話を更新します。

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