実験の結果
「まあ、見てもらった方が早い」
そう言って移動を始めた師匠について行けば、向かっていくのは魔法省の中でも奥にあり、なおかつ許可した人しか入れないエリア。俺もここに入るのはずいぶんと久しぶりだ。
「ここにあるのか、さっきの」
「そうだよ。今はリーンに管理を任せてる」
限られた人しか入っていないはずだから、名前を出しても何の問題もないとは思うんだけど一応伏せる。ここにあるって事は師匠と、あと何人が知っているかって位には公に出来ない話題だからな。でも、まあ話が通じたから良しとするか。それよりもユリエスがちょいちょい視線を彷徨わせているのが気になった。
「ディオ、ここには来たことが?」
だいぶ奥まで進んで、ユリエスの視線も落ち着いてきたときに投げられた問い。俺よりも早く答えたのは師匠だった。
「ああ、ユリエスは初めてだったね。ディオはあの時振りか」
「そうだな。あんまり覚えちゃいないけど」
「あまり周りは見せないようにしていたからね」
そういや、あの時の師匠はやけに早足で、俺は初めて来た場所で置いていかれないようについて行くのに精一杯だったな、と思い出す。そんなんだったからもちろん、周りを見る余裕なんてなかった。
自分で決めたことだとは言え多少の不安はもちろんあったし、師匠がこれを良しと思っていない事も分かっていた。だから俺に対して苛立っているんだと、そう思っていたんだけど。
相も変わらず分かりづらい表現をするよな。心配、されていたんだなんて、何年も経って気づくくらいに。
「あの時っていうのは、もしかして」
「そう。クラインの姓をつけた時だよ」
ユリエスはあからさまに引きつった顔をして、何かを言いかけたのにそれは結局音として形作られることはなく。師匠も自分から話題を提供する気はないらしく、そこからは無言で進む。
そうしてたどり着いた先の扉を開けると、あの時のようにたくさんの大人が待ち構えている――なんてことはなく、待っていたのは鮮やかなオレンジ色の髪を耳の後ろで二つに結んだ女性。そしてその姿を埋め尽くすように溢れる白い塊。扉を開けた音で気づいたのだろう、白の塊を小分けにしていた手を止め、こちらを振り返る。
「あ、エイナ様! ディオたちも来たのね」
「リーン、久しぶり」
「あら、ユリエスはちょっと見ない間にまた格好良くなっちゃって。
ディオは……相変わらずみたいね」
「毎回思うけど、お前本当にユリエスのこと好きだよな」
顔を合わせるたびに同じことを言われ続けていれば、この後の返しだってもう覚えてしまった。
だからこれは、彼女独特の挨拶だと思うことにしている。
「そりゃそうよ。どうせ仕事するならいい男と、ね」
「ありがとう、リーン」
リーン曰く、毎回律儀にこうしてお礼を言うユリエスはそれだけでポイントが高いらしい。何のポイントなのかは聞いてないが、まあ想像通りだろう。
これで後方支援は何でもお任せ、なんだから仕事は出来るんだよな。人を見る目と周囲の状況把握は他の奴らより群を抜いている。それをお茶会やら夜会で発揮してしまってなかなかいい男を捕まえられないと嘆いている、というのは本人しか知らない事になっているが魔法省共通の認識。
酒は人を狂わせる、なんて誰が言いだしたか知らないけど、リーンにとっては大当たりだろ。
「ところでディオ、あの時水に込めた魔力は何属性だったかな」
「そりゃ水に流すんだから水属性……」
リーンとやり取りしている間に白い塊に向き合っていた師匠が、クルリとこちらを向く。
特に指定はされなかったし、水に流して使うんだから属性同じ方が何にしても反発少ないだろう、と大した考えもなく魔力を込めたんだけど。
「見事なものだね。これ全部スイサイ?」
「元々増えやすい花なんだけど、さすがにこれはねー」
近づいてみて分かった。部屋の半分ほどを占領している白い塊、これ全部スイサイの花だ。
これ、俺が魔力込めた水で育った分って事か?
あの時、種が手のひらに乗るくらいだったからそれなら、と桶一杯分に魔力を込めた。あの種の量ならこれで十分だろう、と思ったんだけど、これは流石に育ちすぎだろう。
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