見慣れた人の見慣れない姿
「腕利きを送る、とエイナ様から言われておりましたが、なるほどラングート家の方でしたか」
「私どものような若輩が派遣されて思うところもおありでしょうが、ご容赦願います」
「いえ、その若さで魔法省におられるというのは腕が立つ証でしょう」
森を出て小さな町に着いたとき、俺たちを出迎えるように立っていたのは壮年の男性。
しっかりした体つき、深い水を思わせるような青い髪には白いものが混じり始めているが、髪色の合わせただろう紺色のベストを着こなすその姿は重ねてきた歳と知性を感じさせる。
どのような人物かと警戒したが口を開けば相手が誰であれ、容姿だけで見下すようなことはすることもなく。穏やかな口調ながらしっかりとした芯は持ち合わせている、そんな印象。
距離はそう長くもないから、と町の紹介や状況なんかを簡単に説明してもらいながらと歩いて屋敷へ向かう。
「来るだなんて聞いてないんだけど」
「俺たちだって急に言われたんだよ」
伯爵の相手はユリエスに任せ、一歩下がって歩いていたら寄ってきたのでこちらも言葉を返す。
休暇明けに話そうと思っていたのが休暇中になったところで対して変わりはしないんだけど、向こうにとっては予想外もいいところだろう。ま、俺たちも見知った魔力反応だったから下手に隠すよりは話が早いだろうと思って変装の類を一切していないけど。
「セリお姉ちゃん、その人お客さん?」
「ええ、そうよ。ご挨拶は?」
「こんにちはー!」
「おう、こんにちは。ちょっとの間よろしくな」
領主の娘だからなのか、顔は町の人に覚えられているようだ。大人は俺たちのローブを見て遠巻きに見てるだけだけど、そんなの知らない子供が何人か寄ってきては彼女に挨拶をしていく。
「ほらお前たち、あまり騒ぐとご迷惑になるだろう」
「構いませんよ、素直で元気な子供たちですね」
魔法省には俺より小さい奴なんてほとんどいないから、相手にする機会なんてめったにない。なのに、任務で行った先々で何故だか妙に子供に懐かれることがあった。ユリエスや別の奴と一緒に行っても、俺だけ。今でも理由が分からないけど、そのおかげで子供の扱いは何となく理解できた。
今も領主に怒られたわけじゃないけど、いけないことだとは分かった子供たちがしょんぼりしている。しゃがんでみれば、不貞腐れたようにほっぺを膨らませた子供がチラチラと俺の様子を伺っていた。
「後でまた来るから、そしたら話聞かせてくれるか」
「……うんっ!」
そのまま頭を何度か撫でてやれば、さっきまで不貞腐れていたのが嘘のように笑顔で走り去っていく。
その様子を領主とユリエスは微笑ましそうに見ていたが、隣にいた彼女だけは目を瞬かせていた。
「なんだよ、その顔」
「言葉遣いもだけど、意外だわ」
「こんなの誰だって出来るだろ」
ひと段落したのを見計らって再び歩き始めた領主たちに二歩ほど遅れてついて行く。
向こうから聞こえてくるのは魔獣の事ではなく、町の普段の様子や食べ物なんかのこと。屋敷に近づくにつれて少なくなっていくとは言え、まだすれ違う人はいる。
変に不安にさせることもないだろうから、領主があえてその話題を出さないようにしているだろう。
「こちらは王都よりも幾分涼しいでしょう」
「あの暑さには毎年苦労しますからね。この程度歩いただけでも汗が滲んでしまうでしょうし」
それに倣って、屋敷に着くまでの間は簡単な話だけをして過ごす。とは言っても、学園の事なんて話すわけにはいかないから、本当に簡単なことだけ。
「応接室の準備は整っておりますが、休憩なさいますか」
「いえ、先に話をお伺いしても?」
「畏まりました。それではご案内いたします」
執事なんかに案内を任せるかと思ったが、そのまま領主が先導するように歩き始めたのでそれについて行く。
学園から帰ってきたばかりの様子だった彼女は荷物を置いて、簡単に身だしなみを整えると自室に向かっていった。
さっき歩いている時に後で時間が欲しいとは伝えたし、きっと上手く話をする時間を作ってくれるだろ。まずは魔獣がどのくらい現れてるのかを聞かないとな。




