掴み取ったのは、
目を瞑って自分の魔力の流れを整えることだけに集中、しようとしてもさっきの言葉が、叫び声が耳の奥にこびりついているような気がして。
自分で決めて受け入れていたのに、とうの昔に覚悟していたはずだったのに。
一瞬、バケモノと俺を呼ぶその姿があいつらと重なって――
「ははっ、」
思わず、漏れた笑いの意味は自分が良く分かっている。
何者でもないただのディオと笑いあってくれるあいつらに、バケモノだと思われたくないだなんて。
「それにしてもディオ、よく二つも制御つけてられるね」
「……一つは、ただの飾りだ」
バランの問いかけに応えれば、ユリエスまで驚いた顔でこちらを見ていた。
ああ、そうだ。これは師匠以外には知ってる奴がいなかったんだ。ユリエスにはいつか伝えようと思っていたのに、タイミングを逃してここまで来てしまった。
「俺だってさすがに二つもつけたら、どうなるか分からないからな。
ただ、王宮の連中を黙らせるには目に見えるもの、があるのが一番だから」
王宮にいる魔法使い誰もが、こんな小さなピアス手に乗せるだけで簡単な魔法さえも発動できなくなるような物を二つ。目の前で身に付ければ俺の事を幽閉だなんだって騒いでいた声は、魔法省で上手く使うように、と道具を見るような目つきで告げた。
「師匠はそれを見越して、わざと一つは良く似せた、ただの飾りにしたんだよ」
「なるほど、エイナ様らしい」
頷くバランの隣で、その時の様子を想像でもしていたのかユリエスは眉間に皺を刻んでいた。過去の事だから何を言ってもしょうがないと思っているけど、あれは今後何かあれば間違いなく小言が飛んでくるな。
そんな面白くもなんともない昔話をしているうちに、だいぶ落ち着いてきたようだ。倒れ込んで仰向きに寝かされていた体勢から起き上がり、ソファーに背中を預けて深く座り直す。
まだ少しだけふらつくけど、動けないほどじゃない。それでも飲み物に伸ばした手は少しだけ震えていて、察したユリエスが渡してくれたけど、うまく掴めずに手が何度か空を切る。
「ディオ、やっぱり無茶したんじゃないか」
「師匠には言うな、って感知してるよなあ」
俺たちは師匠の居場所までは感知できないけど、師匠は俺たちの魔力を探って居場所を特定することくらい、簡単にしてみせる。
冗談かと思っていたけど、実際に王都全域を使ってのかくれんぼをした時にどれだけ隠れても見つけられた経験があるから本当なんだと思う。結局一度も師匠に勝てたことはないのがちょっとだけ悔しかったりするんだが。
「彼らには僕の方から注意を入れておこう」
「いいって、魔法省のバケモノがこの程度って思われたくねえし。
それに、今頃ジジイに捕まってるだろうよ」
俺の事をバケモノだと感じている奴らがいるのと同じように、認めてくれている人たちもいる。
今、俺が年齢の割にそこそこの地位にいることを、生まれ持った魔力に胡坐をかいているだけではないって事を知っているんだから、もちろん魔法省の中でも古参と呼ばれる人たちだ。
その中の一人がいたんだよな、あの場に。
「ディオの言うジジイって、ライアス様の事だよね」
「何回言っても直らないんだ。本人目の前にしてもそう呼ぶし」
バランはあの人をそんな呼び方するなんて、って呆然としているけどそう呼べって言ってきたのはあっちからだからな。
もう何年前になるかも覚えてないけど、さすがに俺もまずいと思って呼んだんだよ、ライアス様って。そうしたら本人から気持ち悪いだの何だの好き放題言われたわ。
「いいんだよ、ジジイがそう呼べって言ってるんだから」
鍛えた筋肉、褐色に焼けた肌。おおよそ魔法使いとは見えないうえに、魔法よりも手が出る方が早くて一部の奴らからは恐怖の対象としか見られていないのに。
口喧嘩をしている時の様子が孫と爺さんのやり取りにしか見えないと師匠に言われてから。
ジジイ、と呼ぶとほんのわずかだけど目元を緩ませることに気づいたから。
「ともかく、ライアス様があそこにいたなら僕たちから何も言うことはないね」
「ああ、せめて彼らの仕事が回ってこない事だけを願おうか」
俺たちには回ってこないだろうけど、他の奴らにしわ寄せが行くんだろうな。
これを機にちょっと考えてから発言するようになって欲しいもんだ。
お読みいただきありがとうございます。
サブタイも含め、名づけのセンスが欲しい。切に。
どこで買えますかね…?




