第二話 デスマーチ
学園祭まで残り二日。
Polarisは、完成していなかった。
正確には動いていた。
たまに。
そして、たまに死んだ。
それを完成と呼ぶかどうかで、研究会の意見は割れていた。
自分はまだ、完成していない派だった。
リンカは知らない派だった。
佐伯は肉まん派だった。
――え?
「どういう意味ですか」
「肉まん食うか」
「だから、何なんですか」
「うまいぞ」
会話が成立しない。
午前一時。
寝てないせいか、すこしいらだつ。
起きてるのは、自分とリンカ。
佐伯だけ。
壁際の寝袋には誰かが転がっている。
名前は知らない。
一年だった気がする。
寝息。うらやましい。
「サークルって、こんなんでしたっけ」
思わず漏らした。
リンカが画面から目を離さずに答える。
「知らない」
「絶対違う」
「そう?」
「もっと楽しいやつだと思ってた」
「えー、楽しいじゃん」
「どこが」
「今」
理解できない。
この女は本当に理解できない。
「そういえば」
佐伯が唐突に言った。
「夏のインターン、どうするんだ」
胃が痛くなった。
「やめてくださいよ、まだ六月ですよ」
「だからさ」
「早いよね、みんな」
研究会の先輩たちはもう動いていた。
インターン。
研究室。
起業。
留学。
当たり前のように飛び交う、言葉。
誰もがどこかへ向かっている。
自分だけが、まだスタートラインを探していた。
深夜三時を回った頃。
「寝る」
唐突に、リンカが言った。
「は?」
「寝る」
「今から?」
「今」
「文化祭」
「明後日」
「Polaris」
「明後日」
「大丈夫なのか」
リンカは少しだけ考えた。
そして、
「大丈夫じゃない」
と言った。
初めて聞いた気がした。
リンカはいつも余裕そうだった。
バグが出ても笑う。
サーバーが落ちても笑う。
教授に怒られても笑う。
だから、焦ることなんてないと思っていたのにな。
部室に一人。
佐伯もいつの間にか、いない。
モニターの光。静かな夜。
画面にはコードが並んでいた。
空調はとっくに止まっていた。
キーボードを叩く音だけが響く。
ゆっくりと目を閉じた。
目を開けて、モニターを見つめる。
本当に欲しかったのは、未来だったのか?
答えだったのか?
追いつきたかっただけじゃないのか?
誰かに。
少し先を歩く、誰かに。
カーソルだけが、点滅していた。




