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どうやら俺が乙女ゲームのヒロインらしい  作者: 柚みつ
本編

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いざ、トーラス領へ

「任務って普通にただの任務じゃねえか」

「ディオはいったい何を想像していたんだい?」

「バランが適当に名前つけたんだろうなって」


 魔法省にいるということは、ある一定以上の水準で魔法を使いこなせる、ということなんだけど。それでもやっぱり実力差というものは存在する。俺の魔力量は生まれ持ったものとはいえ、どう頑張ってもその域に辿りつけない人がいるように。だから、魔法省の中でも個人的に頼みごとをすることも少なくない。だいたい、受付を通して任務、という形で処理をしているけど。


 いい笑顔のバランが持ってくる任務は、何度か受けたことがある。あいつだって普段研究ばかりであまり体を動かさないのに、実力は確かなものだ。それなのに動く時間を研究に使いたいから、と採集だったりそういう細々したものをよく頼まれていた。その分、成果に対してはしっかりと報酬を払うタイプだから魔法省の中の個人的な任務の中では珍しく人気なんだよな。


「今回はバランの個人的な任務じゃなさそうだ」

「いくらあいつでも魔獣呼び寄せるほど馬鹿じゃないだろ」


 研究の為ならどんな事でもやりそうに思われているのは、まあ自業自得な部分もあるけど、あいつだって越えてはいけない一線は弁えている。魔獣は魔力を必要以上に吸収した動物が変化した姿だけど、そうなってしまうとただの獣退治とは必要とする労力が桁違いになる。場合によっては死人が出るほどに。


「だから、こうして僕たちみたいのが駆り出されるんだけどね」

「あの辺りに魔獣が出たって報告は聞かないからな、中途半端なの送ったら二度手間だ」


 もちろん、魔獣を呼び寄せるなんて魔法は禁忌だし、痕跡だって見つかれば重い処罰は免れない。そんなリスクの高すぎる方法、バランは絶対に取らない。


「さて、こっちの準備は整ったよ。二人はどうだい」

「出来てるよ」

「俺も大丈夫だ」


 魔法省に所属していることを示す、黒いローブ。形は全員一緒で膝が隠れるくらいの長さだが、人によっては動きづらいからって横にスリット入れてたりする。俺たちはまだ他の人よりも体が小さめだからそれは入れてないが、ローブの下には動いた時に肌が露出しないように伸縮性のあるパンツを履いている。男性は大体これが基本。女性だとそのままローブの裾を足首まで長くしてもらう、なんてこともありらしい。


「しかし、いつ見てもその文様は素晴らしいよね」


 まじまじとバランが見つめる先は、俺の背中に飾りのように入れてある刺繍。魔力が外に出るのを抑え込む役割があるんだが、何も知らない人からすればただの細かい装飾にしか見えない。


「文様だけか?」

「いんや。それを背負って平然としているディオも含め、だよ」


 ローブの周りを覆うように全体に入れられた蔦が絡み合う刺繍は、ユリエスの着ているものにはない。ユリエス、というかほとんどの刺繍は袖口のところに飾り程度のものしか付いてない。

 ローブの装飾多いから、仮面で顔を隠さなくても俺だけは特定されやすいんだよな。だいたいユリエスと組んでいるから目立たないけど、他の人と組むと頭一つ分は身長差が出るからただでさえ分かりやすいのに。


「今回の任務は、王都から北部、トーラス領で発生しているという魔獣の調査。

 それに伴い、領民に危険があった場合は討伐も含まれる。状況を見て各自で動いて構わない」

「ユリエス・ラングート及びディオ・クライン。承ります」

「バラン・トレバーの許可の元、二名をトーラス領へと転移する。

 ……いってらっしゃい。無事に帰ってくるんだよ」


 いつもの表情の読めない笑顔を引っ込め、真剣な顔で声をかけてくれるバランに頷いて返し、床の転移陣に魔力を込める。二人分だからか、いつもよりもちょっと多めの魔力を消費した。その感覚さえなぜか懐かしくて無意識に口元が上がる。

 魔力を存分に吸収した陣が白く発光し、視界が白く塗りつぶされてから訪れるのは体が宙に浮く感覚。

 上手く発動したな、と感じたのは暑い盛りの季節なのに肌を撫でる風がさっきまでの温度とまるで違っていたからだ。


「うまくトーラスには来たと思うんだが」

「僕は初めてなんだよね、ちょっと歩いてみようか」


 前に来た時には村から町へと発展しかかっていた、そんな感じだったんだけどさすがにその中心に転移したら住人が混乱するだけだろうし。そう思って少し外れた場所を転移先に選んだんだけど、ぐるりと見渡してみても、埋め尽くすのは良く育った緑だけ。

 これなら顔を隠す必要なんてないだろう、と持っていた仮面をローブのポケットにしまう。


「人の気配がする方に行ってみるか」

「そうだね、依頼してきたトーラスの領主には話が通ってるはずだ」


 領主直々に依頼してきたのか。それは割と切羽詰まった状況なんじゃないかと思うんだけど。

 とりあえず、この緑の森を抜けて人のいるところに行かないと話も聞けないな。


お読みいただきありがとうございます!

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