追加任務
「あー、こんなに笑ったのは久しぶりだ。やっぱりディオは興味深い」
眼鏡を外して目尻に溜まった涙を拭っているが、まだ堪えられないように時々口元を引きつらせているバラン。ユリエスは二度目だったからかもう落ち着いているように見えるが、あれで笑いの沸点は低いから何かあればまたすぐに笑い始めるだろう。
「これに関しては俺はただ普通に学生生活送ってるだけだ」
「普通の学生は殿下から呼び出しなんてされないわよ」
「呼び出されたのは一回、になるのか?」
食堂でユリエスに声をかけたのは俺じゃないから数えないとして、その後に側仕えだろうリアンに呼ばれたのは覚えがある。最も、その後も何だか学園内を移動するとその先に殿下がいて簡単な会話を交わす、なんてことはそろそろ両手じゃ足りなくなってきた。
「呼び出されたのはね。ディオの態度が変わらないのを面白がった殿下がわざわざ声をかけてるのは、数えない方がいいんだろう?」
「そんな事で声かけてきてたのかよ。学園にいる間はただの学生だって言ってたの本人だろうが」
「それでも、他の生徒や教師でさえ殿下の扱いは一線引いたものだよ」
殿下本人がそう言うし、学園の中では貴族も庶民もなく生徒として接するなんて事前に聞いていたからそうしていただけなのに。ウィードなんかは未だに固まるし、俺とユリエスがそこそこ砕けた態度で接していることに目を見開いているけど。
「それで、そのヒロインだって言ってきた女生徒、なんだっけ」
「セリ、スフィア伯爵令嬢だよ」
「スフィア、ね。今まであんまり聞いたことないけど最近はよく話に上がるな」
元々、任務で入学したとはいえこれほどまでの事に巻き込まれるとは思ってもいなかった。
それの原因のひとつであろう物が、セリによるヒロイン発言なんだけど。
「令嬢とは連絡を?」
「いや、この休暇は領地に帰ってやることがあると言っていたよ。休みが明けたら話をしようとは思っているけどね」
同じ科のユリエスは会話することもあるだろうけど、俺は合同の授業か、食事の時間が重なるかくらいでしか接点がない。ユリエス経由で話す時間を作るように働きかける事も出来るけど、そこまでの必要性も感じていなかったから向こうから接触してくる時くらいしか話さないんだけど。
顎に手をやって僅かに目線を下げる。あれはバランが何かを考えている時の癖だ。
「詳しい話を聞いた方がよさそうだな」
「セリからか?」
「授業態度は他の令嬢と何ら変わりないものよ、バラン。
でもあなたがそう言うのなら、何かしら思うところがあるのでしょう?」
薬草学の授業を受けている姿しか見ていないが、何人かの女子生徒と話しながら丁寧に進めているな、くらいの印象で特に何か変なところがあるとは思えなかったんだよな。
「ディオをヒロイン、そう定義するというのは、そうなることを知っていたという可能性が出てこないかい?」
「ああ、それなら死神の元で見たらしいぜ」
「なるほど、そういう」
それ自体は前にセリ本人から聞いていたことだから、伝えても構わないだろう。その時に内緒にするようには言われてないし。ただ、貴族の間なんかではあまりそれについては触れないよう、暗黙の了解というものがあるらしい事はユリエスから聞いた。
「夢を見たなら、今後の事も見ていないと言い切れないんだ。その令嬢とは連絡が取れるようにしておいた方がいい」
「そうね、今はどんな些細な情報だって欲しいもの」
「って言っても本人は今トーラスだからなあ」
「あら、トーラスなら行ったことあるじゃない」
スカーレットは簡単に言ってくれるが、それはつまり転移して行けって事だよな。確かに最近は今までみたいに魔力使ってないからちょっと持て余し気味なんだけど、それを俺がやるにはいろいろとサインと許可が必要になるし、正直面倒くさい。
「ディオ」
ぽん、と肩に置かれた手の主はユリエス。言葉にこそしないが、その顔には諦めろとはっきり書いてある。
俺だって分かっちゃいる。こうなったらスカーレットはともかく、バランは絶対に止まらない。普段動くことなんてほとんどないのに、興味があることに関しての動きは想像を超えた早さで済ましていることも。
「ちょうど学園だって長期で休みなんだろ。その間に任務、片してもらおうかな」
次回、出張です。




