つなぎ合わせた過去
「闇属性を恐れたって、そんなに適性があったのか?」
「そこまでは分からないわ。離縁証明には理由は書かれていないし。
ただ、彼が離縁される一週間前に伯爵家である事故が起きてるの」
「事故、って」
魔法が関係している事故、事件は全て魔法省が管理している。そこから拾い集め、持ってきたスカーレットの情報は間違ってはいない。
そんな離縁されるような大事故になっているなら、起こした本人は魔法省で観察対象としていてもおかしくないんだけど。任務で学園に入学するって聞いた時に一通り教師なんかのリストはもらっている。そこに何も書かれていなかったっていうのはつまり、今までもそういう対象として見られていたことはないって事だ。
「ええ、家のある一角が突然爆発したそうよ。黒い靄が立ち上るその中心にいたのが、当時五歳だったブレア・ダントン。
当主含めて大きな怪我をした人はいなかったみたいだし、当時の取り調べでも魔法の暴発ではなく賊に荒らされた、と答えているから、ただの事故として処理された」
「なるほど、体面を重んじる貴族らしい。二十年前なら闇属性はそれだけで切り捨てる理由になる。
だから、手離したと」
眼鏡を押さえるバランの表情は見えないが、吐き捨てるように告げたその声色で分かる。俺だってあんまりいい気分のする話じゃない。ユリエスも顔をしかめているし、話しているスカーレットですらさっさと済ませようとしているようで早口になる。
闇属性が他の属性のように扱われるようになったのはまだ最近、と言えるくらい。
影に潜んだり、全てを飲み込む穴を作ったり。そのイメージだけで同じ魔法と扱ってもらえず、魔物の使いだと迫害されていた歴史がある。
段々と見直されてきてはいるが、未だに闇属性が扱えることを隠している、なんてことも少なくない。
俺だって使えることを知らせたのは師匠とユリエスだけ。
そのユリエスは一瞬チラリとこっちを見てから、手渡された紙に目線を落とす。
「賊に荒らされてることになっているのに、よくここに資料が残っていたね」
「調書を担当した書記官二人に、伯爵がお金を握らせて都合のいいように書かせたみたい。
けれど、一人が離縁された子供の事を不憫に思ったようで、しばらくしてからこっそりと残していたのよ」
調書を取った時に、子供の待遇まで話したとは考えづらい。その担当は、後から知ったのだろう。離縁証明まで出されて、伯爵家として約束された未来をなくしてしまった子供がどうなったのかを。
「男爵家に養子に出されてからどう扱われていたかは想像するしかないけれど、きっといい扱いはされていないでしょうね。
魔法を暴発させたことは知られていたはずだもの」
伯爵家を継ぐ者として育てられていたのに、たった一回魔法を暴発させただけで全てが変わってしまった子供。
伯爵家からの話だ、男爵家に断るという選択肢は存在しない。それが、厄介だと分かっていても。そうして引き取ってからもいつまた魔法が暴発するか、なんて分からないし、誰かに相談することすらできない。家人だって腫れ物のような扱いをしていただろう。
そんな環境で育ったなら魔法の事を疎んでいてもおかしくないのに、どうしてわざわざ魔法学園なんて自分の未来を奪った元凶のようなもんのところにいるのか。
「それで、闇属性についてなんだけど。
ダントン伯爵、最近よく相談に来るみたいなの。悪夢を見るってね」
「悪夢だけで闇属性っていうのも……」
眠っている相手に悪夢を見せる魔法は、実際にある。習熟度が高ければ相手を強制的に眠らせる事も出来るし、見る夢を操る事も出来る。意外と難しくて、目視できる範囲に相手がいないと思った通りの夢を見せるなんて出来ないんだけど。
「毎晩、同じ夢を見る。伯爵は夢の内容までは口にしないそうだけど、この間何かを呟いていたのを拾った子がいたの。
お前は、今でも……って」
「つまり、その悪夢を見せているのはその時の子供――ブレア・ダントン、今はベックフォードか。
その可能性が高いと、スカーレットは考えるんだね」
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