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忍者活劇小説 -風と荊の道-  作者: 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)
第二章 再起、人情、忍びは折れず
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第六話 闇夜に駆けよ

 一行が大月の国の城下町の外れに着いたのは戌の刻(午後8時ごろ)。そのまま城下町に入れるかとなるとそうはいかない。身元のしれぬ輩を入れるほど、今の世は優しくはない。敵国の間者かもしれないのだ。実際に間者としての仕事をする忍びの卵なのだから、そのことは誰よりも分かっている。


 城下町に入る際に入念に調べられる。あらぬ疑いをかけられて牢に入れられても仕方がない。たとえ、自分たちが大月の国の中の忍の里の者と言えども。

 しかし、入ってしまえばこちらのものだ。葉を隠すなら森の中と言う。城下町に入り込みさえすれば、自分たちは親を失った不幸な孤児のふりをしていかようにも動き回れるだろう。


 問題はどうやって入るかだ。


 そも大月の国の城下町はいかようになっているかというと……

 大月の町自体が周囲を山に囲まれた広大な盆地地帯にある。大月城はその山の一つ、夜叉峰やしゃみね山を背中にして立っている。大月城は主に政を行っている城。有事の際は夜叉峰山に立つ夜叉峰城に控えがある。


 大月城の前に城下町が広がっている。周囲が山ということもあり、城下町は塀には囲われていない。同心円状に掘がある。こうすることで人口が増えた際は堀の外に新たに家々を作っていく寸法だ。

 大月の町には東西と南に大きな街道が入り込んでいるが、その街道からの入口には寺町がある。民衆や旅の者の信仰のためであると同時に、砦として目と障壁の役割をし、外敵の侵入を防ぐ。

 今、忍びの里からひた走り、南の寺町にやってきた凪たちの五町(約550m)先には寺町が見える。


 これをどう攻略するか。そして入ったあとはどうするか。雫が凪を見る。ここでもお前は自分の頭を使わずに俺を頼るのか、と凪は嘆息するが、仕方がない。里にいた頃からこの傾向は強かった。


「作戦を教える。まずは休む。寅の刻(午前4時頃)までだ」


 夜は忍者がもっとも動きやすい時間と言えるが……宵の口ではまだ夜の見張りのものも士気が高く見張りが厳しい。丑の刻(午前2時)ごろが一番寝静まるころであるが……最終目標を達成するには少し早すぎる。それらを踏まえて、そろそろ夜も明けようとしており夜の見張りも「早く夜明けが来ないか」とそわそわしだす寅の刻が狙い目だと凪は考えた。


「なるほどね。で、最終目標というのは?」

砕牙さいが殿のもとに行く」


 里を焼かれた賀神忍流だが、人が全て滅んだわけではない。すでに何人もの先人がいてあちこちに忍んでいる。

 そのうちの一人がこの大月の城下町で飯屋を営みながらその目と耳を使い、主に情報を送っている。それが砕牙だ。


 座学で学ばなかったか、と呆れたように首を傾げる凪に、そんなこともあったなと雫は苦笑いして頭を掻く。


 丑の刻に訪れるのは早すぎる。砕牙も寝ているであろう。それを起こすために扉を叩いて周囲の人間に気づかれる可能性がある。寅の刻すぎであれば、朝の飯の仕込みなどで起きている可能性もある。そう踏んだのだ。


「というわけで各自、寅の刻まで休憩だ。しっかり休め」


 凪が指示を出す。各自休むにしても何か遊ぶわけでもない。昼過ぎに食べたうどんや汁はもう腹にはない。一行は少しでも体力を残すべく、街道から外れ人目につかないところで眠りにつく。凪と雫が交代で見張りをした。先に雫が見張りだ。

 静かな夜がふけていく。


―――


「ん……」


 寅の刻の少し前。凪の声で雫は目を覚ます。万全とは言えないが、二刻(4時間)の睡眠はあるのとないのとでは全然違う。腕をぐるぐると回し、飛び跳ね、宙返りをうち、体操する。行けそうだ。


 凪が梢と拓にも声をかける。二人は眠たい目を擦っていた。だが寝ぼけ眼でも雫の真似をして身体を動かす様子はさまになっている。伊達に忍の里で育ち、ここまで逃げてきた者ではない。


