任務終了、そして帰還
「さっきから、何やってるのディオ……」
工房から顔を出したユリエスは呆れた顔でこちらを見ている。さっきから、って事はロンに土で動物作ったあたりの事から言ってるんだろうな。次いで顔を出した父親にロンが駆け寄った。
「お父さん見て! ディオ兄が作ってくれたの!」
「これはまた、精巧な出来だなあ。
ロン、お礼は言ったのか」
「あ、そうだありがとう!」
大喜びで小さな人形を父親に見せて、ペコリ、と音がしそうなお辞儀をしたロンは小さな手の中に収まる動物を宝物のように大事に抱えている。
「固めには作ったけど、しばらくしたらひび割れていくはずです」
「ええ、構いません。その時まで、息子が大事にしてくれるなら」
「あの様子だと間違いなく大事にしますよ。
ではバートン殿、私たちはこれで」
ユリエスも満足のいく話が出来たのか、笑顔でロンの父親と握手を交わしていた。
動物を壊さないように地面に置いてから手を振るロンに手を振り返し、工房を後にする。
「よくあの短時間で切り上げたじゃねえか」
「魔法使ったのはてっきり時間知らせるためだと思ったんだけど、そうじゃなかったみたいだね」
「なるほど、次からはそうするわ」
ま、どういった理由であれ約束した時間は過ぎているわけだし酒場に戻る。店の前に無造作に置かれた樽に、一仕事終えたように腰掛けているのはさっき解体を頼んだおっさん。
「おう、終わってんぞ」
「仕事が早いですね」
「あんなでかいの久しぶりだからなあ。張り切っちまったぜ」
がはは、と大口開けて笑い満足そうな表情を浮かべているから、さぞかしやりがいのある解体だったんだろう。
領主はまだ来ていないが、先にどうなったのか確認させてもらおうと、横の物置を覗き込む。手の空いている奴を呼ぶ、とは言っていたが思っていたよりも中にいる人物は多かった。
「せっかく魔法省の仕留めた獲物なんだ、勉強させてもらった。
そんで素材だが、希望する物はあるか」
大きかった猪は部位ごとに分けられて綺麗に並べてある。皮や骨、牙なんかと別の場所に肉。
魔獣の肉は獣よりも旨味が強いらしく、値段も高くなる、とは聞いているが実際にあまり意識して食べた事ってないんだよな。
たぶんどっかしらで口にはしている。栄養になれば何でもいいって思ってた時期に、たくさん連れまわされた記憶があるから。けど、どこで何を食べたのかまでは覚えてない。そしてどれが美味かったのかも。
「素材、なあ。俺は特にないけどユリエスは?」
「それなら肉を少しだけ分けてもらおうかな。師匠のお土産に」
そもそも、基本俺らは討伐することはあっても、自分で素材を集めて何かを作るって事はほとんどしない。ここにバランやリーンがいればまた要求する物も違うんだろうが、あいにくと俺たちじゃ手持ちの素材で何が足りないかなんて分からない。
だから伝えるのも必要最低限になるんだけど、どうもそれでは納得しなかったようだ。
「こんな冒険者集めて討伐に向かうような魔獣倒しておいて、それだけだと?」
「僕たちでは持て余すので。だったら、有効活用してもらおうかなと」
人によっては嫌味とも取られかねないけど、ここで使い道の分からない素材を押し付けられてバッグの中身を圧迫するのは避けたいんだよな。ただでさえスイサイで今結構埋まってるのに。
「後から譲れって言われても渡せねえぞ」
「もちろん、それは分かっています」
「ならその言葉に甘えさせてもらう。最近の魔獣の襲撃の多さでいろいろと物入りなんだ。
礼と言っちゃ少ないが、肉は上等なとこ持ってってもらうからな」
ユリエスの態度が崩れなかったことで諦めたのか、おっさんはため息をついて肉を切り分ける指示を出し始めた。
「すいません、遅れてしまったようだ」
「遅ぇぞ、ジェラルド。もう話はついた」
「そうか。それでお二人はどれを持ち帰るって?」
「肉をちょっと、後は全部こっちでいいってよ」
端的な説明に、駆けつけた領主が目を丸くしてるので、やっぱいくらかは素材持って帰ると思ってたんだな、と他人事のように感じた。それでも必要だとは思えないのでさっきおっさんに伝えた言葉を訂正するつもりはないけど。
「お二人は、今日王都に帰るんですよね」
「少しの間森の様子は見るつもりですが、原因らしきもの分かりましたし、ひとまずは戻ろうかと」
「ありがとうございます。小屋の件は、分かり次第すぐに」
「ええ、こちらでも調べてみます」
そうしてユリエスが差し出した何枚かの書類に、領主のサインをもらう。一応依頼完了として、森の様子を見るのはまた別件、というか事後処理って扱いにしてもらう。
学園の休暇はまだ少し残っているけど、そうしておかないと帰れなくなるからな。
もちろん、様子は見に来るけどそれは特に知らせなんかは出さないし、俺たちじゃないやつが行く場合もある。
「ほら、いいとこ分けといたぜ!」
「おっさん、気前いいな」
渡された肉は、両手で抱えないといけないほどの大きな塊。持ったまま帰るつもりもないので、隣で口を開いて待っているユリエスのバッグに突っ込んだ。
「それじゃあ、私たちはこれで」
「本当に、ありがとうございました」
おっさんと領主が頭を下げたのを見て、周りにいた人たちも同じように頭を下げる。
それには軽く手を振って返し、帰るだけならもうここでいいか、と転移しようとしたときに呼び声がかかった。
「ディオー! ユリエスー!」
「セリ、僕たちこれから王都に戻るよ」
「世話になったな」
走ってきた彼女の息は弾んでいて、その後ろには領主よりも少し薄い水色の髪をした少年がくっついていた。
「ありがとう、魔獣の退治もだけど、いろいろと」
「こちらこそ。滞在中はありがとう。美味しいご飯だったよ」
「姉さまのご飯が美味しいのは当然です」
何を当たり前の事を、なんて思っているのを隠しもせずに言葉に乗せてきた、後ろにくっついた少年。髪色は違うけど、姉さまって呼ぶならこの少年、弟か。
「こら、ヒュー。そんな事言わないの。
ごめんね、生意気な弟で」
「良いって。実際美味かったからな」
「そのうち王都でも食べられるようになるわよ。テッドにレシピ教えてあるもの」
どのレシピを教えてあるのかは知らないが、どれにしても王都で美味しいものが食べられるようになるなら大歓迎だ。
「ヒューバート、言いたいことがあって来たんでしょう?」
「ん? なんかあるのか」
姉に言われて、何かを言いたそうにもじもじし始めた弟の様子を見ていたが、ほんのり赤く染まった顔をバッと上げると、叫ぶような勢いで言い切られた。
「魔獣倒してくれてありがとうございました!」
「もし、次に出たらお前が姉ちゃん守るんだぞ」
ポンポンと頭を撫でて、転移するように魔力を練り上げていく。どんな魔法を使うのか、説明しなくても分かるのだろう。
言わなくても距離を取った彼女の方に振り返って、軽く手を振る。
「それじゃあ、また王都でな。セリ!」
一瞬、ポカンと呆けた顔をした彼女がハッとして何かを言っていたが、それは全部聞き取ることなく俺たちは王都へと転移した。
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