番外編 ある影の期待
ハイデルエルム魔法学園があるのは、ルズベリー王国の王都。
王が直轄する地だけあり、人々の生活の豊かさはもちろんの事、流通や物の豊富さなどは他の領地よりも抜きんでている。
かと言って税収が不当に課せられているということもなく、庶民に対し高慢な態度をとる貴族も今は少なくなった。まだ身分を笠に着る部分はあるが、根気よく周知させていった結果は、出ている。
国王であるオーウェン・ルズベリーは善き王であると言えるだろう。
とはいえ、光と闇は表裏一体。光が当たる場所ほど闇は大きくなる。王宮の中、そんな闇に紛れて影は移動する。
「来たか、ノイン」
「さすがですね。現役ではないはずなのにこんなに容易く気配を読まれるとは」
「そうでなくては務まらん。して、どうだった」
自分も実力をつけて、ノイン――九番目の名を冠するようになったのにまだまだ修行が足りないらしい。完全実力主義のなか、史上最長トップにいた人物を早々に出し抜けるはずはないのだが。
「もう少し遅ければ危なそうでしたが、今回は魔法省のがうまくやりましたね」
「あいつか、それなら安心だ」
「念のため、時間をおいてから調査には向かいます」
「追えるようなものは残っていないだろうが、怠るなよ」
こちらとしても、ようやく見えた尻尾の先をみすみす見送るつもりなんてない。言われるまでもなく細心の注意は払っていく。
「それで、他には」
途端に雰囲気を変え、そわそわと落ち着きなくこちらの様子を伺ってくる姿に、ため息をひとつ。そしてご所望であろう品をサッと前に出した。
「こっちがポテトチップス、もう一つはクロワッサン。
ポテトチップスは出来立てだと格別らしいですよ」
「トーラスには、行けないよなあ」
王都から離れているうえに、行く理由が出来立てを食べたいだなんて正直に言えば呆れられること間違いないし、そもそも王都を離れることが出来ないのは分かっているだろうに。
「こうして持ってきた分だけで我慢してください」
「しかし、お前は食べたのだろう?」
「もちろんですよ。献上するのに食べないでどうします」
いくら望まれたものだとはいえ、味の確認なんかもしなきゃいけないからその場で食べてきている。もちろん、滞在中の食事はその土地ならではのものを。動けない主の為の手となり足となる、それが自分たちの役目なのだから。
「私はこれだけしか食べられないのに、お前はたくさん食べてきたんだよな」
「無茶言わないでください」
本当、優秀なのに欠点らしい欠点と言えば、こうして食べ物が絡むと子供っぽくなるところ。
それ以外が見当たらないっていうのも怖いところではある。しばらくパリパリと小気味よい音が響く中で、今回見てきたものの報告をする。
「ご苦労。下がっていいぞ」
口の周りにクロワッサンのカスがついているのは、黙っておくか。
さっきまでポテトチップスを入れていた袋を物欲しそうに見ているのにも、自分は何も気づいていない。見なかったことにする、っていうのも大事な仕事のひとつ。
「そうそう、そのクロワッサンですが、懇意にしているパン屋の息子には作り方を教えたらしいですよ?」
「な、ちょっと待てエリオット!」
「それじゃ、俺はこれで」
最後、扉を閉める直前に伝えたのは嘘じゃない。きっとどこのパン屋なのかはすぐに突き止めるだろうけど。それか、もう知っているかもしれない。王子も学園に通っていることだし。
少しずつ政務に携わるようになってきたので、長期休暇の今はこっちに帰ってきているようだから、そこから情報を集める事も出来る。
ま、そんな事で情報部隊動かしたりはしないだろうけど。
「エリオット! ここにいたのか」
「アルフレッド殿下」
「しばらく見なかったな?」
学園に通っている間も書類を届けるっていう名目で週に何度か顔を合わせていたからか、この長期休暇で二週間くらい見なかったのはしばらく、になるのか。
「いえ~? ちょっとばかり避暑に行ってまして」
「俺たちが暑い中、書類と向き合っていたのにか」
殿下もいずれは俺たちの部隊の事を知るのだろう。まずは俺がそこに所属しているっていうことを見破る所からなんだけど。それに気づいてからが殿下のスタートライン。
ま、まだしばらくはこの関係でいかせてもらうだろう。そもそも、学園の生徒だった時に気づいたあの人が鋭すぎるのだ。
避暑、と聞いてからジト目で問い詰めてくる視線もなかなかに痛い。ここは、ご機嫌取らせてもらいましょうか。
「そんな殿下にお土産ありますけど、」
「もらおう。執務室でいいか」
いりますか、まで言わせてもらえることもなく有無も言わせずに自分の執務室に向かう姿に、血は争えないよなあ、なんて思ったり。
あの人が父親で国王なんて、目の前の壁はかなり高いもんだけどこの人ならそれに潰されることなくやっていけるだろう、と確信はある。
「最近、紅茶を冷やしたものが王都で流行していてな」
「ああ、アイスティーですね。暑い時は嬉しいですよねー」
「……知っていたのか」
小さい頃から世話をしてくれる人間なんて数えきれないくらいいただろうに、こうやって手ずから紅茶を用意する殿下の事は、ちょっと気に入っている。そうして不貞腐れたように視線を逸らす姿なんてただの年相応の少年だ。
「もちろん。流行を知らないと女の子のエスコート出来ないでしょう?」
「ほう、しばらく見なかったのはそういった理由か」
「冗談ですって、ほら、お土産あげますから」
「そんな物で機嫌を取ろうなどと……うまいな」
「でしょう?」
さて、殿下。
お手並み拝見といきましょうか。
貴方がいつ、俺に気づいてくれるのかを楽しみにしていますよ。
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評価ポイントにつながるんだと知った今日この頃。