「時間だ。行くぞ」


 こくりと頷く梢と拓。雫も握りこぶしを作る。音もなく四人の姿が消えた。


「さて大将。どこから侵入する?」


 寺町の右手に向かって走り続ける四人。雫が訊ねる。凪は答えなかったが、しばらく行ったところで足を止めた。そこはとある寺の裏で……墓場だった。

 おどろおどろしいそこは見張りが少ない。さりとて、野党のたぐいもあまり寄り付きたがらない。聖であろうと邪であろうと霊的な威圧というのは人を寄り付かせたくない圧というものがある。それに逆らう者はいかに多くはない。


 墓場を囲う土塀に上り、そこから屋根に上って屋根伝いに進めば寺町を抜けて城下町に侵入できるだろう。


「では行くぞ。雫、先導を頼めるか?」

「ん、分かった」


 雫が頷く。驕るわけではないが、凪が頭が回る分、忍びの技術としては雫のほうが一枚上手だと自負していた。敵地に侵入するとき、潜入に腕の良い者が先行し最後に不得手の者が入る。逆に離脱する場合は不得手の者が先に逃げ、腕の良いものが最後に脱出する。これを離行の術と言う。


 作務衣の帯をいじり雫が取り出したのは、先端に鉤爪がついた長縄だ。その説明の通り、鉤縄である。

 雫の手がひらめいた。カツンという小さな音とともに手応えを感じる。その鉤縄を使って猿のようにすいすいと壁を上り、塀の上に立った。と言っても、見張りの者に見られぬよう、身を伏せているが。


 凪の読み通り見張りも野党のたぐいもいなかった。それを確認した雫は手を振って合図を送る。

 離行の術は本来であれば腕の順に入るが、今回は子どもたちを護衛対象と考え、凪は梢と拓を先に行かせた。まだまだ子どもではあるが、二人は鉤縄を使って塀をよじ登る。訓練ではないから時間が惜しい。最後の上りは雫が手伝った。

 最後に凪が塀を登る。雫のほうが腕がいいとはいえ、凪とて忍びの試験を控えた者だ。遅れはとらない。かくして四人は墓場の塀に昇った。身をかがめたまま一行は塀の上を伝い、そして寺の屋根に立った。


 ここからは早い。身をかがめながら雫が屋根の上を走り、猫のように屋根から屋根へと飛び移る。梢、拓、凪と後に続く。

 いくつもの屋根を越えて城下町に入った。ここまで来たら一行は朝のゴミを漁ろうとする浮浪児に見えるだろう。だがわざわざ町の衛兵に姿を見られるのも面倒だ。あるいは野盗だったときはもっと面倒だ。一行は引き続き屋根を走る。


 砕牙の店までもう少しと言ったところで雫が止まるように手を上げた。凪と梢と拓が指示通りに止まる。雫の視線の先には、大通りの四角で見張りが二人あくびをしながら座り込んでいた。

 店に行くにはこの通りを抜ける必要がある。


『ちょっと邪魔だな……』


 雫は顔をしかめた。座り込んでいるとおり見張りは夜明け前で疲れており士気も低いが、立っている位置はちょうど通りを見通すことができる。なかなか考えられている配置だ。

 巡回しているわけでもないので、機を見て駆け抜けるとかもできない。そうするとどうしたものか。


『どいてもらうしかないね』


 結論を出した雫は凪の耳に口をよせ、自分の考えと作戦を伝える。凪は深く頷いた。


 雫はひらりと地面に下りた。そして一町(約55m)ほど離れたところの路地裏で立ち止まる。路地裏は少々入り組んでおり、まっすぐにここに来るのは難しいだろう。

 鉤縄を屋根に打ち込み、すぐに登れることを確認してから雫は悲鳴を上げた。


「ああぁあ! お助け!」


 女性の悲鳴はよく通る。その声は離れたところにいる凪たち、そして見張りにも届いた。


「何だっ!?」


 見張り二人は跳ね起きて槍を構えて雫が声を上げた方向に一目散に向かう。だが入り組んだ路地裏に迷い、たどり着いたときには声の主はいない。

 すでに雫は鉤縄を使って屋根によじ登り、凪たちのもとに戻っていた。成功したと、凪は頷く。


 一行は素早く地面に飛び降り、そして対側の路地裏に入り込んだ。ここまでくれば安心だろう。一行はこそこそと、路地裏を走り砕牙の店を目指した。

 そのようなわけで、忍者らしく動くシーンを書いてみましたが。いかがだったでしょうか?

 前話でもちらっと触れましたが、忍◯ま乱◯郎を読んでいたので、忍者の知識はちょいちょい忍◯ま乱◯郎から引用したりしています。これから忍者・忍術、他戦国時代の文化の本も購入して時代考証やりつつも、和風ファンタジーでそれらを飛び越えた文章を書いてきますので、よろしくお願い申しあげます。

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