今後の方針
案内された応接室は派手な装飾はないが、暖炉や断熱用に窓が二重になっていたりと寒さの厳しい北部らしい工夫が至る所に見える部屋だった。
そんな中で目立っているのが部屋の隅を走るパイプ。そこまで汚れはないし、最近つけたような感じがするのが尚更目を引く。用途が想像つかなくて、じっと見ていたら伯爵から声がかかった。
「これは試作なんです。娘が提案しまして」
「どのような使い方を?」
試作ならそりゃあ見たこともないのは無理ないわ。発案があの彼女なら夢で見た物なのかもしれないな。でも、普通は壁に埋めたりして見えなくするものなのに、なんでわざわざ壁の外にパイプをつける必要があったのかはちょっと興味がある。
「寒くなってきたらその中にお湯を通すんです。そうすると部屋も暖かくなるんですよ」
「へえ、それは面白い。ぜひとも彼女にも話を聞いてみたいものです」
ちゃっかりとユリエスが彼女と話していてもおかしくない状況を作り上げた。
実際にこれで本当に部屋が暖かくなるのかも興味はあるんだろう、ユリエスは寒いのあまり得意じゃないから。水属性と相性いいのに、水被って寒くなるからって魔法の練習しない時期があったくらいだし。
「もちろんです。身内びいきかもしれませんが、なかなか自由な発想をするもので」
「では、その時間をもらうためにまずはご依頼の件を片付けましょうか」
「では、こちらをご覧いただけますか」
伯爵の後ろに控えていた執事から渡されたのは、この辺りの地図。この屋敷を中心として周りの森の所々に日付と印がつけてあるのはおそらく。
「伯爵、この印は」
「お察しの通り、最近魔獣が現れた所です。ここは王都より離れた場所にありますので、住人達が魔獣を退治することも珍しくない。
ですが、ここ最近は数が増えてきまして、私たちだけでは手が足りないのです」
王都は魔獣も含め、獣が入って来られないようにぐるりと高い壁で囲われている。魔法学園の後ろにある森だって、人の手を入れてあるものだ。開かれた門には警備の番がいるし、王都に居れば魔獣なんかの被害はない。
だけど、こうして少し離れた場所にある町や村はそこまでの設備はない。ただ、そこまで魔獣が出ることも多くないから冒険者が常駐したり、王都から騎士の派遣をしたりで事足りるくらい。
実は魔法省に退治依頼は、ほとんどない。どちらかと言えば道中のサポート役を頼まれることは多いけど。
「確かに、この頻度で魔獣が現れるのは聞かないですね」
「森の中に何か異変は?」
これだけのペースで魔獣が出てくるんなら森の中に魔力の吹き溜まりがあったりとか、急に草木が枯れたとか、なんか変な兆候があってもおかしくない。それは、地元の住人に頼らないと俺たちでは気づけない。
ユリエスの言葉に頷く伯爵は、俺の質問にはわずかに首を傾げた。領主である伯爵にその辺の変化が報告されていない事はないだろうから、今のところ、そんな話が上がってきていないのかもしれない。
「住人からは特におかしなところはない、と聞いています」
「ではまずは森の調査をしたいと思います。
明日から始めたいのですが、森に詳しい人の同行は可能ですか」
「それでしたら、よく森で採集をしているのを一人つけましょう。
最低限、自分の身は守れる者です」
「それは助かります」
調査と言えど、魔獣に出くわさないとは言い切れないから、その申し出はありがたい。町の住人が対処できるようなレベルの魔獣なら後れを取ることはないだろうけど、万が一って事もあるからな。
「失礼いたします」
「……ああ、分かった。
お二方、娘を通してもよろしいでしょうか。先ほどクライン様とはお話しされていたご様子でしたが」
「ええ、もちろんです。彼女とは王都で知り合ったんですよ」
にっこりとユリエスが笑い、招き入れる許可を出す。王都で知り合ったのは本当だ、ただ場所の詳細を省いただけ。魔法学園に通っているっていったって、何も学園の中だけですべての生活が完結しているわけでもないのは伯爵だって分かっているだろう。
「お話の途中に申し訳ございません。改めまして、セリ・スフィアと申します」
学園で見せていた笑顔とは違い、控えめに笑うその姿はまさに伯爵家のご令嬢だった。
さてと、あっちも分かっちゃいると思うけど変なこと言われる前に俺たちとの関係、うまく伝えないとな。
お読みいただきありがとうございます。




