手がかり、そして
「や、やっと見つけたわ……」
スイサイはバラン個人で使っている研究室に置いてあるそうで、そこに向かおうと移動を始めた時に背中からかけられた声。
振り向けば肩を上下させ、息を切らしているスカーレットの姿があった。やっと、と言うことは俺たちの事を探していたんだろう。
「おやスカーレットじゃないか。誰に用事だい?」
「バラン、あなた分かって言ってきているでしょう」
「何事にも確認は大事だよ」
スカーレットの今の任務と、俺たちの状況を知っていれば誰に用があるのかなんて分かりきっているのに、バランはあえてそれを問いかける。
分かっていると思い込んで物事を進めるのは、研究者として視野を狭めるだけだ、なんて前に言っていたのを聞いたこともあるけどバランの場合は性格も大いに関係していると思う。
「ディオとユリエス、あなたたちに頼まれていた調べ物の件で」
「そうか、ではその話は僕の部屋に行ってからじっくりと聞くとしよう」
「ちょっとバラン、あなたはこの件に関わってないでしょう!」
スカーレットの背に手を回し、自分の部屋へと向かおうとするバランを止めようかとも思ったが、スイサイの事もある。どのみちスカーレットにも話を聞いておきたかったから、一緒に来てもらった方が早いだろう。
「いや、アリス先生にも一緒に話を聞いてほしい」
「ふむ。学園ではそちらなんだね」
「当たり前でしょう。通り名は魔法省の中でだけよ。
分かったわ。生徒の頼みなら断れないわね」
そうして俺とユリエスを見たスカーレットの顔は、学園で見たアリス先生のものだった。バランに引きずられるように連れていかれた時には、もうスカーレットだったけど。
「俺たちも行くか」
「そうだね」
俺たちは使っていないが、任務中に通り名を使っているのは大体半分くらい。同じ名前だったり、名前を知られることを嫌ったりなど理由はあるが、スカーレットの場合は前者だった。もう引退して魔法省にはいないが、今更アリスを名乗るのも、と本人が言うのでそのまま。一緒に任務をこなして、隣に立っているのに名前を知らない、なんてこともあるが別に今まで困ったことはない。
「それで、スイサイがあるのね」
連れてこられたはいいが、バランが使っている部屋は、実験できるスペースをかろうじて確保したといった有様だった。四人も座れる場所はなくまずは片付けから、と思ったのにバランが適当に物を端に動かしただけで座り込んでしまい、それ以上何かを動かそうものなら実験に差し支える、と言われてしまえば動く事も出来ず。
「簡単に説明するならそういうことだ。魔力操作の訓練だって言っておいて実際は魔力を溜め込むように指導していたとしたら。
彼女が倒れたのが魔力切れだった事にも納得がいく」
「そうね。それに関しては学園側で調べているから、分かり次第」
魔力切れが魔法使いである以上、切っても切り離せない事であるのは間違いないんだが、それがまだ未熟な学生だったっていうのが問題なわけだ。スカーレットがあの後シャーロット先生に確認したところ、魔力切れの説明や、実際に体験することは授業で想定していたがそれは教師が目の前にいて、何か不測の事態が起きても対処できるよう十分な体制を整えてからだ、と。
ダニーの話から推測するだけだが、ヴィオレッタ嬢は自分の体力にそれなりに自信があるか、もしくは期待に応えようとするタイプ。だとすると教師から特別に個人で声をかけられれば全力でそれに応えようとするだろう。
「それで、スカーレット。僕たちが頼んでいたことだけど」
「そうよ。こっちが本題。
やっと見つけたのよ、手がかり」
スカーレットが差し出してきたのは、何枚かの紙。ユリエスが受け取って小さな文字に目を通していく。青い目が右から左へと動くその速度は一定を保っていたが、ある一点で動きが止まった。まじまじと見つめ、それから短い溜息。
「これ、良く見つけられたね」
「この何週間か、学園と魔法省の往復よ。でも成果はあったわ」
にんまりと笑うスカーレットが、別の紙を三人が見えるように広げていく。どれを見ればいいのかざっと視線を巡らせるが、隣のユリエスが指で示したところに書いてあったのは。
「ダントン家からの離縁証明……?」
「今の名前は、ブレア・ベックフォード。
彼、伯爵家から養子に出されてるのよ」
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