空いた時間の使い方
「さて、時間が空いたわけだけどどうする?」
「そうだね、今日中には帰る予定だし町の探索でも……」
領主は仕事がある、とのことで猪の解体が終わるだろう一時間後、またここに来ると言って屋敷に戻っていった。
小さな町だけど、散歩がてらのんびり見て回ればまあちょうどいい時間になるだろうと視線を巡らせると、建物の陰からこちらをじっと見ている子供と目が合った。
「あいつ、確か来た時の」
「セリに挨拶していた子だね。覚えてるよ」
俺たちと目が合ったことに気づいたのか、一瞬びっくりしたように飛び跳ねて隠れたが、ちょっとするとそろそろと頭を出して様子を伺ってくる。
「今日はお姉ちゃんいないの?」
「なんだ、俺たちじゃ不足か?」
ユリエスは、実はあまり子供の扱いが得意ではない。自分が子供らしい、と言えることにあまり接してこなかったからと本人は言ってるが、そうやって苦手だと思うから構えてしまって、どうしたらいいのか分からなくなっているように見えるんだけどな。
今も笑顔は浮かべているけど、苦笑いに近い。自分の腰にも届かないような子供は、あまり接する機会もないだろうから、ここは俺の出番かな。
しゃがんで、近づいてきた子供と目線を合わせて見た目通りふわふわした髪の毛を撫でる。
「だってお兄ちゃんたち全然町にいないじゃんか」
「昨日はハルと森に行ってたんだよ」
「ハル兄と? いいなあー、僕はまだ森は行っちゃいけないんだって」
「そりゃ、お前まだちっさいからな。簡単に迷子になるだろ」
まだ頭に置いてあった手を動かせば、小さい発言がお気に召さなかったのかぷっくりと膨らませていたほっぺがだんだんとしぼんでいった。
「ディオ、僕は職人に話を聞きに行ってくるよ」
「ああ、屋敷にあった暖房のか」
「ねえ! やしき、ってセリお姉ちゃんのところだよね?」
いつの間にかぎゅっと握られた手をぶんぶんと振られながら、屋敷がどこかを聞いてくる。その目はキラキラしていて、嬉しさを押さえ切れていないように見える。
「そうだけど、それがどうかした……」
「それねーえ、僕のお父さんが作ったの!」
ああ、そういうことか。お姉ちゃんに会える、じゃなくて自分の父親の仕事を誇らしく思っていたからあんな嬉しそうな顔してたのか。
「お前、名前は?」
「ロンだよ!」
「よし、ロン。お父さんのところに案内してくれるか?」
「まかせてー!」
しゃがんだままなのに、繋がれた手を引っ張っていくのでちょっと体勢を崩したがどうにか転ぶことはなかった。ユリエスもついてきていることを確認して、ロンに案内されるままに町の中を進む。
そうして五分もかからずにここだよ、と言われた家は、周りと外見はほとんど変わりない。
ただ、隣に増築したであろう工房があり、そちらには鉄で作られた道具屋を示す看板が掲げられていた。
工房側の扉を開くと、カラン、と控えめながら澄んだ音色が響く。その音に気付いたのか、奥の暗がりから男性が顔を出した。
「いらっしゃい、ってどちら様?」
「お父さん、あのね、セリお姉ちゃんのところのあったかいの、教えてほしいって!」
「ロン、ちょっと落ち着いてくれ。
えっと、そのローブはもしかして」
そう言えば、サッと身支度した時に最終的にはこれ着ればどうにかなるだろ、って羽織ったの忘れてた。どうりでさっきから町の人たちの視線が刺さるわけだ。魔法省の人間ですって宣伝して歩いてるようなもんだからな。
「領主からの依頼を受けた魔法省の者です。お話を聞かせてもらいたくて参りました」
「あ、え、その……わたしなんぞでよろしければ」
「お父さん、どうしたの?」
いきなり慌てだした父親の姿を見て、ロンが首を傾げる。そりゃ、父親の気持ちも分からないでもない。息子が魔法省の人間と手を繋いで現れたら驚きもするだろう。
「ロン、案内ありがとな。こっちのお兄ちゃんはお父さんと話があるそうだから、俺たちは外で遊ぶとするか」
「うん! こっちー!」
「ユリエス、適当なところで切り上げろよ」
熱中すると時間忘れそうだから、一応念押しだけはしてロンと一緒に工房を出る。今朝も話は聞いていたし、王都に帰る予定だっていうのも分かっているからそこまで長引かないとは、思いたい。
「ここねえ、僕がいつも遊んでるところなの」
「へえ、いい場所じゃねえか」
工房の裏には大きな木があり、そこには手製だろうブランコがぶら下がっている。足元の土は掘り起こして柔らかくしてあるから、多少の事じゃ怪我もしないだろう。
日差しも入ってきて、眩しすぎることなく心地良い。
「お兄ちゃん、押してー!」
「はいよ、ほら!」
「わああ!」
ブランコに座ったロンは、前に進むたびに楽しそうに笑う。一人で漕いでいるだけじゃ、なかなか届かない高さ。しばらく満喫したロンは、地面に近づいたタイミングを見計らってブランコから飛び降り、前の土に着地した。
「上手いもんだな」
「えへへ、毎日遊んでるもん!」
ロンの顔と手に付いた土を払って、それを使い、手の中で小さな動物の形を作る。ロンに差し出せば、大きな目を真ん丸にして手の中の動物を見つめていた。
「これ、うさぎさん?」
「正解。じゃあ、こっちは?」
「おうまさーん!」
そうやってしばらく遊んでいると、工房からユリエスが顔を出した。
もうそんなに時間が経ったのか。腰につけた時計を確認すると、確かに針は一つ進んでいた。
出張が終わらなかったのは、ちびっ子のせいです。
書くのちょう楽しかった!
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ブックマーク増えて嬉しさ倍増です!




