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どうやら俺が乙女ゲームのヒロインらしい  作者: 柚みつ
本編

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呼ばなかった理由

「今回は時間かかったね」

「……任務なら、元から一泊するつもりで――」

「セリ」


 王都に転移して、魔法省に向かっている途中。道中やけに静かだったユリエスからその名前を出されて、一瞬動きを止めてしまった。そんな俺の反応を見て、ユリエスは笑いをこらえている。長い付き合いだ、隠すようなことでもないし軽く息を吐いてから理由を告げる。


「あんなこと最初に言われて、警戒しない訳がない」

「ヒロインって言われたこと?」

「ユリエス」

「分かってるよ、ほんの冗談だ」


 肩をすくめたユリエスは、真剣な表情に変わった。それと同時に、俺たちの間に流れる空気も変わる。


「ディオが警戒していたのは分かっていたから、僕までそういう態度を取るわけにはいかなかっただろう?

 そんな事をしたら、得られる情報も得られなくなってしまう」

「学園で接点あるのはそっちだからな。それで、どうだった」

「そうだな、授業中は特に何も。食事時にいなくなっていたのは、寮の食堂を手伝っていたから。

 教室では挨拶を交わす程度にしか近づいてないよ」


 俺ほどでもないけどユリエスも人を信用するのには時間がかかる。

 にこにこと人の良い笑みを浮かべているからまず分からないし、あまり警戒心を抱かせるようなこともないけど、冷静だし自分の敵になると判断したら容赦はしない。


「あと、死神の件は本当みたいだね。裏、取れたよ」

「そこに関しては嘘だとは思っちゃいねえよ。警戒したのはそれ以外だ」

「それ以外?」


 死神、そう言っておけばあまり深く詮索されないからわざとその事を口にする奴もいる。ただ、それが本当かどうかを知るには当時、その家で医者なり術師を呼んだかどうか、身内に治癒魔法が使える奴がいたのかどうかなんて調べなきゃいけない事が山ほど出てくる。

 それを一つ一つ確認して、ようやくその発言の真偽が分かるんだから、あまり重要ではなさそうなときにそこまでの手間はかけてられないっていうのが正直なところだ。

 ユリエスが裏を取れた、とそう言うのなら兄貴と家の力を使って確認したということだからその真偽は確かなものだ。


「あいつは、まだ何かを隠してる。それが何かまでは分からなかったが、少なくとも俺たちに害がある事ではない」


 学園では言葉を選んで話しているように見えたから、トーラスで姿を見た時には何か言われるんじゃないかと思ったけどそれもなく。

 俺たちの事を話されるんじゃないかとも思っていたんだけど、ハルや父親である領主を含めて誰にも話していなさそうだったし。


「それで、大丈夫だろうと?」

「ま、ある程度な。これからも関わりあるだろうから、いつまでも名前呼ばないのも不自然だろ」


 別れ際に呼んだことでビックリされていたから、俺がわざとそうしていたことには気づいていたみたいだったけど。こっちが驚かさせるような発言ばっかり聞いていたから、あっちの驚いた顔は妙に新鮮だった。


「あっちにいる時は、ただの領主の娘、だったからね」

「そう見せてるんだろ、口調も違ったし」

「森の中についてきたのにはちょっと焦ったけど」

「そうだ、それで伝えたいことが――」


 森、と言われて探索した時に気になっていたのに、なかなかユリエスに話すタイミングがなかったことを伝えないと、と思ったのにその続きは誰かが俺たちを呼ぶ声に遮られた。


「二人ともお帰り」

「バラン、珍しいなお前が外にいるなんて」


 やや疲れを滲ませて、それでもにこやかに声をかけてきたのは黒ローブを羽織ったバラン。いつもはきっちり整えてある髪が少し乱れているし、何より魔法省の建物の外にいること自体が本当に珍しい。


「いやあ、泥棒騒ぎが立て続いてねぇ。こんな時間まで現場の調査やらで引っ張りまわされちゃったよ」

「もう夕暮れだもんな」

「そ。おかげでご飯も食べ損ねたから、適当に済まそうと思うんだけど」


 一緒にどうかな、なんて誘いに、断る理由もなかったから頷いたんだけど。

 そういえば、と思い当たった。ユリエスの顔を見れば、分かったようにバッグに視線を向けていた。


「バラン、外でもいいんだけど、魔法省に帰らないかい?」

 僕たちいいもの持っているんだ」

「いいもの? トーラスのお土産かな?」

「ま、そんなところだ。とりあえず、行くぞ」


 バランが不思議そうに首を傾げたが、特に異議はなかったのかそのまま魔法省へと慣れた道を歩き出す。

 分けてもらった肉は、俺たちだけではとても消費できる量ではなかったので、ちょうど良かった。

 氷漬けにしておいたり、干してしまえばまだそこそこ日持ちはするんだろうけど。どうしても味は落ちてしまうらしいから、おっさんがいいところと言ったのなら早めに食べきってしまった方がいいのだろう。


「これ、調理頼めるか」

「うわあ、めちゃくちゃいい肉じゃないですか!」

「僕とディオ、バランで三人分。あと師匠に二人分。残ったのは好きに使って」


 食堂からひょっこり顔を出した料理長に分けてもらった肉を渡して欲しい分量を告げる。俺たちは食べ盛り、と言われる年頃だけど量は平均的だと思う。それよりも肉に関しては師匠の方が食いつきがいい。普段は俺たちよりも食べないのに、肉だけは俺たちと同じかそれ以上を平気で食べきるからな。

 俺が両手で抱えるくらいの大きさだし、五人前を取ったとしても今日か明日の食事一回分には十分使えるだろ。


「夕食の予定変更! 肉をメインにするから各自準備!」


 厨房に指示を出した後、俺たちの方を見て嬉しそうに笑った料理長からパンとお茶をもらって、食堂で一息つく。椅子に座る、と言うよりもたれ掛かっているバランにパンを差し出せば、ゆっくりとした動作でパンを一ちぎりずつ口に運んでいた。

 食事の用意が出来るまでに、話聞いておくか。


お読みいただきありがとうございます!

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