第三話 ― Polaris ―百年先の君へ。
学園祭当日。
Polarisは動いた。
奇跡的に。
最後まで。
少なくとも、自分が見ている間は。
来場者は思ったより多かった。
未来の自分との対話。
百年先の君へ。
そんなテーマは、意外と受けたらしい。
教授も来た。
企業の人も来た。
後輩も来た。
よく知らない高校生も来た。
リンカは説明していた。
自分も説明していた。
佐伯は何も説明せず、しれっとドーナツを食べていた。
意味が分からない。
気が付けば夕方だった。
「終わったな」
佐伯が言った。
「終わりましたね」
「片付けは、これからか?」
「はい」
「そうか」
たぶん、終わった。
たぶん。
片付け。
机を運ぶ。
コードを巻く。
ポスターを外す。
モニターを片付ける。
いつもなら長く感じる作業が、今日はあっという間だった。
気が付けば、教室には誰も残っていなかった。
窓の外は薄暗い。
祭りの後。
そんな言葉が似合う時間だった。
パソコンを閉じようとして、
ふと止まる。
Polaris
開発フォルダ。
README.md
カーソルが点滅していた。
開発メモ。
作者コメント。謝辞。
そんなものを書く場所。
何か書こうと思った。
ありがとう。
お疲れ様。
――未来へ。
どれも違う気がした。
文化祭のことじゃない。
AIのことでもない。
百年先のことでもない。
たぶん、
最初から分かっていた。
追いつきたかった。
勝ちたかった。
認められたかった。
その全部の先にいた人。
窓の外を見る。
リンカの姿はもうない。
とっくに帰ったらしい。
少し笑う。
キーボードに指を置く。
そして打ち込む。
き み が
北極星だ っ
た
数秒見つめる。
「うわ」
思わず声が出た。
何を書いているんだ。
気持ち悪い。
消そう。
今すぐ消そう!
カーソルを合わせる。
でも。
指が、止まる。
消せない。
もっと気持ち悪かった。
しばらく悩んで、
結局そのまま保存した。
Polaris
Version 1.0
保存完了。
学園祭は終わった。
未来はまだ分からない。
就職も。
研究も。
人生も。
でも。
二十歳の自分は、
その瞬間だけは本気だった。
だから、
それだけは残しておこうと思った。
数年後に読み返して、
死ぬほど後悔するとしても。
き み が
北極星だ っ
た




