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どうやら俺が乙女ゲームのヒロインらしい  作者: 柚みつ
本編

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閉ざされた部屋

 魔法陣から移動した先は、ほぼ真っ暗だった。暗いだろうな、とは思っていたがまさか一筋の光しか入らないとは思っていなかった。天井にある小さな窓から入る光は部屋の捜索に使えるとはいえるわけもなく。

 小屋に入った時と同じように何個かの明かりを放り投げると、目についたのは所狭しと置いてある本。


「この部屋、本しかないじゃない」

「っていうか、これを部屋って呼べるのかよ」


 ちょうど背中が壁になる場所に移動したので、部屋の全体は良く見える。あまり広くないけど、どっかの図書館の本を丸ごと持ってきた、そう言われても納得してしまうほどの本があふれている。


「どちらかと言えば物置代わりじゃないのかな」

「だったら自分の屋敷の近くにするだろ」


 ここを買い取った貴族ってのがどんな物好きかは知らないけど、少なくともこれだけの本を集めていたなら、資金に困るって事もなさそうだ。


「となると、あまり考えたくはないけど」

「可能性はある」


 ユリエスにだけ聞こえるように音量を落として、短く言葉を交わす。俺たちだけだったら普通に話せる内容なんだけど、そこで呆然と本の山を見つめている二人は違うからな。


「さ、あまり時間もないし手分けして何かないか調べよう」

「この中から何かを探せってのがまず難しいんだけど……」

「大丈夫、ハルはわたしと一緒にこっちね」


 まあ、森の魔獣が増えたことの手がかりがありそうには見えないもんな。絶妙なバランスで積み重なっている本を崩さないように慎重に移動するハルに、心得たとばかりに一緒に動いたのは気心知った幼なじみ。彼女は彼女で目的があるみたいだから、自由にさせておいた方がいいだろ。

 それより、俺たちがさっきから気にかかっているのは。


「あいつら遠ざけたのはわざとだろ」

「僕はただ、手分けしようって提案しただけだよ」

「恐れ入るよ。まあ、その方が都合いいけど。

 ここを買い取った貴族の調査は任せていいんだよな」

「もちろん。調べがつくかは分からないけどね」


 軽口を叩きながらも辺りに散らばる本の中身を確認する。ページが破れていたり、何かを書き込んで黒ずんでいる個所もあるけど、綺麗なところから読み取って内容を繋げていく。

 本を読むのは嫌いではないからこういう作業は嫌いではない。ただ今回はあまり時間を取ってられないので理解はそこそこに、どんな内容の本なのかを読み取っていくんだけど。


「だいぶ、偏りがあるな」


 目につくところにあったのは、動物図鑑。それも森に生息する大型の動物ばかりを集めたもの。その隣には世界地図が広げてあり、さっきの動物図鑑を見ながら書き込んだのであろう、どこにどんな動物がいるのかが細かい文字で写されていた。

 そうかと思えば、次の山は全部魔法に関するものばかり。本を開こうとしたらインクか何かで張り付いてしまったようで、開くことが出来なかった。仕方ないから次の山を調べようと手を伸ばした時に聞こえたのは、ドサッという鈍い音と短い悲鳴。

 これだけ本が積み重なっている中で、何が起きたのかなんて、想像するまでもない。


「どっちだ?」

「ハルよ! 声を聞けば分かる、でしょう……」


 勢いのあった声がどんどんと小さくなっていく。何かあったのかと立ち上がって二人が調べていた反対側へと向かえば、倒れ込んだハルと、その足元で割れている握りこぶし大のガラス瓶。

 もう中身はなかったらしく敷かれた絨毯に染みを作ることはなかったが、その独特のデザインは見覚えがあった。


「その瓶、獣寄せに使うやつじゃないかい?」

「ああ、この形はそれにしか使わないし、少しだけど匂いが残ってる」


 ユリエスの言葉に慌ててハルが自分の足元からガラス瓶を回収して、自身の鼻先に近づける。どうやら覚えのある匂いだったらしく、間違いない、と呟いた。

 手に持っただけで違いが分かるようにわざと角ばったデザインにしているのは、回復薬なんかと間違えて使ったりしないようにするため、なんて話は聞いたことがある。実物を見るのはこれが初めてだ。

 ユリエスがこの瓶の事を知っているのは、畑を荒らす獣退治の依頼を受けたことがあるからかもしれないな。


「もしかして、それで獣が集まりやすくなって魔獣が増えていた?」

「それもあるかもしれないね」


 下の小屋には埃がたまっていたのに、ここはそれほどでもない。つまり、下は放置されていても、ここには出入りがあったって事だ。明らかに汚れている絨毯の上に積み重なっていたのに、本に汚れが移っていなかったのは後からそこに置いたから。

 そのときにこの瓶を置いていったのだとしたら、いろんな事の辻褄が合うんだよな。それがどれだけ前なのかは分からないけど。

 獣が増えてるなら、そこから魔獣の発生につながるっていうのは十分に考えられる。


「もうこの瓶には薬が残っていないし、いつからあったのかもハッキリとは分からない。

 一応これは回収していこう」


 割れた破片もすべて集めてハンカチに包む。本当に獣除けが入っていたかどうかも調べないといけないし。拾い忘れがないことを確認すると、ユリエスがしっかりとしまってくれた。



お読みいただきありがとうございます。


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