番外編 聖なる夜に
メインは後半です。と言い張る。
あまりにも馴染みすぎたからか、最近はその事実を思うことなんてなかったけど。
元はと言えばこの世界は乙女ゲーム、なおかつイベント大好き日本人が製作しているのだ。
冬の寒さ厳しいこの季節、ないはずがないだろう。
そう、本日はクリスマスである。
「とは言っても、外に出るのはね」
「こんな中で遊びまわるのは子供たちだけで十分だよ」
ハイデルエルム魔法学園、その名の通り魔法に関してのあれこれを学ぶ場であり、一種の社交技術を身に付けるところとも言える。とはいえ、何も四六時中教科書とにらめっこをしたり薬品の調合をしたり自分の住み心地の良さを追求する薬草の世話をしているわけではない。
何事にも適度な休息は必要なので、年に二回は長期の休暇が与えられる。いわゆる夏休みと冬休み、学生にとっては恩恵ともいえる日々だがセリは前の生でそれを謳歌できる時期はとうに過ぎ去っており、通勤電車がいつもよりも空いていることで季節を感じていたのだが。
そして、なぜそれを唐突に思い出したのかというと学園の食堂、窓から見える景色が一面真っ白だったからであった。
「そうねえ、さすがにこの年になると構えちゃうわよね」
「セリ、年上の前でそれは禁句」
夏の休暇とは違い、ひと月もない冬の休暇は領地に帰る生徒はほとんどおらず、大抵が寮で過ごす。なので食堂もいつもとあまり変わらない量の食事を作るし、人数なんかも変わらない、はずだった。
料理長が、久しぶりの王都の雪で足を滑らせなければ。
「料理長、大丈夫かしら」
「あの人は体が頑丈なのが取り柄だよ。っと、これで終わりか」
「ありがとう、テッド」
「それはこっちのセリフ。さすがに今日はこの人数じゃ手が足りなくて」
医務院で治療は受けて本人は今日にでも復帰すると言っていたものの、食堂の料理人全員の意見は一致した。今日くらいは家で療養していてほしいと。
料理長は疎まれているわけではない。セリの手を借りるくらいなのだから、この食堂を切り盛りしてきたその手際がないのは痛手なのはここにいる料理人皆が感じている。だけど、今日はクリスマス。孫が生まれたというのに仕事柄なかなか会うことの出来ないおじいちゃんに、プレゼントとしてささやかな時間を贈ろう。そう言われるくらいには慕われている。足を滑らせたのは、本当に偶然だったのだが、タイミングは非常に良かった。
「じゃあこの潰したイモはオーブンに、あとは肉か」
「トマト煮込みは白身魚と鶏肉、両方用意出来たわよ」
「スープも出来てるぜー!」
「野菜もオッケーだ」
簡単なのに見栄えが良くなおかつ量が作れる料理が、どんどんと運ばれていく。
クリスマス、せっかくなら華やかな料理で楽しくやりたいじゃない、と言い出したのもセリなので自らも率先して調理に当たっているし、その手が休まることはない。
本来なら家族とお祝いをする日でもあるので、寮ならではの楽しみとして、今日の夕食はセルフで好きなものを好きなように取っていけるいわゆるビュッフェスタイルにした。
「それじゃあ、食堂開けてくる」
「お願いね」
いつもなら常に解放されている食堂、今日ばかりは準備のためにおやつの時間が終わった頃合いから一度閉めていた。そうして、今日の夕食は何かが違うらしいと耳にした生徒が開店待ちよろしく扉の前で待っていたのを見て、テッドは苦笑した。
「今日は好きなものを自分で取ってっていいよ。料理はちゃんとに補充するし、お代わりも自由。
ただし、自分が食べきれる量だけを取っていくこと」
説明は以上、とテッドが道を譲ると上がる感嘆の声。今までに見たこともないスタイルで提供される料理に、食べ盛りの生徒たちが興奮しないはずがない。何人かでまとまってきた女子はグループ同士で少しずつ分け合って味見をしたり、自分好みの料理だけを大皿で持っていったり、と思い思い楽しんでいるのを横目で確認した料理人たちは小さく拳を握る。
その喜びに浸る間は短く、次々と料理の補充をするべくいつも以上に動き回っているが、皆口元には笑みが浮かんでいる。
「お疲れさま」
「お疲れー、結局最後まで頼んじゃったね」
はい、と渡されたカップを中身も確認せずに口にしたテッドは、予想外に広がった甘さに目を丸くした。
「疲れてるだろうから、ココアにしたんだけど甘すぎた?」
「いや、ちょうどいい」
「それにしてもみんなよく食べたわよね。たくさん作ったのに、ほとんど残らなかったもの」
「初めてだったから、物珍しさもあったんじゃない? 殿下なんてとても楽しそうに選んでたし」
その時の様子を思い出したのか、テッドがクスクス笑ってカップに口をつける。それに倣うようにセリもココアの甘さを楽しむようにゆっくりと口に含み、どちらともなく窓の外、振り続ける雪に目をやった。
「この分だとまた積もるね」
「ホワイトクリスマスね」
「なにそれ?」
「雪が降って、白く染まるからホワイトクリスマス、よ」
たどたどしくホワイトクリスマス、と繰り返したテッドと二人、カップの中身がなくなるまで他愛もない会話を交わして合図したわけでもないのに同時に席を立つ。
「セリ。
メリーホワイトクリスマス」
「メリーホワイトクリスマス、テッド。
おやすみなさい」
きっと今日は素敵な夢が見られるだろう、そんな思いを胸にして部屋へと向かう。
願わくば、来年もこうして素敵な時間を過ごせるようにと。
夜更けに雪へと変わっていなければいいんですが…凍結怖い
今年はいつもと違う経験のクリスマスになりそうですが、素敵な日を過ごせますように!




