番外編・Happy New Year
まだ学園の任務よりも3年位前?
ユリエス視点にてお送りします。
「は? 今なんつった?」
「だから、ちょっと西の渓谷まで転移して」
「ふざけんな、あそこ行くのにどれだけ魔力使うと思ってる」
依頼されていた薬草の買い出しが終わって、報告をしている時に聞こえてきたのは馴染みのある声。カウンターから視線を上げれば、思い描いていた通りの人物が向き合って何かを言い争っていた。声が大きいわけでもないのに、そう聞こえるのは片方の口調がちょっとどころじゃなく荒れているからだろう。
「お疲れさま。何かあったのかい?」
「ユリエス」
とりあえず、どちらとも指名はせずに声をかける。先に反応したのは頼んでいた方、バランだ。魔法省には魔法を使うことよりも研究することを目的として来ているだけあって、依頼を受けるのは必要最低限。それだって他に頼める人がいないから仕方なく自分が出るというだけで、代われる人がいるならば依頼を出してその時間を研究に使いたいという根っからの学者体質。
「いいところに! まだ依頼は残ってる?」
「さっき報告したからひと段落した、けど」
「おいてめえ、ユリエス巻き込もうってんじゃねえだろうな」
バランががっしりと僕の肩を掴んだのを見て、頼まれていた方のディオから漏れる声はさっきよりも更にワントーン低くなった。名前を呼ばなくなっているあたり、これは結構苛立ってるなあ。
「仕方ないだろ、他に今から渓谷に行けそうな人は皆出払ってるんだから」
「西の渓谷って、何かの依頼?」
「今夜の花火に使う原料の採取」
「は?」
「新年を祝う花火、毎年上がるだろ? それの材料が足りなくなっちゃったそうでね。
僕の手持ちも出したんだけど、今回はいつもよりも盛大にするらしくて間に合わないんだ」
だから、今から採集に行けないかって職人も無茶だとは承知の上で魔法省に駆け込んできたらしい。
確かにもう日が傾き始めているし、材料を取ってきてもそこから花火に加工するのには時間がかかる。その辺も逆算すると使える時間は多く見積もっても二時間ってところか。
普段なら何人かで交代して転移をしていく場所なのに、今日は次から次に依頼が舞い込んできてるからバランもようやくディオを捕まえたんだろう。
「バラン。その原料はどんなんだ」
「星の光を溜め込んで、青く光る石。親指サイズを最低三つ」
「ああ、それなら僕分かるよ。青晶石だね」
僕の言葉を聞くが早いか、バランが僕から離れ、その代わりにディオの手が肩に置かれる。ディオは自分以外と転移するときに離れていてもやれない事はないらしいんだけど、体の一部がくっついていた方がやりやすいそうだ。僕はまだ転移できないからあまりその感覚は分からないんだけど。笑って手を振るバランに軽く手を振り返して、視界は白く染まった。
「まったく、素直じゃないんだから」
「誰がだよ」
「僕の目の前以外に誰かいる?」
クスクス笑いながら言えば、ふいと逸らされる視線。最初からどういう経緯でそれが必要なのかを説明しなかったバランも、言葉足らずだったとは思うけど。
「んで、その青晶石ってのはどの辺りにあるんだ?」
「星が良く見えるところにあることが多いかな、うっすらと青く光るから見つけるのは簡単なんだよ。
衝撃に弱いから、拾うときには気を付けて」
石自体は結構簡単に見つかるし、この渓谷までの道のりは整備されているから魔獣に襲われる心配もあまりない。だけど、衝撃にとても弱くて馬車の振動でも割れてしまうから移送するのにコストがかかる。だから流通する量もあまり多くはない。
ディオみたいに転移が出来ればその辺の問題は全部クリアになるんだけど。
「花火って、こんな材料で出来てんのな」
「色付けるのに、他にも何個か調合したりしてるらしいよ」
「一瞬で消えちまうのに」
「それでも、記憶には残る」
ぐるり、と渓谷を一周しながら青い光を拾っていく。振動を与えないように出来るだけゆっくりとした動作で拾っていくけど、どうしても何個かは割れてしまう。その中のひとつを空にかざせば、段々と紺色に染まり始めた空にも淡く光って存在を主張する、青。
「最後に、あそこのを採って終わりにしようか。これだけあれば間に合うと思うよ」
「……ああ」
そうして、三つと言わずに両手に乗るくらいの量を持ち帰り、職人にもバランにもとても感謝をされて僕たちは任務を終えた。
これから、新年までは緊急の呼び出しがない限りはお休みだ。
「ディオ、花火見に行かないかい?」
「いいけど、ユリエスは家に顔出さなくていいのか」
「本当は行かなきゃいけないんだけど、たまにはいいかなって」
後から何か言われるだろうけど、それよりも今日の花火はディオと見たいと思うんだ。
自分たちが集めてきた材料がどう使われるのかも気になるし。
「じゃあ、特等席行くか」
「え、ちょ……うわあ!」
二ッと笑うディオに手を掴まれたと思ったら、次の瞬間には王都が一望できる場所に立っていた。
「ここって」
「魔法省の屋上。前に師匠が内緒で出してくれたんだ」
それは、いつだったか聞いたことがある。花火の名前を知らないディオの為に、内緒で連れ出したんだと。その時の師匠の顔、今のディオと同じような笑顔だったな。何だか悔しいから、ディオには言わないけど。
「すげえな……」
「うん……」
言葉が出ないっていうのは、こういうことなのだと初めて知った。
暗い空を彩るのは、一面の青い花。そこから零れた光が地上に降り注いで消えていく。同じようにして打ち上げられた花火が、視界一面を埋め尽くしていくその景色は、光の洪水のようで。
今回は特に盛大にするとは聞いていたけど、今まで見たどの花火よりも華やかで、その中でも鮮やかな青い花は何よりも綺麗だった。
そうして、花火の終わりとともに上がる歓声。無事に、新年を迎えられたことの喜びがそこかしこに溢れている。
「今年もよろしくな、ユリエス」
「こちらこそよろしく。ディオ」
あけましておめでとうございます。
本年も、どうぞよろしくお願いいたします。
新年一発目の更新が、今までで最長なんだぜ…!




