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どうやら俺が乙女ゲームのヒロインらしい  作者: 柚みつ
本編

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小休止

進むはずだったのに、一回休み。

 魔法陣がすべて明らかになったのを確認して、流していた魔力を止める。途端に感じるのは体に重石を乗せられたような疲労感。


「さすがに、ちょっと疲れたわ……」

「二人とも悪いけどちょっと時間もらえるかな?」


 ディオを休ませないと、なんて声が思ったよりも近くで聞こえて、顔を上げれば困ったように笑うユリエスと目が合った。



「その間に、さっきの説明でもしようか」


 初めは腰かけるだけのつもりだったんだけど、自分が自覚している以上に体は休息を求めていたようで、気が付けばベッドにごろりと寝転がっていた。

 それを見てもユリエスが何も言ってこないのは、まあ今はあっちが警戒してくれているから俺は素直に休んでおいていいって事だ。


「聞いても理解できるかは分からねえけどな」

「ハルは魔道具使うのもあまり得意じゃないものね」


 ユリエスが先に座ったから、残りの椅子は一脚。どっちが座るかで何やら言い合っていたが、ハルが立っていることを頑として譲らなかった。とっさの瞬発力は自分の方がある、とか何とか。


「まずは、ディオが使った魔法について。森の中を歩きながら使っていたのは探知、さっき魔法陣を見つけたのは透析。

 どっちも魔力を使った探知なんだけど、僕らはそうやって呼び分けている」

「違いは?」

「探知は単純に表面を見る、だからどこに何があるかは分かるけど、細かいところまでは分からない。

 透析は、それをもっと深く見るからそこにあるものの形なんかまで知ることが出来る」


 そこで一度言葉を切ったユリエスはどこに持っていたのか、二人の前にリンゴを出した。

 たぶん、森で見つけたんだとは思うんだけどいったいいつ採ってきたんだか。さすがにナイフまでは用意していなかったようだが、見かねたハルが差し出していた。


「つまり、探知だとこれはリンゴってところまでで、透析だと身がしっかり詰まった美味しいリンゴだって分かる。

 そういう感じかしら?」

「そうだね、そう思ってくれていいよ。透析は意識すれば使う側の見たいところが見えたりするんだけど、魔力も使うし負担もかかるからあまり使うことはないんだけどね」


 そう言っている間に四等分にしたリンゴをこちらへ放り投げてきた。種は落としてあったので、ありがたくそのままかじる。噛むとじんわり染み出す甘酸っぱさが、疲れた体に心地良い。適度な噛み応えもあり、あっという間に手の中から消えた。


「ユリエスがそういうなら難しいのね。上手く使えば治癒の役に立ちそうなのに」

「治癒の役って、どんな風に使うつもりなんだよ?」

「例えば、風邪でも喉が痛いとか、体が痛いとかいろいろあるでしょう?

 そういうのを見れたら、もっと早く治せるんじゃないかなって……」


 俺は光属性使えないし、治癒はほとんどユリエス任せだからあまりピンとこないけど、どうやら今の発言はユリエスの中の何かを刺激したようだ。


「セリ、この調査が終わったら一緒に来てほしいところがある」

「デートの誘いなら人目のないところでやれよ」

「ち、違っ……!」


 茶化した一言でようやく我に返ったらしい。ユリエスの発言を聞いて、ピシッと音がするように固まったハルも違うと分かったらしくゆるゆると息を吐いている。


「ごめん。治癒魔法の精度があげられるかもって思ったら、つい……」

「ふふ、そういうことならもちろんよ」


 ごめん、ともう一度頭を下げたユリエスがさっきの続きだけど、と切り出した。

 リンゴを口にしたのもあってさっきよりは楽になってきたけど、その話が終わるまでもう少しだけ寝転がったままでいさせてもらおう。


「魔法陣を見えるようにしたのは単純に言えば変化の解除」

「さっきまで詠唱なかったのに、今回唱えた理由は?」

「魔力の節約、かな」


 そこでユリエスが正解を求めるようにこちらを向いてきたので、体を起こして頷く。本調子とまではいかないけど、あまり休憩していられるわけじゃないし、この先を調べるくらいは大丈夫だろ。反動をつけて立ち上がり魔法陣のところに歩いていけば、三人も移動してキッチンへと集まった。


「細かいことはこの先学園で勉強するだろうから省くけど、魔法には何も詠唱が必須ってわけじゃない。

 要はイメージさえ明確にできていれば、使えるんだ」


 こんな風にね、と言ったユリエスが広げた手の上には小さな炎。おお、と歓声を上げる二人をの視線は炎に釘付けだ。ぎゅっと一度握り、そして開いた手からは、炎はなくなっていた。


「詠唱すると相手にどの魔法を使うか気づかれる反面、魔力の消費は少なくて済む。

 状況に応じて上手く使い分けができると便利だよ」


 今でこそ笑顔で平然と便利なんて一言で片づけているけど、習得するの大変だったんだよな、無詠唱。ま、こうして使えるようになったからあの時の怪我なんかは無駄じゃなかったって事だ。


「じゃあ、ディオが言ってた帰りは頼むってのは」

「ちょっとは回復したけど、全快じゃないからな。ここで一夜を明かすわけにはいかないだろ」


 ここまで放置されていたら考えづらいけど、持ち主が来ることも可能性としてないわけじゃない。帰り道は探知なんかもしないでまっすぐ帰るとはいえ、残された時間はあまり多くない。

 よし、と気を入れ替えてから魔法陣に魔力を通す。


「それじゃ、行くぞ」



お読みいただきありがとうございます。

お家でのんびり過ごしている方が多いのか、たくさんの方にお読みいただけて嬉しい限りです。

評価やブックマーク、ありがとうございます!

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