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どうやら俺が乙女ゲームのヒロインらしい  作者: 柚みつ
本編

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遅く起きた朝

報告までするはずが、食事回です。

 体感的にはそこまでじゃないはず、だったんだけど。

 目を開ければ窓からは明るい光が入ってきているし、隣のベッドは使った跡はあるのに人はいない。ベッドから寝転がったままで時計を見れば、ここ最近の習慣になった時間よりも一時間ほど遅い。

 それでもまだおはようで通る時間なので、簡単に身支度を済ませてから部屋を出る。


「あら、おはようディオ」


 ちょうど声かけに行こうとしていたの、なんて笑う彼女の顔を見て、昨日スイサイ渡す約束をしていたな、と思い出した。今のうちに渡してしまった方がいいだろうな。この後に時間が取れるかも分からないし。


「昨日言ってた花、今渡してもいいか?」

「もちろんよ、ありがとう!」


 大切に育てるから、なんてグッとこぶしを握っているがそんな気張らなくても簡単に育つはずだ。渡すのは花も咲いているやつだし、そのまま活けておくだけでも十分だろう。


「花が落ちたら種が出来るから、増やしたいならそれを育てればいい。

 育て方は後でユリエスにでも聞いてみろ。あいつのが詳しいから」

「分かったわ。わたしは花を部屋に置いてくるから食堂に行っててくれる?」

「ああ、分かった」


 バッグから一株よりも多めに出したスイサイを嬉しそうに抱えて方向を変えた背中を見送って、言われたとおりに食堂へ向かう。

 着いてみれば、領主とユリエスが座って何やら話し込んでいた。


「おはよう、ディオ」

「おはようございます、クライン様。ゆっくりお休みいただけましたか?」

「ああ、おかげさまで。ユリエスとは何を?」


 二人の前にはお茶のカップだけで、摘まめるようなものは置いていない。もう朝食が済んだのかと思ったけど、さっき声かけようとしてたなんて言ってたよな。


「年寄りの早起きに付き合っていただいておりました。

 これから朝食にしますが、クライン様はお召し上がりになりますか?」

「ええ、いただきます」


 これから、の言葉は本当だったらしく、領主が合図をするとお茶しかおいてなかったテーブルに次から次へと料理が運ばれてきた。


「どの程度召し上がるか分からなかったもので、張り切ってしまいました。

 お好きなようにお取りください」


 そう言って渡されたのは、仕切りの付いた皿。なるほど、これで好きに取れって事か。正直体は空腹は訴えているものの、そこまで食べられる気がしていなかったからちょうど良かった。

 蒸した野菜、それから小さ目に作られたオムレツ、細かく刻まれた野菜が入ったスープに、見慣れない三日月形のパンを取って席に着く。

 ユリエスは俺とほぼ同じものを取ってきていたけど、ソーセージが乗っていた。早く起きてたみたいだしな。


「いただきます」


 手を合わせて食事前の挨拶をしてからオムレツに手を付ける。ふんわり沈んだナイフで切り分けると、中からとろりとチーズがあふれ出した。かといって卵が生なわけではなく、しっかり火が通っているので崩れることなく口に運ぶことが出来た。

 蒸し野菜についていたソースはレモンの香りが爽やかで、程よい酸味もあり後味をスッキリさせてくれる。ちょっとだけもったりとしたソースは野菜に絡み、垂れてテーブルを汚すこともない。

 スープは色が薄いから味も薄いのかと思ったけど、野菜がしっかり煮込まれていて優しい味わい。シンプルな味付けだから途中で飽きることなく飲み切れる。


「このパン、食感がいいですね」

「クロワッサン、と呼んでおります。この領地では定番になりつつあるんですよ」

「王都ではまだ見ないですが、これは人気が出そうだ」


 ユリエスが食べていたのは俺がとってきたのと同じ三日月形のパン。手に取れば焼きたてなのかまだほんのり温かく、そして思っていたよりも軽い。ちぎろうと指に力を入れただけで表面がパラパラと零れてしまう。

 噛むとサクッとした歯ごたえの後からじんわり染み出すバターの香り。食感が軽いのでサクサク食べ進めてしまったが、一つ食べ終えると確かな満足感があった。


「ごちそうさまでした。どれも美味しかったです」

「ありがとうございます。料理人も喜びます」


 気が付けば、それなりに持ってきていた皿は空っぽになってた。食事が終わったと見たのか、小さ目のカップでお茶を淹れてくれたのでありがたくそれをもらう。

 俺よりも量があったはずのユリエスも同じくらいで食べ終えている。急いでるようには全然見えなかったんだけど。


「昨日の件ですが、ハルからは先に簡単な報告を受けています。

 お二人の意見をお聞きしたい」

「もちろんです。ただ、ハルの感じたことは僕たちも知りたい。

 彼をここに呼ぶことは可能でしょうか」


 ユリエスの問いかけに頷きかけた領主は、ハッとしたように後ろに控えていた執事に何かを確認している。


「すいません、彼は別室で食事を取っていまして。

 呼んで参りますので少々お待ちいただけますか」

「それなら、食事が終わってからにしましょうか」

「恐れ入ります」


 十分に休息も取った、美味しい食事もご馳走になった。昨日使った魔力は回復したから、これから話を聞いて遅くなったとしても、転移して王都に帰れるから問題はない。


「では、その間にラングート様が気にしておりましたこちらの器具の話でも」

「それは、ぜひお願いします」


 そうして食いついたユリエスが、ハルが来るまでの時間があっという間だったと言ったのはそりゃそうだろう。

 入ってきたハル、ちょっと気まずそうだったからちょうど良いタイミング見計らってたんだろうな。

 労わりの代わりに、軽く肩を叩いたら小さい声でありがとなって聞こえたし。

 さて、それじゃ話を始めるとするか。


書いててクロワッサン食べたくなり、近くのパン屋に買いに行きました。

一度作った時に、用意したバターの量が忘れられない……


お読みいただきありがとうございます。

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