魔法という力
「ここまでで手に入れた情報を繋ぎ合わせただけよ。
あながち間違ってはいないと思うけど」
「そうだね。この魔法省の中からたった一人の情報をこれだけ見つけたんだ。その時間と労力は素晴らしい」
今回みたいな暴発事故から、酒の席でのちょっとした悪ふざけと称される程度まで。魔法省には魔法が関係したものの書類が膨大にある。その中から一人の、しかも名前や位が違えば当然保管してある場所も変わるものをよくここまで見つけ出したものだとは思う。
バランもそれはもちろん分かっているから、まずはスカーレットのその費やした時間なんかに賞賛の言葉を送ったんだ。
「ただ、僕は気になることは徹底的に調べたくなる性質でね。
ダントン伯爵の悪夢の原因、闇属性の適性があるかどうか」
「伯爵の周囲を探ってもらうよう、兄に頼んでみるよ。僕よりも情報を集めやすいはずだ」
何個か気になっていることがあると示すように、バランの上げた指が一本ずつ増えていく。そうして確認するように上がった声、それに反応したのはユリエスだ。
普段はそんな素振り見せないのに、こういう時には家の権力を使うことを躊躇わない。だからこそ兄貴の事を含め、ユリエスが持ってくる情報は重宝される。貴族関係の話がほぼ正確に、しかも早く手に入るのは助かることが多い。魔法省に貴族がいないわけじゃないけど、一番高い爵位を授かっている家なのはユリエスだからな。
「それに、そんな過去を持つ人物が魔法学園にいる理由。僕はこれが一番興味深いね」
「魔法で人生が狂ったんだし、自分から関わりにいこうなんて思わないはずだ」
「目の前に、人生狂ったであろう人もいるけどね」
「俺にも一応あったぞ、選択肢」
貴族の子供がどういった教育をされてきたかを知っているから、それを放り出されたときに魔法さえなければと思わないはずがない。そう考えたユリエスの気持ちはもっともだ。
俺の場合は最初は生きるか死ぬか、それは自分で選んだわけじゃないから含めないけど。ある程度の制御が出来るようになってからこのまま過ごすか、どこか遠くの俺の事を知らない場所で暮らすか。どうしたいのかと師匠に提示されたことはあった。それがたぶん、俺の人生の最初で最大の選択肢。
魔法のことを恨むでもこんなのなかったら、とも思わなかったから今ここにいるんだけど。
「ブレアにその選択肢があったかどうかは知らないが、学園の教師には簡単になれるもんじゃない。その若さでなら尚更」
学園ほどの規模ではないが、庶民が文字書きを習う程度の大きさならいくつか存在する。ただ、だいたいその辺りの学校は身分によって入れる場所が変わってくる。
この国で唯一、魔法学園だけは貴族も庶民も入学できるし、在学中は身分の差なく扱われる。だからこそ教師には知識だけではなく、マナーやそのほか多くのものを求められる。
それが基準に満たなければ、スカーレットみたいに魔法省から派遣という形で教師を補うくらいだから学園側の判断も厳しいものなんだろう。
「魔法に関わっているのが、どういった理由なのかによってこっちの動きも変わってくるね」
「そればっかりは紙でなんて分からないものね。休暇明けにこちらで探りを入れてみるわ」
「そうそう、その学園の話だけど面白いことを耳に挟んでね」
バランが今まで見せていた真剣な表情を崩してにんまりとした笑みをこちらに向ける。なんだか、嫌な予感しかしないんだけど。
「ヒロイン、なんて呼ばれたらしいじゃないか。詳しく聞かせてくれないか」
ディオ、と呼ばれた声色だけで分かる。バランこれ絶対聞きたくてうずうずしていたな。
どこから漏れたのか、と残りの二人を送ればさっと絶妙に逸らされた視線。そのままじっと圧を込めて視線を送れば観念したのか、若干の汗を滲ませた顔をこちらに向けた。
「ま、魔法省に調べ物をしていたときに、ね。エイナ様に二人の様子を聞かれたものだから」
「だからって伝えるのがそこかよ」
耐えられなくなったのか、バランが腹を抱えて笑っている。それにつられたのか隣でユリエスまで笑い出した。
二人の笑いが落ち着くまでちょっと時間かかるだろうし、座りっぱなしで強張った体を解すとするか。
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