エピローグ 遥か先でのある孫と祖母の会話
歴史を語る時には、争いとか悲しいことがよく語られがちだ。
しかし、尾有りの革命で生まれたその国の歴史を語る際、二代目の王と妃のことは欠かせない。
縁結びや平和の象徴として国が変わっても愛される彼らは、初代王が築いた国を引き継ぎ、憎しみに囚われる国を救った。
尾無しである王妃と、尾有りである王の婚約は当時は望まれず、何度も二人は危機に晒されたが、立ち向かった。
彼らの存在が無ければ、彼らの行動がなければ、
その国は、世界の歴史に名を残せる程には存続していなかっただろう。
老衰でシアナ王妃が亡くなった後、王は王宮近くの丘に彼女を埋葬した。
荘厳な霊廟ではなく、自由な自然の中に還りたいと彼女は願うだろうからと。
自身の手で墓穴を掘って。
葬儀には多くの人々が参列した。尾無し尾有りも王妃を象徴する空色を身に着けて、辺り一帯を埋め尽くしたのは有名な話だ。
過去に王妃を暗殺しようとした罪人の娘でもあった侍女テファも、足腰が弱くなったというのに自分の息子に手を貸してもらい、花を捧げにいったという。
王は葬儀後には毎日丘に行って、彼女が埋まっている辺りに丸くなっていたらしい。
数年後、王は丘の上でいつものように丸くなっているうちに、日向ぼっこしているような穏やかな顔で亡くなった。
王が亡くなった後、その亡骸は王妃と同じ場所に埋葬され、石碑が建てられた。
石碑には王と王妃の名前と、その功績、そして中央には大きく円形になって眠る二人の姿が彫られていた。
それだけだった。
王が存命中だった頃は警備の関係で葬儀後閉鎖されていた丘も、
王の「賑やかな方が嬉しい」という遺言により誰でも入れるように開放された。
それから王と王妃が眠るその丘の上で、争い事が起きることはなかった。
たとえ、
国中が荒れようと、
都が焼かれようと、
侵略されようと、
革命が起きようと、
その丘だけ無事はだった。
シアナ様とファリード様が眠る丘だけは皆、穏やかに仲良くいられるんだよ。あの丘だけは争いの地にしてはいけないよ、お二人が悲しまれるからね。
***
「もっと大きな丘、山とかにすれば世界一平和の国が作れたね」
「それはまあ随分と我儘だねぇ。彼らの時代は平和だったし、丘一つでもこの時代まで残しているのは偉大なことだよ。
………………それにお二人の話を聞いて、お前は平和は誰かに作られるのを待つべきものだと思うのかい?」
「……でもぼくにとっての、シアナ王妃のような人も、ファリード王のような人もいないもの」
孫の嘆きに、空色の瞳をした狼の尾有りの祖母は答える。
「そんな人を探すのも、なるのも、人生の醍醐味だね」




