魔法省所属と伯爵令嬢
「スフィア伯爵令嬢とは、王都での任務中に知り合いまして。その時も興味深い話を聞かせていただきました」
「いいえ、素人の浅学にお付き合いいただきましたこと、ありがたく存じます」
「それはそれは。お二方にご迷惑とならなかったでしょうか」
とりあえず、とばかりに先に言葉にしたのはユリエスだ。あっちも俺たちの事を学園で会ったと言うつもりはないようで、主語をあえて濁しているが伯爵が不思議そうな顔もせずに笑顔でいるからまずは大丈夫だろう。知り合ったのは王都、で間違いはないからな。ただ範囲をすごく広く言っただけだ。
「迷惑だなんて。今もこのパイプをどう使うか、ぜひとも話を伺ってみたいと思っております」
「ラングート様の申し出とあれば、無下には出来ませんな。
私は先の者に明日以降の予定を話してきますので、どうぞごゆるりと」
そう言って伯爵は執事と共に部屋を出ていってしまう。一応扉は開けてあるし、外にメイドが控えているとはいえ、俺たちが彼女に何かするなんてことは考えなかったんだろうか。
「お父様なら、エイナ様の派遣してくれる方に間違いはない、って言っていたわよ」
「何かするつもりもないけど。ま、その信用はありがたく受け取っておくか」
「あら、もうよそ行きの言葉遣いはお終い?」
「……ご希望なら、このままで続けますが?」
よそ行き、と評されたのはある意味で正しい。真顔の淡々とした口調で話されると雰囲気も相まって怖いと皆一様に言うから変えた言葉遣い。今ではこっちの方が楽に話せるけど。
チラリ、と上目で様子を伺った彼女は、両腕で自分を抱きしめ、その腕をさすりながら寒い、と呟いた。
「冗談よ。その調子で話されたらこっちも疲れちゃう。
この距離なら大声でも出さない限り外のメイドには内容まで聞こえないもの」
「それは助かるな。学園の事はあまり知られたくないからね」
「なのに、顔は隠さずに来たわよね」
「セリがいなかったら隠していたさ」
今回は下手に隠して正体知らせないでいたほうが面倒くさくなるだろうと二人の判断が一致したから、あえて素顔のままで来た。言いふらすような性格じゃないって事を知っていたのも大きいけど。
「それで、魔獣の件は明日から実際に森を調べてみるけど、どう思う?」
「質問の答えは伯爵令嬢として? それとも、夢をお望みかしら」
「どっちでも。今は何でもいいから手がかりが欲しい」
どっちにしても俺たちのやることは変わらない。夢で見た内容の事を疑うわけでもないが、完全にその通りだとも言い切れないので実際に現場には行くし、調査もする。
ただ、事前に情報を持っているとこっちもやりやすいな、とは思っているけど。
「領主の娘としてなら、ここ最近の出現回数は確かに異常よ。わたしが手紙で聞いていた時よりも増えている。これ以上は領民の生活に確実に負担になるわ」
ハッキリと言い切るその姿は、学園生活の中では見なかったもの。なんだ、立派に領主の娘じゃねえか。
「夢の内容は、ちょっとだけ時間をちょうだい。明日の出立前までには何か、関連したものがないか探しておくから」
「そんなに思いつめた顔しなくても大丈夫だよ」
「なんたって、派遣されてきたの俺たちだからな。魔獣なんかに後れは取らねえさ」
ユリエスと二人、笑顔を向けるとさっきまで強張っていた顔からゆるゆると力が抜けていくのが分かった。彼女なりに緊張していたんだろう。そりゃあいきなり魔獣がこれだけ増えていたら無理もない。
「……そうよね、攻略対象大本命とヒロインだもんね。上手くいかないはずがないわ」
「ん、何て言った?」
「任せておけば安心だわ、って言ったのよ。
気が抜けたらお腹空いちゃった。二人はいかが?」
答えを聞くつもりなんてなかった早さで、備え付けのベルを鳴らす。静かに入ってきたメイドに軽食の用意を伝えると、そこからはもうただの雑談の場になった。
「で、あのパイプはどんな構造?」
「構造は詳しく分からないわ。わたしはこんなもの作れないかって職人に相談しただけだもの」
「それじゃあ動力は」
「それはね、地下の水場に魔石を取り付けてるの。お湯にするのにも使っているみたい」
思っていた以上にユリエスが食いついて、魔獣退治の後に時間を取ってもらえるように職人にも話をしてくれると、戻ってきた伯爵が約束をしてくれた。
この調子でいくとたぶん、魔獣退治自体はユリエスが張り切るだろうから割と早く終わるんだろうな、なんて思った俺はきっと間違っていないはずだ。
パイプはヨーロッパでよく見るセントラルヒーティングをイメージしています。
北海道にも増えているようで。あれ、部屋全体温かくなりますよねぇ。
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